第10.5話 第一王子アルフレッド、筋肉がついた結果、周囲の評価が変わりすぎて本人が混乱する
アルフレッド王子はセリシーヌ嬢に《《哀れな見た目》》と言われてから半年……。
太るための努力がすべて裏目に出て、むくみが取れた結果、筋肉がついてしまった第一王子アルフレッド……。
そして彼には、新たな悲劇(?)が始まった。
王宮廊下・朝──
「殿下……なんて凛々しい……!」
「肩幅が広がって、まるで若き騎士のよう……!」
「殿下の歩く姿が……美しすぎて……!」
廊下を歩くだけで、|侍女《アルフレッド王子親衛隊》たちが頬を赤らめてざわめく。
しかし当の本人は絶望していた。
「やめろ!! 僕は《《ふくよか》》になりたいんだ!! 筋肉がついて《《凛々しい》》と言われても嬉しくない!!」
「殿下、それは普通は嬉しいことです!!」
「嬉しくない!! 僕は脂肪が欲しいんだ!!」
彼の侍女たちは泣きそうな顔で、今日もついていく。
王宮訓練場・午前──
「殿下、今日も訓練を……」
「訓練は筋肉がつく!! 筋肉は悪!!」
「殿下、それは騎士団長の前で言ってはいけません!!」
騎士団長は震えていた。
「殿下……。その……筋肉がついたことで、男女問わず、騎士団の若者たちが……」
「若者たちが?」
「……殿下を《《憧れの的》》として見ております」
「な……なんだってぇぇぇ!!?」
訓練場の隅では、若い男女の騎士たちがひそひそと話していた。
「殿下の肩幅……すごい……」
「腹筋がうっすら割れてる……」
「俺たちも殿下みたいになりたい……!」
「きゃ~、素敵! 殿下~!」
若い男女の騎士たちから羨望の眼差しを浴びるアルフレッド王子……
しかし彼が、自分を見詰めて欲しいのは、婚約者のセリシーヌ嬢だから。
「やめろぉぉぉ!! 僕は筋肉をつけたくてつけたんじゃない!! 太りたかったんだ!! 脂肪が欲しかったんだ!!」
しかし彼の侍女たちの言葉はいつも通り。
「殿下、それはこの世界では“美徳”ではありません!!」
骨皮筋右衛門王子が落胆する言葉しか返してこない。
王宮食堂・昼──
食堂に入ると、貴族の《《ぽちゃりとした令嬢》》たちがざわめいた。
「まあ……殿下……なんて凛々しいお姿……!」
「以前よりもずっと……男らしい……」
「肩幅が広がったことで、ドレス姿の私たちとの並びが美しくなりそう……!」
アルフレッドは震えた。
「やめろ!! 僕は《《男らしい》》と言われたいんじゃない!! 《《ふくよか》》と言われたいんだ!!」
「殿下、それはこの世界では女性の褒め言葉です!!」
「僕はセリシーヌ嬢に《《男らしい肉付き》》と言われたいんだ!!」
「殿下、それは煽りです!!」
《《ぽちゃりとした令嬢》》たちがざわめきながら、アルフレッド王子をセリシーヌ嬢から庇う。
「そんなことはない! 彼女は、婚約者である僕が、容姿共々立派な王になって欲しいから、アドバイスをくれたんだ!!」
しかしアルフレッド王子はいつもの通りで、誰の言葉にも耳を貸さずに、《《ふくよかな体》》になるために精進を続ける。
✦王宮庭園・夕方──
庭園では、王宮メイドたちがアルフレッドを見てざわめいていた。
「殿下……今日も素敵……」
「筋肉がついたことで、歩き方まで美しくなって……」
「まるで絵画の中の王子様……!」
アルフレッドは頭を抱えた。
「違う!! 僕は《《絵画の王子様》》になりたいんじゃない!! 《《ふくよかで魔力の高い男》》になりたいんだ!!」
「殿下、それはこの世界では存在しません!!」
「存在させるんだ!! 僕がその第一号になるんだ!!」
「殿下ぁぁぁ!!」
今日も凝りもしないで、アルフレッド王子とメイドたちの絶叫が、宮殿内で響くのだった。
王宮医務室・夜──
「殿下……筋肉がついたことで、健康状態は非常に良好です」
「良好!? そんなものはどうでもいい!!」
「殿下、健康は大事です!!」
「僕は健康より脂肪が欲しいんだ!!」
医師は深いため息をついた。
「殿下……筋肉がついたことで、周囲の評価が……」
「評価が?」
「……《《王子として理想的な成長を遂げている》》と、王宮中で噂になっています」
「な、な……なんだってぇぇぇ!!?」
アルフレッドは床に崩れ落ちた。
「セリシーヌ嬢……僕は……あなたに認められるために太ろうとしているのに……。どうして……。どうして僕は……痩せて筋肉がついて……。周囲から《《理想的な王子》》扱いされるんだぁぁぁぁ!!」
侍女たちは泣きながら叫んだ。
「殿下!! その方向性は本当に間違っております!!」
しかしアルフレッドは、筋肉がついてさらに美少年化した顔で、枕をぎゅっと抱きしめながら呟いた。
「……僕は……絶対に……太る……!!」
その決意は、誰にも止められなかった。
◇◇◇




