第32話 魔道庁上層部が忠犬侵入を問題視し、セリシーヌに責任を問う!(1)
第三試験を終え、セリシーヌがほっと息をついたその瞬間──訓練区画の天井に、重々しい鐘の音が響いた。
《ゴォォォォン……》
オルフェンの表情がわずかに険しくなる。
「……魔道庁上層部からの召喚だ」
セリシーヌは青ざめた。
「ま、また召喚ですの……?」
「忠犬二匹の侵入が、庁内で問題になったのだろう」
オルフェンは静かに言った。
「行くぞ! 君も同席しなければならない!」
セリシーヌは剣を収め、ふくよかな体躯を揺らしながら歩き出した。
(……また面倒なイベントが始まりますわね……。悪役令嬢の周りは、どうしてこうも騒がしいのかしら……。まるで私が生前にプレイしたアプリケーションゲームや、読んだ恋愛小説のストーリーのように次から次へと起こりますわね……)
魔道庁上層部会議室……。影の戦力たちが集う場所……。
セリシーヌ嬢の前の、重厚な扉が開くと──
そこには魔道庁長官、戦略参謀、魔導監査官など、王宮の影を担う者たちが勢揃いしていた。
セリシーヌは優雅に一礼した。
「セリシーヌ・フォン・ブラント、参りましたわ」
オルフェンも続く。
「魔道庁副院長、オルフェン・ディア・ラグナス……。少年二人の侵入について報告に参った」
長官が重々しい声で言った。
「……セリシーヌ嬢……。君の周囲の者が、魔道庁に無断侵入した。これは重大な問題だ」
セリシーヌは背筋を伸ばした。
「……申し訳ございませんわ。あの子たち、わたくしを心配して……」
監査官が机を叩いた。
「心配で侵入する者など聞いたことがない!! 魔道庁は王宮の影だぞ!? 王族ですら勝手に入れぬ場所だ!!」
セリシーヌは少しだけ眉をひそめた。
(……王族ですら入れない場所に、痩せ型忠犬が入ったのね……。あの子たち、本当に行動力がありすぎますわ)
参謀が冷たい声で言った。
「セリシーヌ嬢! 君の周囲の者が規律を乱すなら──君自身の適性を疑わざるを得ない」
セリシーヌは静かに息を吸った。
「……わたくしの適性を疑うのは構いませんわ! ですが──」
黒曜の瞳が横から支えるように向けられた。
オルフェンが一歩前に出た。
「先ほどの少年二人の侵入は、セリシーヌ嬢の責任ではない! 魔道庁の警備が痩せ型の人物の侵入を想定していなかっただけだ」
会議室がざわついた。
「痩せ型の侵入を想定……?」
「そんな警備基準があるか……?」
オルフェンは淡々と続けた。
「セリシーヌ嬢は、規律を破っていない! 侵入したのは、彼女の友人たちだ! 彼女はむしろ、侵入を止めようとしていた」
監査官が眉をひそめた。
「しかし、忠犬たちは彼女のために侵入したのだろう?」
オルフェンは黒曜の瞳を細めた。
「それは、彼女が《《信頼されている》》証拠だ!」
セリシーヌは目を丸くした。
(……信頼……? わたくしが……?)
長官は腕を組んだ。
「オルフェン副院長……。君はセリシーヌ嬢を庇いすぎではないか?」
オルフェンは静かに言った。
「庇っているのではない。事実を述べているだけだ」




