第23.5話 第一王子アルフレッド、筋肉増強に励んだ結果“さらに増え”、セリシーヌ嬢の悪役令嬢ムーブが最高潮に達する
セリシーヌ嬢に《《哀れな見た目》》と言われてから九ヶ月……。
王宮訓練場・早朝──
アルフレッド王子は、今日も訓練場で絶望していた。
「どうしてだぁぁぁ!! 筋肉を減らさない努力をしたら……筋肉が増えたぁぁぁ!!」
侍女たちは泣きそうな顔でついていく。
「殿下、それは当然です……! 筋肉を減らさない努力=筋肉を増やす努力です……!」
「そんな馬鹿なぁぁぁ!!」
しかし鏡を見ると――
肩幅はさらに広がり、二の腕はしなやかに盛り上がり、腹筋は“しっかり”と割れ、まるで英雄のような美少年がそこにいた。
「僕は……ふくよかになりたいだけなのに……どうして……どうして筋肉が増えていくんだぁぁぁ!!」
騎士団長は泣きながら叫んだ。
「殿下!! それは殿下の体質です!! 魔力が筋肉に変換されやすい体質なんです!! むしろ誇ってください!! 殿下は魔法は駄目ですが、盾ならば、その若さで、この王国の上位クラスのも者たちと比べても引けを取りません!! 殿下!!」
しかし、勘違い男のアルフレッド王子だから。
「誇れないぃいいいっ! 僕は脂肪が欲しいんだ!」
訓練場に、今日もアルフレッドの絶叫が響く。
王宮廊下・午前──
筋肉がさらに発達したアルフレッドが歩くと、廊下がざわめいた。
「殿下……肩幅が……また広がって……」
「歩くだけで……風が起きている……」
「殿下の背中……頼もしさが限界突破している……!」
ぽちゃり令嬢たちと極細令嬢たちが頬を赤らめる。
「殿下……今日の殿下は……まるで英雄……」
彼を絶賛する言葉を耳にしても。
「違う!! 僕は英雄になりたいんじゃない!! ふくよかになりたいんだ!!」
だから今日も懲りずに、侍女たちは泣きそうな顔でついていく。
そんな中――
「殿下。おはようございますわ」
セリシーヌ嬢が優雅に歩いてきた。
その瞬間、令嬢たちの嫉妬が爆発した。
「セリシーヌ嬢は細すぎて……殿下の隣で釣り合わないのでは……?」
「殿下の筋肉が増えたことで……セリシーヌ嬢が見劣りしてしまう……」
「殿下の隣に立つなら……もっとふくよかな令嬢である私のほうが……」
「いや、いや、細い殿下には、私のような、細々とした私の方がお似合いですね」
その瞬間──
王宮廊下の空気が凍りついた。
そう、いつものように、セリシーヌ嬢が、ゆっくりと振り返ったからだ。
その瞳は、氷のように冷たく、しかし高貴で――まさに《《悪役令嬢》》のそれだった。
「……今、なんとおっしゃいましたの?」
令嬢たちは震えた。
「い、いえ……その……殿下が……筋肉で……立派になられたので……」
《《悪役令嬢化》》しているセリシーヌ嬢へと、顔色を変え言い訳をすれば。
「わたくしが、殿下の隣で釣り合わない、と?」
「ひっ……!」
セリシーヌ嬢は、ゆっくりと微笑んだ。
その微笑みは、優雅で、しかし――背筋が凍るほどの“圧”を持っていた。
「殿下の隣に立つのは、私ですわ! ――殿下がどれほど筋肉をつけようと! どれほど肩幅が広がろうと! 私が釣り合わないなどと、二度と口にしないことですわ」
令嬢たちは一斉に頭を下げた。
「も、申し訳ございません……!」
その光景を見て、アルフレッドは震えた。
(セリシーヌ嬢……僕のために……また今日も庇ってくれた……! 僕の筋肉を……否定しなかった……! むしろ……僕の筋肉を……受け入れてくれている……!?)
しかし次の瞬間──
セリシーヌ嬢は、アルフレッドの前に立ち、さらりと言い放った。
「あのね、殿下……。いつも言っていますが……。筋肉を減らす努力は、今後一切禁止いたしますわ! 私の婚約者が今日も、《《哀れな方向性》》で努力するなど、恥ですもの」
「方向性が逆ぅぅぅぅぅ!!」
「そうです!!」
アルフレッドはセリシーヌ嬢の冷たい言葉を聞き、床に崩れ落ちた。
「セリシーヌ嬢……! 僕は……あなたに認められるために筋肉を減らそうとしていたのに……!」
「ええ認めておりますわ! ――今後は筋肉を減らさない努力を……これからはなさってくださいませ……。そうしないとやっと片手で持てるようになった盾と剣が、また持てなくなるでしょう……。だから筋肉は減らさない努力を……」
アルフレッドはセリシーヌの言葉を聞き、頭を抱える。
「筋肉を減らさない努力って何ぃぃぃぃ!!?」
しかし侍女たちはセリシーヌの言葉を聞き、歓喜──彼女たちは泣きながら叫んだ。
「殿下!! これこそ正しい方向性です!!」
しかしアルフレッドは、胸元をぎゅっと抱きしめながら呟いた。
「……僕は……絶対に……セリシーヌ嬢に認められる……!! 筋肉を……減らさない努力……? それは……つまり……」
セリシーヌ、騎士団長、侍女たちが褒め称えようと、アルフレッドは斜めに考える。
「殿下!? 言わないで!!」
侍女たちは顔色を変え、アルフレッドへと『待て!』を告げるが。
「筋肉を……維持するために……太ればいいのかもしれない……!」
だから、今日も侍女たち絶叫──泣いて叫ぶ。
「殿下ぁあああああああああっ!!」
こうしてアルフレッド王子は――新たな《《間違った方向性》》の修行……彼は筋肉維持のための《《太る修行》》へと進むのであった。
◇◇◇




