第9話「受け取らない人」
九四番は、すぐ見つかった。
《九四番/東二番街・共同工房》
《受取人 南雲》
《十二時十分まで》
ぱむちゃんが現れたとき、南雲は入口にいた。
本人だった。
名札も合っている。
配送票も合っている。
至誠ちゃんが端末越しに確認する。
「九四番! 受取人、南雲さん! 注文記録もあります!」
ぱむちゃんは紙袋を差し出した。
南雲は見た。
「……いらない」
ぱむちゃんの手が止まった。
「受け取らない」
紙袋は、渡らなかった。
◇
工房の奥では、木を削る音がしていた。
南雲は入口の横に座る。
ぱむちゃんも少し離れて座った。
紙袋は膝の前。
至誠ちゃんが来る。
「注文記録、確認しました!」
端末を見せる。
《注文者 南雲》
《商品 ダブルチーズバーガー》
《受取場所 東二番街・共同工房》
「全部一致しています!」
南雲は端末を見た。
「俺が頼んだ」
「はい!」
「でも、今はいらない」
至誠ちゃんが一度口を閉じた。
「理由を確認してもいいですか!」
「腹が減ってたから頼んだ。それだけ」
南雲は工房の奥を見る。
「さっき、仕事で失敗した。今は食う気しない」
至誠ちゃんは紙袋を見る。
「商品に問題はありません!」
「分かってる」
「注文記録も正常です!」
「分かってる」
「受取人も本人です!」
「それも分かってる」
南雲はぱむちゃんを見る。
「でも、受け取らない」
ぱむちゃんは紙袋を差し出さなかった。
◇
十二時三分。
工房の中から誰かが顔を出した。
「南雲、昼くらい食えよ」
「あとで」
「冷めるぞ」
「いい」
その人がぱむちゃんを見る。
「置いとけば?」
ぱむちゃんは紙袋を抱え直した。
置かない。
南雲も何も言わない。
十二時六分。
至誠ちゃんが時計を見る。
「あと四分です!」
ぱむちゃんは南雲を見る。
南雲は作業台を見る。
紙袋を見る。
また目を逸らした。
十二時八分。
ぱむちゃんは一度立った。
南雲の前まで行く。
紙袋を持ち上げる。
南雲は首を振った。
「ごめん。受け取らない」
ぱむちゃんは下ろした。
それ以上、近づかなかった。
◇
十二時十分。
至誠ちゃんが端末を開いた。
昨日と同じ《完了》ではない欄。
「時間です!」
ぱむちゃんは配送票を見る。
南雲を見る。
南雲はそこにいる。
いなくなってはいない。
住所も違わない。
注文も消えていない。
ただ、受け取らない。
ぱむちゃんは紙袋を持った。
店へ戻る向きに体を向けた。
南雲が言う。
「……悪い」
ぱむちゃんは振り返った。
ぱむ。
それだけ鳴いて、歩き出した。
◇
帰りは一瞬ではなかった。
ぱむちゃんは至誠ちゃんと並んで歩いた。
紙袋はまだある。
至誠ちゃんはしばらく黙っていた。
店が見えてから言う。
「昨日は、受取人がいませんでした!」
ぱむちゃんが見る。
「今日は、いました!」
ぱむ。
「でも、受領はありませんでした!」
ぱむちゃんは紙袋を見る。
至誠ちゃんも見る。
「……本人が受け取らないなら、完了にはできません!」
配送ステーション。
端末。
《九四番》
《持戻り》
《理由 受取拒否》
ぱむちゃんは昨日の記録を見る。
《理由 受取人不在》
その下に、今日の一行が増えた。
《理由 受取拒否》
至誠ちゃんは完了数を一件増やさなかった。
ぱむちゃんも紙袋を押し戻さなかった。
受け取る手がないことと、
受け取る手が閉じていることは、
同じ《未完了》になった。
でも、同じ理由ではなかった。




