第4話「遠回りです」
西ガラス工房は、店の入口から見えていた。
青い看板。
《八六番/西ガラス工房・正面受付/十二時まで》
十一時四十七分。
ぱむちゃんは注文端末、受取人欄、紙袋の札を順に確認した。
全部、合っている。
至誠ちゃんは赤い遠距離便を肩へ掛けた。
「私は別便へ出ます! 彷徨ちゃん、外周の安全確認をお願いします!」
「はい。青い看板までですねぇ」
ぱむちゃんが紙袋を持つ。
彷徨ちゃんは東へ曲がった。
青い看板は西にある。
ぱむちゃんは西を見る。
東へ消える彷徨ちゃんを見る。
動かなかった。
そのとき、ガラス工房の正面へ大型運搬車が入った。
板ガラスが降ろされる。
黄色い柵が歩道を塞ぐ。
《搬入中/正面受付一時閉鎖》
青い看板は、まだ見えている。
正面からは、もう行けない。
東の角から彷徨ちゃんが顔を出した。
「まだ来ませんか?」
ぱむちゃんは正面受付の札を見る。
黄色い柵を見る。
それから東へ走った。
◇
彷徨ちゃんの道は、目的地から遠ざかった。
魚屋。
時計塔。
赤い郵便箱。
同じ郵便箱へ、別の向きから二度出た。
「さっきは右でしたよねぇ」
今は左にある。
ぱむちゃんは郵便箱ではなく、時計塔を見る。
次に戻ったとき、塔の文字盤は背後にあった。
彷徨ちゃんが細い階段を下りる。
「下でしたっけ」
乾いた水路。
頭上を、西へ向かう道路が横切っている。
ぱむちゃんは紙袋の札を見なかった。
水路の壁。
青いガラス片が一つ埋まっている。
その脇の鉄扉を、彷徨ちゃんが押した。
「ここ、開きますねぇ」
荷物用昇降機。
上がる。
扉が開いた。
ガラス工房の裏倉庫だった。
◇
一人の職人が、大きな木箱を抱えていた。
「配達?」
ぱむちゃんは八六番を見せる。
「正面で待ってたんだけど、搬入が始まって裏へ戻されたんだ」
胸札。
受取票。
一致。
木箱で両手は塞がっている。
ぱむちゃんは、近くの空いた台を軽く叩いた。
職人が気づく。
「ああ、これか」
木箱を台へ置く。
革手袋を外す。
「八六番。受け取ります」
紙袋が渡る。
十一時五十五分。
受領印が灯った。
「正面に来てたら、搬入が終わるまで会えなかった。遠回りなのに早かったね」
彷徨ちゃんは昇降機を振り返った。
「遠回りでした?」
ぱむ!
◇
職人は帰り道を教えた。
「裏口を出て右。二つ目を左。そこから店までまっすぐ」
「右、二つ目を左ですねぇ」
彷徨ちゃんは頷いた。
裏口を出る。
左へ曲がった。
ぱむちゃんはついていった。
一つ目の角。
二つ目。
店の屋根は、右後ろに見えている。
それでも、ぱむちゃんは止めなかった。
彷徨ちゃんが三つ目の角で立ち止まる。
「……帰れませんねぇ」
ぱむちゃんは来た道を振り返った。
一つ戻る。
さらに戻る。
二つ目の角で、右へ曲がる。
店の看板が正面に出た。
彷徨ちゃんが隣へ並ぶ。
「間違えた道も、戻る道には使えますねぇ」
◇
配送ステーションに八六番の経路が残っていた。
東へ。
一周。
地下へ。
昇降機で西へ。
至誠ちゃんが戻る。
「正面経路の四倍です!」
次に受領時刻。
「正面受付は十一時四十九分から十二時十分まで閉鎖! 八六番は十一時五十五分に完了!」
彷徨ちゃんが経路図を逆さにする。
「近道だったんですねぇ」
ぱむちゃんは首を横に振った。
長い経路を指す。
《受領完了》を指す。
次に、黄色く表示された《正面受付閉鎖》を指した。
至誠ちゃんが三つを見る。
「遠回りです! でも、使える道でした!」
ぱむちゃんは一度跳ねた。
ぱむ!
配送票の行き先は、最初から最後まで変わらなかった。
変わったのは、そこへ着くために正しい道だった。




