第14話「ぱむちゃんに、お願い」
十二時三分。
配送口へ、二つの紙袋が同時に滑り込んだ。
赤い封。
《遠距離/至誠指定》
白い封。
《六二番/時計店・修理受付/十二時十分まで》
至誠ちゃんは赤を取った。
「これは私が行きます!」
白い袋は残る。
壁時計が、一分進んだ。
秩序ちゃんが作業表を開く。
「ぱむちゃんの単独外部配送は未記録です」
「昨日、五一番の全工程を隣で確認しています!」
「同行と単独は別条件です」
「はい!」
至誠ちゃんは即答した。
赤い袋を抱えたまま、白い袋を見る。
「だから、今は別条件を満たせる人が必要です!」
厨房から次の呼び出し音。
赤便を止めれば、遠距離便が遅れる。
白便を残せば、十二時十分を越える。
至誠ちゃんは、ぱむちゃんを見た。
昨日までのように、行き先を先に指さなかった。
白い袋を指す。
「ぱむちゃん」
ぱむ。
「六二番を、時計店の修理受付へお願いします!」
ぱむちゃんが袋の前へ出る。
封を自分の正面へ向ける。
《六二番/時計店・修理受付》
持ち上げる。
至誠ちゃんはそこで初めて、店の外を指した。
「向かいです!」
ぱむちゃんは指の先ではなく、配送票を持ったまま扉へ向かった。
「お願いします!」
ぱむ!
二人は別々の出口から出た。
◇
信号は赤だった。
向かいに、大きな丸時計。
十二時五分。
ぱむちゃんは歩道の端で止まる。
車が二台。
自転車が一台。
青。
ぱむちゃんは走らなかった。
白線の内側を渡る。
時計店の正面扉が開いた。
客が出てくる。
「入る?」
扉を押さえてくれた。
ぱむちゃんは入口の横で止まった。
《配達は裏口へ》
開いた扉へは入らない。
丸時計の下を通り過ぎ、建物の横へ回った。
十二時七分。
◇
裏口に、人はいなかった。
扉は開いている。
中から工具の音。
「六二番?」
声だけが返る。
ぱむちゃんは入口を越えない。
ぱむ!
「今、手が離せない。そこに置いていいよ」
入口脇には、小さな台。
油の染み。
金属粉。
その隣に、何も載っていない木箱があった。
ぱむちゃんは紙袋を置かなかった。
もう一度。
ぱむ!
「ちょっと待って!」
工具の音が止まる。
修理受付の人が出てきた。
片手に小さな歯車。
もう片方に布。
「十二時十五分から修理が詰まってて。これ逃すと夕方まで食べられないんだ」
歯車をケースへ戻す。
布で指先を拭く。
胸ポケットから札を出した。
《六二番/修理受付》
ぱむちゃんが一歩近づく。
相手が紙袋を受け取った。
「ありがとう。間に合った」
受領端末が鳴る。
十二時八分。
ぱむちゃんはすぐに帰らなかった。
修理受付の人が、油の台を避ける。
乾いた作業台へ袋を置く。
封を開く。
ぱむちゃんはそこで向きを変えた。
◇
十二時十一分。
配送口。
秩序ちゃんの端末には、すでに六二番が出ていた。
《受領済/十二時八分》
扉が開く。
ぱむちゃんが戻る。
受領箱の前へ行く。
配送票を入れる。
秩序ちゃんが作業表へ一行足した。
《単独外部配送 一件》
「条件が一つ変わりました」
ぱむちゃんは、次の紙袋が置かれる場所へ移った。
まだ触れない。
赤便の出口が開く。
「配送完了! 帰還しました!」
至誠ちゃんが戻った。
最初に白い袋を探す。
ない。
次に受領端末。
六二番。
十二時八分。
最後に、配送口で待っているぱむちゃんを見る。
「戻ってきています!」
ぱむ!
「受領まで確認しましたか!」
ぱむちゃんは時計店の方向を指した。
口元へ何かを運ぶ仕草。
それから、乾いた台へ置くように両腕を下げる。
至誠ちゃんが笑った。
「そこまでですね!」
秩序ちゃんが作業表を閉じる。
「正式担当の確定は、まだです」
「はい!」
至誠ちゃんは反論しなかった。
次の紙袋が配送口へ来る。
ぱむちゃんは動かない。
至誠ちゃんが配送票を確認する。
それから、ぱむちゃんへ向き直った。
「次も、お願いできますか!」
ぱむちゃんの身体が跳ねた。
ぱむ!




