第16話 十三歳のセリシーヌ、ついに“悪役令嬢ムーブ”を発動する──庭園の支配者、ふくよか美の逆襲!
庭園は、痩せ型忠犬二匹と太れない王子の叫びで、翌日も凝りもしないで、カオスと化していた。
セリシーヌは、ふくよかな影を揺らしながら、ついに限界を迎えた。
(……もう無理。今日こそ静かに帰りたいのに……! 痩せ型忠犬同盟は勝手に会議するし、王子は恋愛イベントを起こそうとするし……! 私はただ、悪役令嬢になって──痩せ型イケメンを侮って、嘲笑って、罵倒してストレス解消したいだけなのに!!)
彼女がそう思った瞬間──セリシーヌの中で、何かがぷつんと切れた。
十三歳の少女の中に眠る《《前世・聖子》》の黒い感情が、ふくよかな胸の奥からむくりと顔を出す。
だから悪役令嬢ムーブが、ついに発動した。
◇◇◇
「……あなたたち、いい加減にしなさい」
セリシーヌの声は、いつもの疲れた声ではなかった。
低く、冷たく、王宮庭園の空気を震わせる《《悪役令嬢の声》》だった。
忠犬同盟はびくっと震えた。
「セ、セリシーヌさま……?」
「な、なんだこの圧は……?」
王子はその場で固まった。
「セ、セリシーヌ嬢……? なんだか……怖い……?」
セリシーヌはゆっくりと歩き出した。
ふくよかな影が、夕陽に伸びる。
その姿はまるで、乙女ゲームの《《悪役令嬢ルート》》のCGそのもの。
「まず……ガルディオ殿!」
「は、はいっ!!」
「あなた、恋愛度MAXになったからって調子に乗らないで……。私の隣に立ちたいなら──太りなさい! もっとよ! 昨日の努力なんて、まだまだ足りないわ!」
ガルディオは胸を押さえた。
「……っ……! セリシーヌさま……! 僕……もっと太ります!! あなたのために!!」
恋愛度MAXの忠犬は、完全に悦んでいた。
セリシーヌは次にルファードへ向き直る。
「ルファード殿!」
「は、はいっ!! 罵倒をお願いします!!」
「罵倒されたいなら──もっと太りなさい! 痩せ型のまま罵倒されたいなんて、甘いわよ! 罵倒は《《ふくよか美の余裕》》があってこそ成立するの! あなたの体型では、罵倒の価値が下がるわ!!」
ルファードは感動で震えた。
「セリシーヌさまぁあああああああああっ!! 僕、太ります!! 罵倒の価値を上げるために!!」
「価値を上げるために太るって何よ!!」
セリシーヌは叫んだ。
そして最後……
彼女はゆっくりと王子へと向き直る。
王子は震えた。
「セ、セリシーヌ嬢……? なんだか……雰囲気が……」
セリシーヌは、ふくよかな腰に手を当てた。
「アルフレッドさま!」
「は、はいっ!!」
「あなた──恋愛イベントを起こしたいなら、まず、今の筋肉維持をしなさい! 私は、あなたへと、そう告げたはずですが!?」
「うっ……! は、はい……」
「それに痩せ型のまま恋愛イベントを起こそうなんて、甘いわ!! 私は、あなたさまへと筋肉質を求めたはず! 今の状態維持ができない殿方が走ってきても、イベントにならないのよ! わかりましたか~?」
王子は涙目になった。
「セリシーヌ嬢ぅううううううっ!! 僕、太りたいんです!! でも太れないんですぅううううううっ!!」
「だから私は、あなたに対しては──誰も太れとは言っていないでしょう!? もっと筋肉質になるように努力しなさいと言ったはずですが!? それともっと筋肉質になるための知識を学び、得なさい! あなたは! さらに筋肉を得るための人材を集めなさい! 筋肉を得るための人材が集まらないなら──筋肉ムキムキになる覚悟を見せなさい!!」
王子はセリシーヌ嬢の熱い言葉と下知を聞き、震えた。
「覚悟……ですか……?」
「そうよ! この私と恋愛イベントを起こしたいなら──痩せ型忠犬同盟に負けない覚悟を見せなさい!!」
忠犬同盟は感動していた。
「セリシーヌさま……なんて悪役令嬢……なんて美しい……!」
「この圧……最高だ……!」
セリシーヌは深いため息をついた。
「……もう帰るわ……。あなたたち、勝手にイベントを増やさないで……。私は悪役令嬢になりたいだけなのよ」
ふくよかな影を揺らしながら、セリシーヌは去っていった。
その後庭園には──痩せ型忠犬二匹と太れない王子が、同時に膝をついていた。
「セリシーヌさまぁああああああっ!! 僕、太ります!!」
「僕も太ります!!」
「僕も太りますぅううううううっ!!」
三人の叫びが、王宮庭園に響いた。
◇◇◇




