第14.5話 第一王子アルフレッド、筋肉化した結果、令嬢たちの評価が暴走し、セリシーヌ嬢の“悪役令嬢ムーブ”が炸裂する!
セリシーヌ嬢に《《哀れな見た目》》と言われてから七ヶ月と少し……。
王宮食堂・昼──
今日の王宮食堂は、いつも以上にざわついていた。
理由は一つ!
筋肉がつき、肩幅が広がり、歩くだけでマントが揺れる《《英雄風》》になってしまったアルフレッド王子が、食堂に入ってきたからだ。
「殿下……今日も素敵……」
「肩幅が広がったことで、立ち姿が……まるで騎士団長の若い頃……」
「殿下の腕……あれは抱きしめられたら絶対に安心できるやつ……!」
ぽちゃりとした令嬢たちが、頬を赤らめながらざわめく。
しかし当の本人は絶望していた。
「違う!! 僕は筋肉じゃなくて脂肪が欲しいんだ!! どうして誰も理解してくれないんだぁぁぁ!!」
侍女たちは泣きそうな顔でついていく。
そんな中――
「殿下。お昼のご様子を見に参りましたわ」
食堂の入り口から、ゆっくりと歩いてくる令嬢がいた。
金糸の髪、宝石の瞳、完璧な立ち姿!!
アルフレッドの婚約者、セリシーヌ・フォン・ブラント嬢である。
「セリシーヌ嬢……!」
アルフレッドは反射的に背筋を伸ばした。
その瞬間――
ぽちゃり令嬢たちがざわめいた。
「セリシーヌ嬢が来た……!」
「殿下の婚約者……!」
「でも……殿下は今、以前よりずっと素敵になって……」
そのざわめきは、やがて《《ある方向》》へと暴走した。
「殿下は……セリシーヌ嬢よりも……今のほうが見栄えが……」
「肩幅が広がった殿下の隣に立つなら……もっとふくよかな令嬢のほうが……」
「セリシーヌ嬢は細すぎて……殿下の隣で釣り合わないのでは……?」
その瞬間──
王宮食堂の空気が凍りついた!!
セリシーヌ嬢が、ゆっくりと振り返ったからだ。
その瞳は、氷のように冷たく、しかし高貴で――まさに《《悪役令嬢》》のそれだった。
「……今、なんとおっしゃいましたの?」
ぽちゃり令嬢たちは震えた。
「い、いえ……その……殿下が……筋肉で……立派になられたので……」
「わたくしが、殿下の隣で釣り合わない、と?」
「ひっ……!」
セリシーヌ嬢は、ゆっくりと微笑んだ。
その微笑みは、優雅で、しかし――背筋が凍るほどの“圧”を持っていた。
「殿下の隣に立つのは、わたくしですわ!! ――殿下がどれほど筋肉つけようと、どれほど肩幅が広がろうと。私が釣り合わないなどと、二度と口にしないことですわ」
ぽちゃり令嬢たちは一斉に頭を下げた。
「も、申し訳ございません……!」
その光景を見て、アルフレッドは最初は唖然……開いた口が塞がらない……。
だってセリシーヌ嬢へとアルフレッド王子は、《《瘦せ型忠犬二人》》に負けぬように、自分も恋愛度MAXになり、セリシーヌ嬢へと告白して、彼女に軽くあしらわれ、《《痩せ型駄目忠犬三人》》と罵られたばかりだから彼も、最初は自分の耳を疑う、
しかしアルフレッド王子も間が開けば我に返るから、彼は震えた。
(セリシーヌ嬢……僕のために……庇ってくれた……!? 僕の筋肉を今日は否定しなかった……!?)
しかし次の瞬間──
セリシーヌ嬢は、アルフレッドの前に立ち、さらりと言い放った。
「殿下――あなたが太る必要はありませんわ! 筋肉がついたことで、私の隣での見栄えが、むしろ改善されましたもの」
「み、見栄えが……改善……!?」
「ええ……。以前は《《哀れな見た目》》でしたけれど……。今は、私の隣に立つに相応しい《《王子》》ですわ」
アルフレッドは顔を真っ赤にした。
「セリシーヌ嬢……!!」
侍女たちは泣きながら叫んだ。
「殿下!! 方向性が間違っていたのは、やっぱり殿下だけです!!」
しかしアルフレッドは、胸を押さえながら呟いた。
「……セリシーヌ嬢が……僕を庇ってくれた……。僕の筋肉を……否定しなかった……。これは……これは……!」
その瞬間──!
アルフレッド王子は、七ヶ月間の苦行が報われたような気がした。
だが……
その直後、セリシーヌ嬢はさらりと言い放った。
「ただし殿下! 太ろうとする努力は、今後一切禁止いたしますわ! 私の婚約者が《《哀れな方向性》》で努力するなど、恥ですもの」
「方向性が逆ぅうううっ!!」
アルフレッドは床に崩れ落ちた。
「セリシーヌ嬢……! 僕は……あなたに認められるために太ろうとしていたのに……!」
「認めておりますわ……。あなたさまは、太らない努力を、これからはなさってくださいませ」
「太らない努力って何ぃいいい!?」
侍女たちは泣きながら叫んだ。
「殿下!! 今度こそ正しい方向性です!!」
しかしアルフレッドは、胸元をぎゅっと抱きしめながら呟いた。
「……僕は……絶対に……セリシーヌ嬢に認められる……!!」
この意味のわからない決意……。
十三歳の乙女が首を傾げる、アルフレッド王子の決意は、誰にも止められなかった。
◇◇◇




