第3話 初めての婚約者は、驚くほどに骨皮筋右衛門でした(1)
私がこの世界が【バグっている】と確信したのは、七歳の時だった。
「ああ、セリア! 今日もなんて神々しい肉付きなのだ。お前のその、今にもはち切れそうな太ももを見るたびに、お父さまはブラント伯爵家の未来が明るいと確信できるよ!」
「本当でございます、お嬢様さま! その豊かな二重アゴ、まるで極上のマシュマロのよう! これぞ貴族の美徳、至高の美にございます!」
豪奢な自室で、高級バターとクリームをふんだんに使った特製ケーキを口に運びながら、私は内心で盛大にため息をついていた。
鏡に映る私は、金髪碧眼の美少女――の皮をかぶった、見事なぽっちゃり幼児である……。
前世──二十六歳でトラックに撥ねられて死んだ【三宅聖子】だった頃の私よりも、確実に肉の密度が高い。
前世の日本なら、間違いなく【デブ】と罵られ、いじめの対象になっていた体型だ。
だが、この異世界【リ・ルネサンス王国】の基準は狂っていた。
ふくよかであればあるほど、【魔力高く、量も多く、健康的で、経済的に豊かで、最高の美女】と崇め奉られるのだ。
前世で歴史書を読み漁り、『楊貴妃の時代に生まれればモテたのに!』と嘆いていた私の願いが、まさかこんな形で叶うとは。
(ふふん。男なんて、みんなルックスだけで女を品定めする生き物よ。前世の私をフッた男たちみたいにね。
なら、この世界では私がその立場になってあげるわ。この世界遺産級のわがままボディで、男どもを手のひらで転がす悪女になってやるんだから!)
そんな私が七歳にして、初めて「婚約者候補」と対面することになった。
お相手は、この国の第一王子、アルフレッド殿下……同い年の七歳だ。
「セリア、緊張しなくていいからね。王子とはいえ、まだ子供だ」
お父さまに手を引かれ、王宮の美しい空中庭園へと足を踏み入れる。
そこに、”彼”はいた。
サラサラと風に揺れるプラチナブロンドの髪……。
吸い込まれそうなほど澄んだルビー色の瞳……。
小さな顔に、すっと通った鼻筋……。
前世の日本なら、ジ〇ニーズのセンターか、二次元から飛び出してきた王子さまとして、全女子が悲鳴を上げるレベルの超絶美少年だった。
――ただし、この世界の基準を覗いては。
(うわぁ……。本当に、ガリガリの骨皮筋右衛門ね……)
私は心の中で、引きつった笑いを浮かべた。
王子の服は仕立てが良いものの、その体躯はあまりにも細い。
手首なんて、私が少し力を入れればポキリと折れてしまいそうだ。
頬も少しこけていて、前世の感覚なら【美少年】だが、この世界においては『見るからに貧相で、魅力に欠ける男児』そのものだった。
「初めまして、アルフレッド殿下。ブラント伯爵家が娘、セリシーヌ・フォン・ブラントにございます」
私が精一杯の淑女の礼をすると、肉豊かな私の身体がドレスを揺らす。
その様子を見た周囲の王宮メイドたちが、「まあ、なんて優雅なボリューム感……!」とウットリと息を漏らした。
対するアルフレッド王子は、私を見るなり、そのルビー色の瞳に明らかな《《焦り》》と《《劣等感》》をにじませた。
この世界において、王子さまの目の前にいる私は《《国宝級の美幼女》》……。
対する自分は《《貧相なもやしっ子》》……。
その圧倒的な格差に、《《プライドが高いらしい王子》》は耐えきれなかったのだろう。
王子はフンと鼻を鳴らし、腰に手を当てて、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「ふん……。君がセリシーヌか。なるほど、噂通りの大層な『お肉』をお持ちのようだね」




