第6話 氷の瞳で私を見つめる最初の忠犬!(2)
「言葉に気をつけなさい、骨皮筋右衛門……。あなた、ちゃんとご飯を食べていらっしゃいますの? 骨が透けて見えそうで、視界に入るだけでこちらの体温まで下がりそうですわ。幽霊ならお墓の中に引っ込んでいらして? 芸術的な私の肉体の前に、そんな薄汚い、魅力の欠片もないガリガリの体を晒さないでちょうだい! 目障りですわ! 早く私の前から消え失せなさい!」
前世の愚痴と偏見をこれでもかと乗せた、容赦のない暴言の弾幕──
周囲の貴族たちは「ひえっ……!」、「セリシーヌさまが、あの冷徹な魔術師を完璧にゴミ扱いされた……」とガタガタ震えている。
私に罵声を吐かれたルファードはというと――。
彼は、目を見開いたまま、ピきりと硬直していた。
(ふん! どうせプライドを傷つけられて怒り狂うんでしょう。おそるるに足らずわ!)
私がそう身構えた、次の瞬間だった。
「……っ、あ……」
ルファードの白い肌が、耳の裏まで一気に、真っ赤に染まった。
その切れ長の瞳は、怒りではなく――見たこともないような、熱を帯びた【悦惚】に潤んでいた。
彼は「ハァハァ」と荒い息を吐きながら、自分の薄い胸板をぎゅっと抱きしめ、ガタガタと小刻みに震え出したのだ。
「……なんだ、この感覚は……。僕の存在を、これほどまでに強く、完璧に、ゴミのように否定されたのは……初めてだ……」
「え?」
「いつも周囲の者は、僕のこの醜く痩せた体を腫れ物のように扱い、同情の目を向けるか、遠巻きにするだけだった……。なのに君は、僕の薄っぺらさを真っ向から罵り、その美しい瞳で、心底汚いものを見るように僕を見下ろしてくれた……」
「は?」
ルファードは突如、その場にバサリと膝を突いた。
そして、私のドレスの裾を、宝物でも扱うかのように震える手でそっと握りしめ、悦惚の表情で私を見上げてきた。
「セリシーヌさま……! ああ、なんという神々しいお姿……。あなたのその圧倒的なボリューム感の前では、僕のようなガリガリの男など、確かにただの目障りな木の枝だ……! どうか、もっと僕を罵ってください! あなたのその美徳に満ちた肉体で、僕のような薄っぺらい存在を、徹底的に踏みにじっていただきたい……!」
「……は、はいぃいいいっ!?」
私の口から、悪役令嬢らしからぬ素っ頓狂な声が出た!
待って! 何この人! 怖い!
私はただ、前世の恨みを込めて、大嫌いな痩せ型イケメンを全力でディスって追い払おうとしただけなのに。
なんでこのイケメン、私の暴言で脳内麻薬が爆発してドMに目覚めてるの!?
「不快だから二度と近づかないで、とおっしゃいましたね……? 素晴らしい……。その拒絶が、僕の魂を激しく揺さぶる……これからはあなたの影となり、あなたに蔑まれるためだけに、この命を捧げましょう、僕の女王……!」
ルファードは、熱に浮かされたような引き締まった笑みを浮かべ、私の足元で完全に屈服していた。
周囲の貴族たちは、あの孤高の天才魔術師を一瞬で、《《忠実な猟犬》》に変えてしまった私の手腕に、
「おお……なんと恐ろしい調教能力……」
「これぞ真の悪役令嬢さま……」と、さらに深い恐怖と敬意の眼差しを向けている。
(ち、違うのよ! 私はただ、男を容姿で殴りたかっただけなのに、なんで依存されてるのよー!?)
こうして、私の「男どもを手のひらで転がす悪女ライフ」は、本人の意図とは全く違う、斜め上の方向へと猛スピードで暴走を始めるのだった。
◇◇◇




