↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/100

第1話「今日もお願いします」


 配送ステーションに、ぱむちゃんの場所ができた。


 紙袋の棚の隣。

 赤い《作業中》札を掛ける、小さな鉤。


 その下に、新しい文字。


《配送》


 ぱむちゃんは文字を見上げた。


 昨日まではなかった。


 朝一番の紙袋が滑ってくる。


《八一番/花店裏口》


 至誠ちゃんは配送票を確認した。


「八一番! 近距離、受取人指定あり! 今日もお願いします!」


 ぱむちゃんは、昨日自分で選んだ場所から立ち上がった。


 紙袋を持つ。


 ぱむ!


 ◇


 花店の裏口。


 昨日と同じ水桶。

 昨日と同じ濡れた床。

 昨日と同じ店員。


 違うのは、ぱむちゃんだった。


 裏口の前で止まらない。


 乾いた踏み板を自分で見つけ、そこへ乗る。


 店員は花の茎を切っている。


 ぱむちゃんは紙袋を胸へ寄せたまま、作業台の端を軽く叩いた。


 とん。


 鋏が止まる。


「八一番?」


 ぱむ!


 店員は手袋を外し、受取札を出した。


 緑の印。

 八一番。


 ぱむちゃんは紙袋を渡す。


 店員は乾いた棚へ置いた。


 受領印が灯る。


「昨日も来てくれたよね」


 ぱむちゃんは一度跳ねた。


「今日もありがとう」


 店を出る。


 昨日は、ここへ来ることが仕事を見つける一部だった。


 今日は、もう仕事だった。


 ◇


 配送ステーションへ戻る。


 至誠ちゃんは八一番の受領灯だけ確認した。


「完了!」


 説明は増えなかった。


 二つ目の紙袋を、指ではなく配送台の中央へ置く。


《八二番/洗濯店・受取窓口》


「次もお願いします!」


 ぱむちゃんは札を読む。


 店の外へ向いた。


 至誠ちゃんの指先は、上がらなかった。


 ◇


 洗濯店は白い蒸気で曇っていた。


 窓口に人はいない。


 奥で二人が大きな布を畳んでいる。


 ぱむちゃんは呼び鈴の前まで行く。


 紙袋を片手へ寄せる。


 もう片方の手を上げる。


 止めた。


 蒸気で濡れた窓口を見る。


 紙袋を見る。


 近くの乾いた荷台へ紙袋を置く。手は離さない。


 空いた手で呼び鈴を押した。


 ちん。


 奥の二人は布を持ち上げたまま動けない。


「今、端を合わせます」


 ぱむちゃんはもう鳴らさなかった。


 二人が布を畳み終える。


 一人が窓口へ来た。


「八二番。窓口担当です」


 受取札。


 ぱむちゃんは荷台から袋を持ち上げる。


 乾いた底のまま、相手へ渡した。


 受領印。


 帰る。


 ◇


 三つ目の紙袋が来たとき、至誠ちゃんは別の配送票を処理していた。


《八三番/南交差点・案内係》


 ぱむちゃんは袋の前で待った。


 至誠ちゃんが振り返る。


「八三番ですね!」


 配送票を一度見る。


「お願いします!」


 ぱむ!


 それだけだった。


 ◇


 南交差点。


 案内係は横断歩道の中央にいた。


 旗を上げる。

 子どもたちを渡す。

 右を見る。

 左を見る。


 ぱむちゃんは歩道の内側へ座った。


 紙袋は膝の上。


 案内係が戻ってくる。


「配達ですか」


 角から、遅れた子どもが一人走ってきた。


 案内係はぱむちゃんへ手を伸ばしかける。


 ぱむちゃんは袋を動かさない。


 案内係も、手を引いた。


「そうですね。先にこっち」


 旗が上がる。


 子どもが渡る。


 信号が変わる。


 旗が畳まれる。


 案内係が今度こそ受取札を出した。


《八三番》


 ぱむちゃんは紙袋を渡す。


「朝から何も食べてなかった。助かります」


 受領印が灯る。


 ぱむちゃんは、すぐには帰らなかった。


 案内係が袋を開く。


 一口食べる。


 次の信号を見る。


 旗はまだ畳まれている。


 ぱむちゃんは立ち上がった。


 ◇


 三枚の受領記録が並んだ。


《八一番 完了》

《八二番 完了》

《八三番 完了》


 至誠ちゃんが確認する。


「本日の近距離便、三件完了です!」


 ぱむちゃんは記録ではなく、配送ステーションを見る。


 花店。

 洗濯店。

 交差点。


 三件とも、何もおかしくなかった。


 道は変わらない。

 札も変わらない。

 時間も戻らない。


 正しい場所へ行った。

 指定された相手へ渡した。

 受領印が灯った。


 三件とも成功だった。


 厨房で、新しい包み紙が鳴る。


 ぱむちゃんが先に振り向いた。


 至誠ちゃんも振り向く。


 まだ袋は来ていない。


「次が来ます!」


 ぱむちゃんは配送台の前へ移った。


 そこで待つ。


 至誠ちゃんは、もう行き先を指さなかった。


 完成した紙袋が運ばれてくる。


 ぱむちゃんは札が見えるまで、手を出さない。


 至誠ちゃんが言う。


「今日も、お願いします!」


 ぱむ!


 ぱむちゃんは札を読んだ。


 次の仕事が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。