これが……異母妹?
とここまでは、すんなり決まったのだけれども。
経緯は理解したし、望んでおらず、知りもしなかった婚外子に対して父が最大限の誠意を発揮したことに、私は深い尊敬の念を覚えた。
貴族の庶子の扱いに関するトラブルは、貴族社会では食傷ぎみなほどよく聞く。それと比べたら父の対応は神レベルだ。我が父ながら素晴らしい。
ところが、そんな父の誠意も気遣いも台無しにしてぶち壊す異母妹がやってくるのである。
「すごいわ、ここが伯爵家なのね! お城みたい! あたしも今日から伯爵令嬢!」
るーららら~♪ と調子の外れた鼻歌を歌ってくるくる踊るように回る、肩までの癖毛のボブとピンクの髪と茶の瞳の愛らしい少女に、私も父も、そして使用人たちも呆気に取られた。
目の色は父と同じ。でも髪色と顔立ちはあまり似ていない。母親似のようだ。
大変可愛らしい少女で、一見とても愛嬌があるが、言動で台無しだった。
そこか。そこから既に勘違いしているのか。
あるいは、最初だけだからと伯爵家の馬車で迎えに行かせたせいで、誤解してしまったのだろうか。
私は思わず、一緒に出迎えた傍らの父を見上げた。
「……お父様」
「すまない、ナタリエ。ちゃんと私が言い聞かせるから。……言い聞かせておいたはずなんだが……」
ひとまず応接間に異母妹キアラを案内する。
テーブルを挟んで向こう側のソファにはキアラを、こちら側には私と父が座る。
壁際には家令や執事、侍女たちが数人控えている。
「お父様! あたし、今日から伯爵令嬢なのよね!」
応接間のソファに座ったキアラは、身を乗り出して期待に満ちた目で父を見つめた。
……うん。やっぱりそこから説明しなければならないのね。
「キアラ。迎えに行った者からも説明を受けただろうが、君は私の娘であって、ロカ伯爵家の娘ではないんだ」
「ええっ!? でも、お父様は伯爵様なんでしょう?」
「私は伯爵ではないよ。亡くなった妻が女伯爵で、今はナタリエが爵位を継いでいる。私はその補佐をしているだけだ」
「だったら、あたしも伯爵家の娘にしてよ! お姉様だって伯爵令嬢だったんでしょう?」
いきなり無茶な要求が飛び出した。
「それはできないわ。私は母ミカエラの実子として伯爵家を継いだの。あなたにはロカ家の血が入っていないでしょう?」
「でも、あたしたち姉妹じゃない!」
「父親が同じというだけよ。ロカ伯爵家の爵位や家名とは関係がないわ」
キアラは不満そうに唇を尖らせた。
「そんなのずるい! お姉様だけ伯爵様なんて!」
「ずるいと言われてもねえ……」
生まれた家や身分が違うのだから、どうしようもない。
父も困ったように眉を下げた。
「キアラ。私は君が成人するまで生活の面倒を見ると約束した。住む場所も用意したし、学校にもこれまで通り通える。だが、それ以上のことはできないんだ」
「じゃあ、お父様の実家は? お父様だって貴族の生まれなんでしょう?」
「ああ。私はユース子爵家の四男だが……」
「だったら、そっちの子爵令嬢にしてよ! 伯爵令嬢じゃなくてもいいから!」
……なるほど。どうしても貴族令嬢になりたいらしい。
父は深いため息をついた。
「それもできないよ。ユース子爵家は既に兄が継ぎ、その息子に代替わりしている。君のことは相談したが、引き取ることはできないと断られたんだ」
「なんで!? 親戚なんでしょう!?」
「親戚だからといって、何でも頼めるわけではないんだよ」
ちなみに、ユース子爵家の当主からは私にも丁重な手紙が届いている。
ミゲルの婚外子については一切関与せず、今後もロカ伯爵家との良好な関係を維持したい、という内容だった。
まあ、当然の判断だろう。
「キアラ。あなたはお父様の娘として認知されるけれど、貴族家の令嬢として迎え入れられるわけではないの。そこは理解してちょうだい」
「……じゃあ、あたしはずっと平民のままなの?」
「そうなるわね」
「ひどい!」
キアラは叫んだ。
「あたしだって貴族のお父様の娘なのに! どうしてお姉様ばっかりいい思いをしてるのよ!」
……いい思い。
十六歳で母を亡くし、爵位を継承して、学業と伯爵家の仕事を両立させている私が、いい思いをしていると。
なかなか興味深い認識である。
もっとも、ここで言い争っても仕方がない。
「ひとまず別宅へ案内させるわ。生活に必要なものは揃えてあるから、足りないものがあればお父様に相談してちょうだい」
私は侍女に命じてキアラを別宅へ案内させた。
その背中を見送りながら、父が申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「すまない、ナタリエ。まさか、あそこまで身分にこだわるとは……」
「お父様が謝ることではありませんわ。まだ環境が変わったばかりですし、落ち着けば理解するでしょう」




