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【完結】婿養子の父には庶子がいた  作者: 真義あさひ


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4/9

父が亡くなった

 ところが、その交渉の最中に、さらに信じられない事件が起きた。


 ダミアノとキアラが、再び密会していたのである。

 それも、父が二人に接触しないよう厳しく言い渡した後のことだった。


「キアラ! お前という娘は、どうしてそこまで愚かなことをするんだ!」


 父の怒声が別宅に響いた。


「だって、ダミアノ様があたしを愛してるって言うんだもの!」

「だからといって、ナタリエの婚約者だった男と関係を続けていい理由にはならない!」

「もう婚約破棄するんでしょう!? だったらいいじゃない!」

「よくない!」


 父はとうとう堪忍袋の緒が切れたらしい。


「もうこれ以上、お前をここに置いておくことはできない。別宅から出てもらう」

「えっ!?」

「地方の修道院に話を通す。成人するまではそこで生活しなさい」

「嫌よ! そんな田舎の修道院なんて! あたし、これでも王都生まれ王都育ちなのよ!?」


 キアラは泣き叫んだが、父は譲らなかった。


「お前には何度も機会を与えた。生活に困らないようにしたし、教育も引き続き受けさせた。それなのに、お前はナタリエの立場を脅かすことばかりする。これ以上は許せない」


 その言葉を最後に、父は別宅を後にした。


 私も後から報告を受け、父の判断を支持した。


 修道院といっても、犯罪者を収容する施設ではない。規律正しい生活を送りながら学問や手仕事を学ぶことのできる場所だ。

 成人までの二年間、そこで自立するための準備をするなら、キアラにとっても悪い話ではない。


 ……だが、キアラはそう考えなかった。

 そして、取り返しのつかない罪を犯したのである。





 この出来事の数日後、――父が馬車の事故で亡くなった。


 その知らせを受けたとき、私は何が起きたのか理解できなかった。

 父は領地の管理に関する用件で王都郊外へ出かけていたのだが、その帰り道、馬車の車輪が外れ、横転したのだという。


 御者も負傷したが、父は打ちどころが悪く、医師が駆けつけたときには既に息を引き取っていた。


「……お父様?」


 父は棺に入れられてロカ伯爵家に戻ってきた。物言わぬ骸として。

 私は何度も父の名を呼んだ。けれど返事はなかった。


 母を亡くして、まだそれほど時間も経っていない。

 ようやく女伯爵としての仕事にも慣れ、父と二人で伯爵家を支えていこうとしていたのに。

 どうして。どうして、こんなことに。


 私は父の亡骸の傍らで、声を上げて泣いた。


 だが、その悲しみの最中、別宅でキアラの世話をしていた下働きの女性が、家令に連れられて私のもとへやってきた。


「な、ナタリエ様! どうか、話をお聞きください!」


 彼女は真っ青な顔で、何かを言いかけては歯を小さくカチカチぶつけて言葉にならないほど震えていた。


「キアラ様とダミアノ様が……旦那様の馬車に細工をすると、話しておられたのです!」

「……何ですって?」


 私は涙を拭い、彼女を見つめた。


「詳しく話してちょうだい」

「は、はい……!」


 下働きの女性は震える声で語り始めた。


 修道院送りを宣告されたキアラが、こっそり通ってきたダミアノに泣きついていたこと。

 ダミアノが、私の父さえいなくなればキアラを修道院へ送る者はいなくなると話していたこと。

 そして、父の死後はナタリエが異母妹の面倒を見るしかなくなる、と言っていたこと。


「女伯爵様はご両親を亡くされて悲しんでおられるから、その隙に優しくすれば、きっとキアラ様を受け入れてくださると……」


 ……何ということだ。

 あの男は、法律も契約書も理解していなかったらしい。


 父が亡くなったところで、私にキアラの扶養義務が生じるわけではない。

 そもそも、キアラの生活費や後見については、父と私の間で明確な契約を交わしている。


 それなのに。そんな愚かな思い込みのために、父を殺したというのか。


「すぐに馬車を調べなさい。事故現場も保存してあるのよね? 車輪や金具、破損した部品はすべて回収するのよ」

「かしこまりました!」


 私は家令に命じ、直ちに衛兵と専門の職人を派遣した。




