第19話 セリシーヌ悪役令嬢ムーブ第二段階! ふくよか美! ついに男たちを“本格的に”振り回す!
庭園の三つ巴騒動から一夜明けた王宮……。
セリシーヌは、ふくよかな影を揺らしながら廊下を歩いていた。
(……昨日のカオス、絶対また続くわね……。痩せ型忠犬二匹と筋肉王子が揃ってるんだから……)
そう思っていたのに──その予感は、当然のように的中する。
セリシーヌ嬢がふくよかな影を揺らし、廊下の角を曲がった瞬間──
「セリシーヌさまぁあああああああああっ!!」
「セリシーヌさまっ……!!」
「セリシーヌ嬢ぉおおおおおおおおおっ!!」
痩せ型忠犬二匹+筋肉王子が、同時に飛び出してきた。
セリシーヌは一瞬で悟った。
(……あ、これもうダメなやつだ)
そう思うと、三人は同時に跪いた。
「セリシーヌさま!! 僕は昨日より太りました!!」
「セリシーヌさま!! 僕は昨日より罵倒される覚悟ができました!!」
「セリシーヌ嬢!! 僕は昨日より筋肉が増えました!!」
セリシーヌは頭を抱えた。
(……なんで三人とも《《昨日より》》成長してるのよ……)
そして、悪役令嬢ムーブ第二段階が、自然と発動した。
◇◇◇
「……あなたたち、いいわ……。せっかく努力しているのだから──今日は《《試練》》を与えてあげる」
三人は固まった。
「試練……?」
「セリシーヌさまの試練……?」
「セリシーヌ嬢の試練……!?」
セリシーヌはふくよかな腰に手を当て、堂々と宣言した。
「今日の試練は──《《私を一番満足させた者だけ、褒めてあげる》》というものよ」
三人は同時に震えた。
「満足……!? どうやって!?」
「罵倒の質を上げればいいのか!?」
「筋肉をもっと見せればいいのか!?」
「違うわよ!!」
セリシーヌはため息をついた。
「あなたたち、私を満足させたいなら──【私の望むこと】をしなさい」
三人は息を呑んだ。
「セリシーヌさまの……望むこと……?」
「セリシーヌさまの……望み……?」
「セリシーヌ嬢の……望み……?」
セリシーヌはゆっくりと微笑んだ。
悪役令嬢の、ぞくりとするほど美しい笑みで……
「私の望みは──【あなたたちが勝手に私の周りで騒がないこと】よ」
三人は固まった。
「…………え?」
「…………騒がない……?」
「…………それは……試練……?」
セリシーヌは頷いた。
「そうよ~! 私を満足させたいなら──今日一日、私の前で騒がず、争わず、走らず、叫ばず、跪かず、罵倒を求めず、筋肉を揺らさず、地面を掘らず──静かに過ごしなさい」
三人は震えた。
「そ、それは……」
「無理だ……」
「無理です!!」
「無理なのね!?」
セリシーヌは叫んだ。
「あなたたち、私の望みが《《静寂》》だって理解できないの!? 私は優雅な悪役令嬢になりたいだけなのよ!! 痩せ型忠犬と筋肉王子に囲まれて騒がれ、ちやほやされたい、《《骨皮筋右衛門令嬢》》になりたいわけじゃないの!!」
三人は涙目になった。
「セリシーヌさまぁあああああああああっ!! 静かにする努力をします!!」
「セリシーヌさまっ……!! 僕、罵倒を我慢します!!」
「セリシーヌ嬢ぉおおおおおおおおおっ!! 僕、筋肉を揺らすのを控えます!!」
「控えるじゃなくてやめなさい!!」
今日も凝りもしないで、セリシーヌのツッコミが響いた。
◇◇◇
こうして──セリシーヌの悪役令嬢ムーブ第二段階は発動した。
痩せ型忠犬二匹と筋肉王子は、《《セリシーヌの静寂を守る試練》》に挑むことになった。
しかし──その試練は、彼らにとって地獄だった。
なぜなら!
「セリシーヌさま……静かにしてます……!」
「セリシーヌさま……罵倒を我慢してます……!」
「セリシーヌ嬢……筋肉を揺らしてません……!」
三人は、静かにしようとするあまり──逆に挙動不審になって、彼女の周りを幼子のように纏わりついた。
(……もう帰りたい)
セリシーヌは心底疲れた声でつぶやいた。
◇◇◇




