第4.5話 第一王子の密かなる、そして涙ぐましい戦い(1)
セリシーヌ・フォン・ブラント――
あの《《国宝級の美幼女》》と対面した日の夜……
王宮の一室では、第一王子アルフレッドがベッドの上で体育座りをしながら、深刻な表情で震えていた。
「……あれは……屈辱だった……」
彼の脳裏には、セリアのふくよかで神々しい肉体美と、あの高飛車な笑みが鮮明に焼き付いている。
『殿下のその貧相な体躯だと──剣や槍、魔法の腕の方もご心配ですわ……。殿下は、私のことを守ってくださるのかしら……? それとも、私が殿下のことを守ってさしあげないといけないのかしら……?』
『哀れな見た目』
『男らしい肉付きになっていらっしゃることを期待しておりますわね?』
「……哀れ……哀れ……哀れ……!」
アルフレッドは布団に顔を埋めてジタバタと暴れた。
「僕は……王子だぞ!? なのに……あんな……あんな……」
王子は勢いよく立ち上がり、鏡の前へ。
そこに映るのは――
プラチナブロンドの髪! ルビー色の瞳! 端正な顔立ち!
前世の日本なら、少女漫画の主人公として表紙を飾れるほどの美少年だ。
しかし、この世界では。
「……細い……! 細すぎる……!!」
アルフレッドは鏡に向かって叫んだ。
「この腕! この脚! この頬! どこを見ても《《骨皮筋右衛門》》じゃないか!!」
彼は拳を握りしめ、決意した。
「……太ろう! 太ってやる……! セリシーヌ嬢に《《男らしい肉付き》》と言わせてやる……!」
翌朝──
「殿下!? なぜ朝食を三人前も……!」
「黙れ! 僕は太るのだ!」
王子はラードたっぷりのクロワッサンを頬張り、牛脂入りスープを流し込み、揚げバターをかじった。
しかし――。
「……うっ……胃が……重い……」
「殿下!? 顔色が真っ青です!」
「だ、だが……食べねば……!」
王子は震える手でタルトを持ち上げた。
「セリシーヌ嬢……。僕は……あなたに哀れと言われたままではいられない……!」
その瞬間、侍女が悲鳴を上げた。
「殿下! そのタルト、ラードが溶けて床に垂れております! 危険です、やめてください!」
「黙れ! 僕は太るのだ!!」
数日後。
「殿下……また倒れられたのですか……」
「……うるさい……。僕は……太るために戦っているのだ……」
アルフレッドはベッドの上でぐったりしながら、枕を抱きしめていた。
「セリシーヌ嬢……次に会う時こそ……僕は……立派な肉付きに……!」
侍女は涙目で叫んだ。
「殿下! その方向性は間違っております!!」
しかし王子は、枕をぎゅっと抱きしめながら呟いた。
「……僕は……絶対に……太る……」
その決意は、誰にも止められなかった。
(完)
◇◇◇




