第7話「いちばん速い配送係」
八九番は、海の向こうだった。
《八九番/沖合観測塔》
《受取人 気象班》
至誠ちゃんが配送票を二度見した。
「定期船は、もう出ています!」
港のさらに向こう。水平線の上に、針みたいな塔が立っている。
ぱむちゃんは紙袋を持った。
「……お願いします!」
ぱむ。
上バンズに深緑のハーブ点。
具材を赤い一本線が走り、小さな配送タグが下がる。
窓の外が横へ流れた。
次の瞬間、配送ステーションにぱむちゃんはいなかった。
◇
沖合観測塔。
気象班の男が風速計を見ていた。
背後で、ぱむ。
「うわっ」
振り返る。ぱむちゃんがいる。紙袋もある。
「船は?」
ぱむちゃんは海を見る。船はいない。
受取票。八九番。
男は笑いながら受け取った。
「これ、昼飯諦めてたんだけど」
受領印。
◇
九〇番は地下だった。
《第七地下貯水槽/点検班》
通常経路は三つの昇降機と二つの検査扉。
「お願いします!」
ぱむ!
赤い線。消える。
地下七層。
点検班の女性が工具箱を開いたところへ、ぱむちゃんが立っていた。
「どこから入ったの?」
ぱむちゃんは上を指した。
「そこ、天井だけど」
ぱむ。
受領印。
◇
九一番。
《北外縁・移動診療車》
住所が動いていた。
「北外縁、第三環状路を走行中!」
ぱむちゃんは受取人欄を確認し、紙袋を持つ。
ぱむ!
◇
走る診療車。
医師が地図を見ていた。
後部座席から、ぱむ。
「え?」
ぱむちゃんが座っている。紙袋は水平。
「……次の停車地、まだ十二キロ先なんだけど」
医師は受取票を見て笑った。
「助かる。朝から何も食べてない」
受領印。
◇
昼を過ぎるころには、配送ステーションの前に人が増えていた。
「沖合も行けるんですか」
「地下七層も?」
「動いてる車でも?」
三枚の記録。
《八九番 完了》
《九〇番 完了》
《九一番 完了》
どれも数分ではない。数秒だった。
「いちばん速い配送係じゃない?」
ぱむちゃんが跳ねた。
ぱむ!
至誠ちゃんも笑った。
「本日の三件、全部成功です!」
配送台の脇に新しい紙が貼られた。
《遠距離便 相談可》
その向こうで依頼票が一枚増えた。もう一枚。さらに一枚。
◇
午後。
九二番は閉鎖中の展望区画だった。
入口は封鎖。中には保守員が一人いる。
「作業終了まで外へ出られません! でも本人は内部にいます!」
ぱむちゃんは紙袋を持った。
赤い線。
消える。
展望区画の内側。
保守員が目を丸くする。
「……届けられるんだ」
受取票。受領印。
「ありがとう」
帰りも一瞬だった。
配送ステーションへ戻ると、今度は拍手が起きた。
ぱむちゃんは止まった。
人を見る。至誠ちゃんを見る。配送台を見る。
朝より多い紙袋が並んでいる。
一番手前の札を確認する。
持つ。
ぱむ!
拍手がもう一度起きた。
至誠ちゃんは依頼票の束を整えながら、少しだけ手を止めた。
壁の《遠距離便 相談可》を見る。
その下に、誰かが鉛筆で書き足していた。
《ぱむちゃん便》
至誠ちゃんは消さなかった。
その日、距離は配送の問題ではなくなった。
代わりに、ぱむちゃんへ届く依頼の数が問題になり始めた。




