第7.5話 第一王子アルフレッド、ついに太る……しかし方向性が致命的にズレる
第一王子アルフレッドは、セリシーヌ嬢に《《哀れな見た目》》と言われてから数ヶ月……。
王宮では、第一王子アルフレッドの奇行が、もはや“王宮の名物”と化していた。
そして、ついに、金髪碧眼の王子さまが報われる日が来た。
王宮医務室・早朝……
「殿下……その……おめでとうございます。体重が……増えております」
「な……なんだって……!?」
アルフレッドはベッドの上で跳ね起きた。
侍女たちが「殿下が太った!?」とざわめく。
「どれくらいだ!? どれくらい増えたんだ!!」
「……三キロほどです」
「三キロ!! やったぁあああっ! やったぞぉおおおっ!」
アルフレッドは医務室で万歳し、喜びのあまりベッドの上でぴょんぴょん跳ねた。
「セリシーヌ嬢……。僕は……ついに……太ったんだ……!」
しかし医師は、困ったように眉をひそめた。
「殿下……その……増えたのは……脂肪ではなく……」
「脂肪ではなく?」
「……むくみです」
「むくみ!?」
医師は深刻な表情で説明した。
「殿下が毎晩ラード入りタルトを抱いて寝ていたせいで、塩分と油分の摂りすぎによる“むくみ”が発生し……体重が増えたように見えるだけでございます」
「む……むくみ……?」
「はい。殿下の脚をご覧ください」
アルフレッドは自分の脚を見た。
《ぷよん!》
「……ぷよん?」
脚が、ぷよん、と揺れた。
「殿下、これは《《ふくよか》》ではなく《《むくみ》》です。健康状態としては最悪です」
「…………」
「殿下?」
「…………太ったことに変わりはない!!」
「殿下ぁあああっ!!」
王宮廊下……
アルフレッドはむくんだ脚をぷよぷよ揺らしながら、廊下を歩いていた。
「見ろ! 僕は太ったんだ! セリシーヌ嬢に《《男らしい肉付き》》と言われる日も近い!」
「殿下、それは《《男らしい肉付き》》ではなく《《水分過多》》です!!」
「黙れ! 僕は太ったのだ!!」
侍女たちは泣きそうな顔で、愛する王子の華奢な背についていく。
王宮訓練場・午後……
「殿下、今日は訓練を……」
「見ろ! この腕! この脚! ぷよぷよだ!!」
「殿下、それはむくみです!!」
「むくみでも太ったことに変わりはない!!」
「殿下ぁあああっ!!」
アルフレッドはむくんだ腕を誇らしげに掲げた。
「セリシーヌ嬢は言った……《《男らしい肉付きになっていらっしゃることを期待しておりますわね?》》と……。僕はその期待に応えたのだ!!」
「殿下、それは期待の方向性が完全にズレております!!」
王宮医務室・夜……
「殿下……。むくみが悪化しています……」
「むくみが悪化しているということは……?」
「……体重がさらに増えています」
「やったぁあああっ!!」
「殿下! 喜ぶところではありません!」
医師は頭を抱えた。
「殿下、これは危険です! むくみは身体のSOSです! このままでは倒れます!」
「倒れてもいい! 僕は太るのだ!!」
「殿下ぁあああっ!!」
そして悲しいことに、悲劇(?)は起こる……。
翌朝──
「殿下!? 顔が……」
「顔が……どうした?」
「……むくみで……パンパンに……!」
「パンパン!? つまり……太ったということだな!!」
「違います!! 違います殿下!! それは《《ふくよか》》ではなく《《むくみ》》です!!」
しかしアルフレッドは鏡を見て、満面の笑みを浮かべた。
「セリシーヌ嬢……! 次に会う時こそ……僕は……。立派な肉付きに……!」
「殿下!! その顔では誰か分からなくなってしまいます!!」
侍女たちが泣き叫ぶ中……アルフレッドはむくんだ顔を誇らしげに掲げた。
「僕は……絶対に……太る……!!」
その決意は、誰にも止められなかった。
◇◇◇




