↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/100

第6話「続き、お願いします」


 八八番は、川向こうだった。


《八八番/旧水門管理所》

《受取人 水門整備班》

《十五時まで》


 昼過ぎ。


 至誠ちゃんは配送票を確認した。


「通常経路で十二分! 橋を渡れば着きます!」


 ぱむちゃんは受取人欄を見る。


 次に時計。


 それから紙袋を持った。


 ぱむ。


「お願いします!」


 至誠ちゃんは今日は指ささなかった。


 ◇


 橋の手前で、警報が鳴った。


 低い音。


 橋の中央にある遮断棒が下りる。


《点検通行止》


 向こう岸は見えていた。


 管理所も見えている。


 歩けば三分。


 行けない。


 ぱむちゃんは遮断棒の前で止まった。


 川沿いの迂回路を見る。


 工事柵。


 反対側は資材車で塞がれている。


 至誠ちゃんが後ろから来た。


「橋の点検予定は十六時からでした!」


 端末を確認する。


「臨時点検です! 通行再開は十五時十分予定!」


 時計は十四時四十七分。


 受取期限は十五時。


 至誠ちゃんは紙袋へ手を伸ばしかけた。


 止めた。


「私が持てば、たぶん間に合わせられます!」


 ぱむちゃんが至誠ちゃんを見る。


 紙袋を見る。


 至誠ちゃんも見る。


 手を引いた。


「でも、これはぱむちゃんの配送です!」


 遮断棒の脇に、作業員用の小さな門がある。


 電子錠。


《関係者以外使用不可》


 至誠ちゃんは自分の配送証を当てた。


 赤い灯り。


「単独通行は不可。点検責任者の承認が必要です!」


 無線を取る。


 名前を名乗る。


 荷物。

 受取先。

 通行理由。


 一つずつ伝える。


 橋の向こうで作業員がこちらを見る。


 返事。


 電子錠が緑に変わった。


 門が開く。


 至誠ちゃんなら、そのまま袋を受け取って走れた。


 でも受け取らない。


 開いた門の横へ下がる。


「続き、お願いします!」


 ぱむちゃんは紙袋を抱え直した。


 ぱむ!


 一歩。


 門を通る。


 ◇


 その瞬間だった。


 金色の上バンズに、深緑のハーブ点が浮いた。


 重なっていたパティが、水平な厚い一層へ揃う。


 赤いソースが具材の間を、一本の経路みたいにまっすぐ走った。


 チーズの端が小さな封印シールの形へ折れ、脇に配送タグが下がる。


 何かに変身したわけではない。


 ぱむちゃんは、ぱむちゃんのままだった。


 ただ、背景だけが流れた。


 橋の床。


 欄干。


 川面。


 全部が細長く後ろへ伸びる。


 至誠ちゃんが目を見開く。


「え」


 次の瞬間。


 ぱむちゃんは向こう岸にいた。


 紙袋は傾いていない。


 封もそのまま。


 至誠ちゃんはまだ門の横にいる。


 橋の中央では、点検員が工具を持ったまま止まっていた。


 ◇


 旧水門管理所。


 整備班の二人が外で部品を洗っていた。


 ぱむちゃんが現れる。


 一人が時計を見る。


「もう来た?」


 十四時四十八分。


 受取票。


 八八番。


 整備班。


 ぱむちゃんは紙袋を差し出す。


 受け取る手。


 受領印。


《八八番 配送完了》


「助かった。十五時から水門を止めるから、その前に食べたかったんだ」


 もう一人が袋を開く。


「橋、止まってただろ」


 ぱむちゃんは川向こうを見る。


 至誠ちゃんが、まだ橋の入口にいる。


 ぱむちゃんは一度跳ねた。


 ぱむ!


 ◇


 帰りは、普通だった。


 点検が一時解除されるまで待つ。


 十五時十二分。


 橋を歩く。


 至誠ちゃんが向こうから来る。


「無事ですね!」


 ぱむちゃんの上バンズは、いつもの色に戻っている。


 配送タグもない。


 至誠ちゃんは周囲を見る。


 ぱむちゃんを見る。


 もう一度見る。


「今のは……」


 言いかけて止めた。


 ぱむちゃんは何も答えない。


 至誠ちゃんも、答えを決めなかった。


 ◇


 店へ戻る。


 配送記録。


《出発 十四時三十五分》

《橋通行停止 十四時四十七分》

《受領 十四時四十八分》


 通常なら成立しない。


 至誠ちゃんは記録を消さなかった。


「荷物正常! 受取人正常! 受領も正常!」


 少し考える。


「移動だけ、確認不能です!」


 ぱむちゃんは記録より、至誠ちゃんを見る。


 至誠ちゃんは開いた門の映像を見ていた。


 自分が袋を取らずに下がったところ。


「……私が運んだ方が速いと思いました」


 ぱむちゃんは動かない。


「でも、お願いしたのは私です!」


 至誠ちゃんは配送台に次の紙袋を置いた。


 指ささない。


 触らない。


 少しだけ横へ下がる。


「次も、続きからお願いします!」


 ぱむちゃんは紙袋の札を見る。


 受取人を見る。


 時計を見る。


 それから持った。


 ぱむ。


 今度は、何も光らなかった。


 それでも至誠ちゃんは、袋を取り返さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。