第5話「あと三十秒」
夕方のベルが鳴った。
《八七番/西資料館・搬入口》
《受取期限 十八時》
十七時五十五分。
紙袋にはバーガーが三つ。
夜間補修班の夕食。
至誠ちゃんが通常経路を確認する。
「四分です!」
黄昏ちゃんは沈みかけた光を見た。
「最後の一瞬って、案外長いんだよ」
ぱむちゃんは期限を確認した。
受取人。
搬入口。
十八時。
紙袋を持つ。
ぱむ!
◇
西通りは、帰宅する人で埋まっていた。
十七時五十七分。
前で自転車が倒れる。
籠から書類が散った。
ぱむちゃんは植木鉢の脇へ寄った。
急げば、紙を踏む。
車道へ出れば、もっと速い。
どちらにも行かない。
持ち主と通行人が紙を拾う。
道が開く。
黄昏ちゃんは時計を見ない。
「まだ今はある」
青信号。
二人は渡った。
◇
西資料館。
正面はすでに閉館。
ぱむちゃんは壁沿いに搬入口へ回った。
十七時五十九分。
金属扉が下り始めている。
「本日の受け入れは終了です」
警備員が言った。
ぱむちゃんは八七番を掲げる。
「ああ、補修班の夕食か」
警備員は扉を止めた。
「責任者を呼びます」
奥へ声を飛ばす。
返事。
足音。
作業着の女性が走ってきた。
右手に鍵束。
左手に点検表。
「八七番、私です」
黄昏ちゃんが初めて時計を見る。
「あと三十秒」
女性が片手を伸ばした。
ぱむちゃんは渡さない。
鍵束。
点検表。
女性も気づいた。
「待って」
脇の台へ二つとも置く。
受取札を出す。
八七番。
紙袋が渡る。
十七時五十九分四十二秒。
受領印。
扉が下りた。
◇
それで終わりではなかった。
小窓の向こうで、女性が紙袋を補修班へ運ぶ。
三人が作業台を片づける。
袋が開く。
女性は点検表の最後の欄へ印を押した。
警備員が搬入口を施錠する。
「十八時を越えていたら、再開錠の立ち会いで四十分残るところでした」
女性が外套を着る。
「今日は時間どおり帰れます。ありがとう」
黄昏ちゃんは閉じた扉を見ている。
「終わっちゃうね」
でも、ぱむちゃんは動かなかった。
◇
十八時三分。
職員出口が開いた。
さっきの女性が出てくる。
鞄を肩へ掛けている。
小走りで駅へ向かう。
角の信号が青になる。
間に合う。
女性はそのまま渡っていった。
ぱむちゃんは、角から姿が消えるまで見送った。
黄昏ちゃんが隣に立つ。
「終わったね」
ぱむちゃんは閉じた資料館を見る。
次に駅の方を見る。
ぱむ。
◇
配送ステーション。
《八七番 受領 十七時五十九分四十二秒》
至誠ちゃんが確認する。
「期限内! 商品無傷! 受取完了です!」
ぱむちゃんは記録の前に立った。
受領時刻を指す。
至誠ちゃんが頷く。
ぱむちゃんは窓へ行く。
暗い資料館。
駅へ続く道。
もう女性はいない。
至誠ちゃんも窓際へ来た。
「……間に合ったから、帰れたんですね!」
黄昏ちゃんが時計を見る。
「十八秒しかなかった。でも、あの人には四十分あったんだね」
至誠ちゃんは配送記録へ戻る。
完了時刻の横に、小さく一行だけ足した。
《受取後、予定時刻に退館》
ぱむちゃんはその一行を見た。
配送ステーションには、第二部最初の五件の完了票が並んでいる。
普通の道。
注文より早い袋。
正確な名義。
遠回り。
あと十八秒。
どれも本当に届いた。
八七番だけは、届いたあとに残らなかった四十分まで記録された。




