第3話「一ミリも間違ってません」
八五番は、順番どおりに来た。
注文のベル。
厨房票。
紙袋。
ぱむちゃんは、まず注文端末を見る。
《八五番》
《東共同印刷室》
《白井真帆》
《十二時十五分》
《豆腐香草バーガー/温茶》
次に厨房票。
同じ。
紙袋の札。
同じ。
昨日とは違う。
先に届いていない。
空欄もない。
保留札もいらない。
秩序ちゃんが白い測定板を置いた。
「一項目ずつ照合します」
番号。
住所。
氏名。
商品。
時刻。
包装温度。
封の位置。
細い定規が紙袋の端へ当たる。
「全部一致。規定外なし」
紙袋を半回転。
「一ミリも間違っていません」
至誠ちゃんが配送票を確認する。
「八五番。お願いします!」
ぱむちゃんは袋を持った。
ぱむ。
◇
東共同印刷室では、大きな裁断機が止まったところだった。
紙の束を抱えた人が二人、奥の乾燥棚へ急いでいる。
受付には札。
《本日の当番 白井》
十二時十三分。
一人の女性が紙束を置いて来た。
「白井です。八五番ですね」
胸札。
《白井真帆》
受取画面。
《白井真帆》
ぱむちゃんは袋を前へ出しかけた。
白井さんの手が止まる。
「あ」
受付の当番札を見る。
奥を見る。
「これ、私が受け取っていいのかな」
ぱむちゃんは袋を引いた。
「注文したのは私です。昨日のうちに、今日の当番用として」
白井さんは端末を開く。
注文履歴も本人。
決済も本人。
届け先もここ。
「でも、朝に当番を代わってもらったんです」
奥では、もう一人が裁断機を掃除している。
「お昼を取るのは、あの人で」
白井さんは受取画面を見る。
「変更するの、忘れてた」
◇
店へ照会が入る。
秩序ちゃんは記録を分けた。
「注文者。白井真帆さん」
一枚。
「登録受取人。白井真帆さん」
二枚目。
「指定場所。東共同印刷室」
三枚目。
「全部一致しています」
至誠ちゃんが訊く。
「では、食べる人は誰ですか!」
秩序ちゃんは答えなかった。
記録を見直す。
「その項目はありません」
印刷室で、白井さんはまだ手を出していない。
「捨てるわけにはいかないし、私が受け取ります」
ぱむちゃんは白井さんを見る。
奥の人を見る。
紙袋ではなく、《本日の当番 白井》を見る。
白井さんが小さく笑う。
「今朝までは、これも間違ってなかったんです」
ぱむちゃんは動かない。
白井さんは奥へ声をかけた。
「佐伯さん」
掃除していた人が振り返る。
「今日のお昼、これでいい?」
「え、白井さんのじゃないの?」
「今日の当番用に頼んだの。今日の当番、代わってもらったから」
佐伯さんが近くまで来る。
白井さん。
佐伯さん。
紙袋。
三つが受付線のところで並んだ。
白井さんが受取画面を押す。
「受け取るのは私でいい。渡す相手は、この人」
ぱむちゃんはそこで初めて袋を渡した。
十二時十四分。
《八五番 配送完了》
受領印が灯る。
◇
白井さんは袋を佐伯さんへ渡した。
「当番代わってもらったお礼」
「じゃあ半分こにしよう」
二人で休憩机へ行く。
温茶の湯気が上がる。
ぱむちゃんは受付線の外から、それを見た。
配送は成功した。
注文者へ届いた。
登録受取人へ届いた。
指定場所へ届いた。
そして、食べる人は一人ではなかった。
◇
店へ戻る。
秩序ちゃんは八五番の記録を測定板へ置いた。
「配送データに誤りはありません」
至誠ちゃんが訊く。
「正しい人へ届きましたか!」
秩序ちゃんは少しだけ止まった。
「正しい、を何で測るかが未定です」
測定板の上。
《受取人 白井真帆》
その横は空白。
ぱむちゃんは指先で《受取人》を押さえた。
次に、その隣の空白を押さえた。
秩序ちゃんは空白へ新しい項目を書かなかった。
「証拠が足りません」
次の紙袋が配送台へ来る。
ぱむちゃんはすぐには持たない。
注文端末。
受取人。
それから、店の外を見る。
昨日は、注文があるかを確かめるものが増えた。
今日は、注文に書かれていないものが一つ増えた。




