第19.5話 第一王子アルフレッド、筋肉を減らす修行に挑むが“逆に増え”、セリシーヌ嬢の悪役令嬢ムーブがさらに強化される!
セリシーヌ嬢に《《哀れな見た目》》と言われてから八ヶ月半……。
王宮医務室・早朝──
「殿下……その……お体が……」
「僕の体がどうした?」
「……筋肉が……さらに発達しておられます」
「な……なんだってぇえええええええええっ!?」
アルフレッドは鏡を見て絶叫した。
そこには――肩幅がさらに広がり、二の腕はしなやかに盛り上がり、腹筋はうっすらどころか《《しっかり》》と割れ始めた美少年がいた。
「どうしてだ!! 僕は筋肉を減らす修行をしていたんだ!! 筋肉を減らすために、昨日は一日中ベッドで寝ていたんだぞ!!」
「殿下、それはただの不健康です!!」
医師は泣きそうな顔で叫んだ。
「殿下の体質は《《筋肉がつきやすい魔力体質》》です! 寝ていても筋肉がつくのです!」
「そんな体質いらないぃいいいっ!!」
アルフレッドは床に崩れ落ちた。
「セリシーヌ嬢……僕はあなたに認められるために、ガルディオとルファードの助言を聞き、筋肉を減らそうとしていたのに……。どうして……どうして僕は……筋肉が増えていくんだぁぁぁ!!」
侍女たちは泣きながら叫んだ。
「殿下!! その方向性は本当に間違っております!!」
しかしアルフレッドは、胸元をぎゅっと抱きしめながら呟いた。
「……僕は……絶対に……セリシーヌ嬢に認められる……!!」
その決意は、誰にも止められなかった。
王宮廊下・午前──
筋肉がさらに発達したアルフレッドが歩くと、廊下がざわめいた。
「殿下……肩幅が……また広がって……」
「歩くだけで……風が起きている……」
「殿下の背中……頼もしさが限界突破している……!」
ぽちゃり令嬢たちと細々令嬢たちが頬を赤らめる。
「殿下……今日の殿下は……まるで英雄……」
「違う!! 僕は英雄になりたいんじゃない!! ふくよかになりたいんだ!!」
侍女たちは泣きそうな顔でついていく。
そんな中――
「殿下~! おはようございますわ~!」
セリシーヌ嬢が優雅に歩いてきた。
その瞬間、令嬢たちの嫉妬が爆発した。
「セリシーヌ嬢は細すぎて……殿下の隣で釣り合わないのでは……?」
「殿下の筋肉が増えたことで……セリシーヌ嬢が見劣りしていますわ……」
「殿下の隣に立つなら……もっとふくよかな令嬢のほうが……」
「細々にも生きる権利が欲しい……」
その瞬間──!
王宮廊下の空気が凍りついた。
セリシーヌ嬢が、ゆっくりと振り返ったからだ。
その瞳は、氷のように冷たく、しかし高貴で――まさに《《悪役令嬢》》のそれだった。
「……今、なんとおっしゃいましたの?」
ふくよか、細々令嬢たちは、仲良く震えた。
「い、いえ……その……殿下が……筋肉で……立派になられたので……」
各自各々が、顔を引き攣らせながらだが、笑い誤魔化した。
「私が、殿下の隣で釣り合わない、と?」
「ひっ……!」
セリシーヌ嬢は、ゆっくりと微笑んだ。
その微笑みは、優雅で、しかし――背筋が凍るほどの“圧”を持っていた。
「殿下の隣に立つのは、私ですわ~! ――殿下がどれほど筋肉をつけようと、どれほど肩幅が広がろうと。私が釣り合わないなどと、二度と口にしないことですわ~」
闇の魔力を纏うセリシーヌ嬢に対して、令嬢たちは震えながら一斉に頭を下げた。
「も、申し訳ございません……!」
その光景を見て、アルフレッドは震えた。
(セリシーヌ嬢……僕のために……また庇ってくれた……! 僕の筋肉を……否定しなかった……! むしろ……僕の筋肉を……受け入れてくれている……!?)
しかし次の瞬間──!
セリシーヌ嬢は、アルフレッドの前に立ち、さらりと言い放った。
「殿下! いつも私が言っていますが! 筋肉を減らす努力は、今後一切禁止いたしますわ! 私の婚約者が《《哀れな方向性》》で努力するなど、恥ですもの……。だから昨日よりも少し落ちた筋肉と肩幅を直すように~、わかりましたか、殿下?」
痩せ忠犬二人の意見を採用し、筋肉を落とすために、ベットで寝て過ごしたアルフレッド王子は、セリシーヌ嬢の下知を聞き、顔色を青ざめ。
「方向性が逆ぅううううううっ!!」
正直者の王子……。アルフレッドは床に崩れ落ちた。
「セリシーヌ嬢……! 僕は……あなたに認められるために筋肉を減らそうとしていたのに……!」
「認めておりますわ……。だから今後は、筋肉を減らさない努力を、これからはなさってくださいませ」
「筋肉を減らさない努力って何ぃいいいっ!?」
侍女たちは泣きながら叫んだ。
「殿下!! 今度こそ正しい方向性です!!」
しかしアルフレッドは、胸元をぎゅっと抱きしめながら呟いた。
「……僕は……絶対に……セリシーヌ嬢に認められる……!! 筋肉を……減らさない努力……? それは……つまり……」
しかし──この王子さまは、何事も斜めに思案をする方だから。
「殿下!? 言わないで!!」
侍女たちは、愛するアルフレッド王子へと祈るように告げる。
「筋肉を……もっとつければいいのかもしれない……!」
ほらきた! やっぱり! アルフレッド王子は、また可笑しなことを呟いた。
だから侍女たちの顔色は変わり。
「殿下ぁあああああああああ!!」
こうしてアルフレッド王子は――新たな《《間違った方向性》》の修行(筋肉増強)へと進むのであった。
(完)
◇◇◇