 そして調査の結果、父の乗っていた馬車の車輪を固定する金具に、人為的な細工が施されていたことがすぐに判明した。

 走行中の振動で外れるよう、留め具が緩められ、一部が削られていたのである。


 事故ではなかった。

 父は、――殺されたのだ。


 私はダミアノの両親、侯爵夫妻に使者を送った。

 ダミアノとキアラが共謀して父を殺害した疑いがあること。

 証人が存在し、馬車にも細工の痕跡が発見されたこと。

 そして、直ちに二人の身柄を確保する必要があること。まだ二人は別宅にいる。ダミアノに滞在の許可など与えていなかったが、今はまだ泳がせているのだ。


 侯爵夫妻は手紙を届けた使者とともに、すぐに伯爵家へ駆けつけてきた。

 事情を聞いた侯爵は怒りで顔を真っ赤にして憤った。


「あの愚か者が……! 婚約者を裏切るだけでなく、殺人にまで手を染めたというのか!」

「まだ捜査の途中ですが、証言と物証は揃いつつあります」

「構いません。私も立ち会いましょう。息子が本当にそのような罪を犯したのなら、侯爵家として庇い立てするつもりはありません」


 私たちは衛兵を伴い、別宅へ向かった。




「だからさ、ナタリエには僕から優しくしてやればいいんだよ」


 扉の向こうから、聞き覚えのある声がした。ダミアノだ。


「でも、お姉様って意地悪なのよ? あたしを本宅に入れてくれなかったし」

「大丈夫さ。父親を亡くしたばかりなんだから、今は心細いはずだ。僕が支えてやると言えば、きっと喜ぶよ」

「それで、あたしは?」

「君は僕の愛人としてこのまま別宅に住めばいい。ナタリエには僕との婚約を続けさせる。どうせ女伯爵には夫が必要なんだから」

「本当に!?」

「ああ。もし嫌がるなら、既成事実を作ってしまえばいい。僕があの女を抱いてしまえば、今さら他の男とは結婚できないだろう?」


 ………………何ですって?


 私は扉の前で立ち止まった。

 隣にいた侯爵夫妻も、あまりの内容に絶句している。


「でも、お姉様が怒ったら?」

「何を怒る必要があるんだ? 僕はもともと婚約者だし、君だって妹じゃないか。家族みんなで仲良く暮らせばいいんだよ」

「素敵! それならあたしも伯爵家にこのまま住めるのね!」


 ……ああ。もう、十分だ。

 私は率いてきた衛兵に目配せした。


「扉を開けなさい」

「はっ!」


 勢いよく扉が開かれた。


「なっ!? ナ、ナタリエ!?」


 ダミアノが飛び上がり、キアラも驚いて立ち上がる。


「お、お姉様!? どうしてここに!」

「あなたたちを捕らえに来たのよ」


 私は冷たく告げた。


「お父様の馬車に細工をしたでしょう」

「……え?」

「事故に見せかけて、お父様を殺したわね」


 キアラが笑っている。だが、すぐにハッと我に返って無実を訴えてきた。


「ち、違うわ! あたし、何も知らない!」

「そうかしら。あなたたちの会話を聞いていた証人がいるの。馬車の金具にも細工の痕跡が残っていたわ」


 ダミアノが慌てて口を開いた。


「ま、待ってくれ! 僕は何もしていない! 全部キアラが勝手に……!」

「ダミアノ!」


 その瞬間、侯爵の怒声が響いた。


「父上!?」

「貴様という奴は……! 侯爵家の名を汚すにもほどがある!」


 侯爵は激昂で顔を真っ赤にして息子を睨みつけた。


「ロカ女伯爵殿の父君を殺害しただけでなく、当主を辱め、無理やり婚姻させようなどと……! 恥を知れ!」


 ダミアノは何か弁解しようとしたが、侯爵は聞く耳を持たなかった。


「衛兵! この二人を捕らえよ!」


 ダミアノとキアラはその場で拘束された。


「嫌あああっ! お姉様、助けて! あたしたち姉妹でしょう!?」


 キアラが泣き叫ぶも、私はその姿をただ見下ろすに留めた。


「……あなたは、お父様を殺したのよ」


 声が震えた。


「あなたを困難から救った、実の父親を」


 キアラは何も答えなかった。

 ただ、自分が助かるための言葉を探すように、必死に周囲を見回している。


 その姿を見て、私はようやく理解した。

 この子には、父の死を悲しむ気持ちなど欠片もないのだと。


 お父様はあんなにも、この子に心を砕いていたのに。


 この女の強欲は、そんな父をも殺したのだ。




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