第7話 王宮庭園、セリシーヌの秘密訓練と、忠犬候補ガルディオとの邂逅
昼下がりの王宮庭園……
人目につかない奥まった区画で、セリシーヌはひとり剣を振っていた。
「……ふっ……はっ……!」
ふくよかな体躯からは想像できないほど、しなやかで鋭い動き──剣の軌跡が空気を裂き、魔力がほのかに揺らめく。
――セリシーヌは、日常的に《《秘密の鍛錬》》をしている。
そう悪役令嬢としての立ち回りだけでなく、自分の身を守るための魔法と剣術を磨くためだ。
「……もう少し、魔力の流し方を安定させないと……」
彼女が魔力を剣に通し、振り下ろした瞬間。
「……っ、は……」
かすかな声が、庭園の向こうから聞こえた。
セリシーヌは剣を止め、そっと茂みの向こうを覗く。
そこでは、騎士団候補生たちが訓練をしていた。
その中で――ひときわ細い影がふらりと揺れた。
【白銀の短髪】
【琥珀色の瞳】
鍛えられているのに《《細い》》という致命的な体質……。
ガルディオ・フォン・ヴァルトレイン……。
武門の名家の三男でありながら、《《痩せすぎて剣が振れない》》という理由で騎士団試験に落ち続けている少年だ!
その細い腕が木剣を振り上げた瞬間──
ぱたり!!
「ガルディオ候補生、倒れたぞ! またか!?」
周囲がざわつく。
セリシーヌは思わず眉をひそめた。
「……あれは……倒れる未来しか見えませんわね」
自分の訓練を中断し、彼女はふくよかな影を揺らしながら歩み寄った。
ガルディオは膝をつき、肩で息をしていた。
「……情けない……僕は、もっと……」
そのとき、彼の視界にふわりと影が差し込んだ。
見上げると――
そこには、魔力をまとった剣を携えたセリシーヌが立っていた。
「……あなた、そんな体で剣を振ろうとして? 棒切れが折れる未来しか見えませんわよ」
ガルディオの胸に、言葉が深く刺さる。
(……刺さる……けど……この人……僕のことを《《本気で見て》》言ってくれている……? しかも……魔法剣の訓練中だった……?)
セリシーヌはため息をつき、懐から小さな包みを取り出した。
「ほら。これを食べなさい」
差し出されたのは、セリシーヌ特製の高級ラード入り栄養菓子……。
そう近代日本からの転生者・ざまぁみろ者の悪役令嬢さまが思案して作りだした(通称:セリシーヌバー)……。
「あなたのその体では、騎士団どころか、風に吹かれて転びますわよ」
ガルディオは震える手でそれを受け取った。
「……ありがとうございます……! 僕……僕、もっと強くなりたいんです……! あなたのように……魔法も剣も使える強い人に……!」
セリシーヌは少しだけ目を丸くした。
「なら、まずは太りなさい。話はそれからですわ」
その瞬間――
ガルディオの琥珀色の瞳が、かすかに揺れ、光を宿した。
(……この人……僕を《《哀れ》》ではなく、《《可能性のある男》》として見てくれた……! しかも……僕の憧れだった《《魔法剣の使い手》》だったなんて……! 僕は……救われた……)
彼の胸の奥で、何かが静かに燃え始める。
「セリシーヌ様……」
ガルディオは、まるで騎士の誓いのように言葉を紡いだ。
「あなたは僕の弱さを笑わず、真正面から見てくださった……。僕は……あなたのために強くなりたい。あなたの影を守れる男になりたいんです……!」
セリシーヌは頬をかいた。
「……影を守る? そんな細い体で?」
「はい……! だから、まずは太ります……! あなたがくださったこの栄養菓子……僕にとっては、騎士団の勲章より重い……!」
その背後で――
「セリシーヌ様ぁあああああああああっ!!」
ルファードが、嫉妬で木剣を折りながら叫んでいた。
「僕は罵倒されたのに……! 救われた? その感謝の目……気に入らない……!」
庭園に、痩せ型忠犬たちのカオスな気配が満ちていく
◇◇◇




