第17.5話 第一王子アルフレッド、筋肉を減らそうとして“また方向性を間違え”、セリシーヌ嬢の悪役令嬢ムーブがさらに強化される!
セリシーヌ嬢に《《哀れな見た目》》と言われてから八ヶ月……。
王宮大広間・午前──
今日は、王宮主催の小規模な茶会が開かれる日だった。
筋肉がつき、肩幅が広がり、歩くだけで侍女たちが頬を赤らめるようになったアルフレッド王子は、今日もわけのわからない絶望感に、彼は酔いしれていた。
「僕は……太りたいだけなのに……筋肉がついて……肩幅が広がって……
セリシーヌ嬢に褒められてしまった……!」
侍女たちは泣きそうな顔でついていく。
「殿下、それは普通は嬉しいことです……!」
「嬉しくない!! 僕は脂肪が欲しいんだ!!」
そんな中――
「殿下~、茶会の準備が整いましたわ」
セリシーヌ嬢が、優雅に歩いてきた。
金糸の髪、宝石の瞳、完璧な立ち姿──今日も《《ふくよかな悪役令嬢》》としての存在感が圧倒的だった。
「セリシーヌ嬢……!」
アルフレッドは反射的に背筋を伸ばした。
その瞬間――!
大広間に集まった令嬢たちがざわめいた。
「殿下……今日も肩幅が……」
「筋肉がついたことで、立ち姿が……本当に素敵……」
「セリシーヌ嬢より殿下のほうが……目立ってしまうのでは……?」
そのざわめきは、やがて《《嫉妬》》へと変わった。
「殿下は……セリシーヌ嬢よりも……今のほうが見栄えが……」
「殿下の隣に立つなら……もっとふくよかな令嬢のほうが……」
「セリシーヌ嬢は細すぎて……殿下の隣で釣り合わないのでは……?」
その瞬間──
王宮大広間の空気が凍りついた。
セリシーヌ嬢が、ゆっくりと振り返ったからだ。
その瞳は、氷のように冷たく、しかし高貴で――まさに《《悪役令嬢》》のそれだった。
「……今、なんとおっしゃいましたの?」
令嬢たちは震えた。
「い、いえ……その……殿下が……筋肉で……立派になられたので……」
「わたくしが、殿下の隣で釣り合わない、と?」
「ひっ……!」
セリシーヌ嬢は、ゆっくりと微笑んだ。
その微笑みは、優雅で、しかし――背筋が凍るほどの“圧”を持っていた。
「殿下の隣に立つのは、私ですわ! ――殿下がどれほど筋肉をつけようと、どれほど肩幅が広がろうと! 私が釣り合わないなどと、二度と口にしないことですわ」
令嬢たちは一斉に頭を下げた。
「も、申し訳ございません……!」
その光景を見て、アルフレッドは震えた。
(セリシーヌ嬢……僕のために……また庇ってくれた……! 僕の筋肉を……否定しなかった……!)
しかし次の瞬間──
セリシーヌ嬢は、アルフレッドの前に立ち、さらりと言い放った。
「殿下――あなたは今のままで十分ですわ……。筋肉がついたことで、私の隣での見栄えが、むしろ改善されましたもの」
「み、見栄えが改善……!?」
「ええ……以前は《《哀れな見た目》》でしたけれど……今は、私の隣に立つに相応しい《《王子》》ですわ」
アルフレッドは顔を真っ赤にした。
「セリシーヌ嬢!!」
侍女たちは泣きながら叫んだ。
「殿下!! 方向性が間違っていたのは、やっぱり殿下だけです!!」
しかしアルフレッドは、胸を押さえながら呟いた。
「……セリシーヌ嬢が……僕を庇ってくれた……。僕の筋肉を……否定しなかった……。これは……。これは……!」
その瞬間──アルフレッド王子は、八ヶ月間の苦行が報われたような気がした。
だが……その直後、セリシーヌ嬢はさらりと言い放った。
「ただし殿下! いつも申していますが! ――太ろうとする努力は、今後一切禁止いたしますわ! それと凛々しい肩幅と筋肉の維持……。魔法書を使用するのも禁止ですわ……。あれは極端に筋肉がつくので、見た目容姿が醜くなる外道……。私の婚約者が《《哀れな方向性》》で努力するなど、恥ですもの!!」
「方向性が逆ぅううううううっ!!」
アルフレッドは床に崩れ落ちた。
「セリシーヌ嬢……! 僕は……あなたに認められるために太ろうとしていたのに……!」
「認めておりますわ! ――太らない努力を、これからはなさってくださいませ!」
「太らない努力って何ぃいいいっ!?」
侍女たちは泣きながら叫んだ。
「殿下!! 今度こそ正しい方向性です!!」
しかしアルフレッドは、胸元をぎゅっと抱きしめながら呟いた。
「……セリシーヌ嬢に認められるためには……。筋肉を……減らすべきなのか……?」
「殿下!? 違います!! 絶対に違います!!」
「筋肉を減らせば……脂肪がつくかもしれない……!」
「殿下ぁああああああああああっ!!」
こうしてアルフレッド王子は――新たな《《間違った方向性》》の修行へと進むのであった。
(完)
◇◇◇




