第9.5話 第一王子アルフレッド、ついに太ることに成功するが、別の問題が発生する
セリシーヌ嬢に《《哀れな見た目》》と言われてから半年……
むくみが取れた結果、さらに痩せてしまった第一王子アルフレッドは、王宮の誰もが止められない《《太る修行》》を続けていた。
そして! ついに! その日が来た!
王宮医務室・早朝──
「殿下……。その……。ついに……」
「ついに……?」
「……太りました」
「な、なんだってぇええええええっ!?」
アルフレッドはベッドの上で跳ね起きた。
侍女たちが「殿下が太った!?」とざわめく。
「どれくらいだ!? どれくらい増えたんだ!!」
「……五キロほどです」
「五キロ!! やったぁぁぁぁぁ!!」
アルフレッドは医務室で万歳し、喜びのあまりベッドの上でぴょんぴょん跳ねた。
「セリシーヌ嬢……。僕は……ついに……。太ったんだ……!」
しかし医師は、困ったように眉をひそめた。
「殿下……。その……。増えたのは……脂肪ではなく……」
「脂肪ではなく?」
「……筋肉です」
「筋肉!?」
アルフレッドは医師の説明を聞き、首を傾げる。
だから王宮医務室で説明タイム……
「殿下が《《運動しない》》と言いながら、むくみ改善のために行ったストレッチや軽い運動が……。殿下の体質と魔力の影響で、異常な筋肉増加を引き起こしたようです」
「筋肉が増えた……?」
「はい。殿下の体質は《《筋肉がつきやすい魔力体質》》だったようで……」
「そんな体質いらない!! 僕は太りたいんだ!!」
「殿下、筋肉は太るとは言いません!!」
「知ってるよー! それぐらい! 馬鹿な王子だと陰口と囁かれる僕でさえー! うわぁ、ああああああん! 僕はどうしたらいいんだー!」
王宮医務室のベッドの上で、骨皮筋右衛門王子は、今日も絶叫をあげるのだった。
王宮廊下の午前……
アルフレッドは鏡を見て絶望した。
「な……なんだこの腕は……!!」
そこには――
むくみが取れた美少年の顔に、うっすらと割れた腹筋 ……。引き締まった二の腕 ……。しなやかな太ももがついていた。
「僕は……痩せた上に……筋肉までついている……!!」
侍女たちはざわめいた。
「殿下……なんて美しい……! まるで彫刻のようです……!」
「筋肉がついたことで、さらに美しさが増してしまわれた……!」
しかし当の本人は絶望していた。
「美しくなってどうする!! 僕は《《ふくよか》》になりたいんだ!!」
「殿下、それはこの世界では《《脂肪》》のことです……」
「分かっている!! だから太りたいんだ!!」
アルフレッドは壁に頭を打ちつけた。
「セリシーヌ嬢……僕は、将来君の横に並ぶ者として……。あなたに《《哀れ》》と言われたままではいられない……!」
アルフレッドは、今日も凝りもしないで、決意をする。
王宮訓練場・午後──
「殿下、今日は軽い運動を……」
「軽い運動!? そんなものでは筋肉がついてしまう!!」
「殿下、筋肉がつくことは健康です!!」
「僕は筋肉ではなく脂肪が欲しいんだ!!」
騎士団長が泣きそうな顔で訴える。
「殿下、筋肉は王族として必要な力です……!」
「いらない!! 僕はふくよかになりたいんだ!!」
「殿下ぁああああああっ!!」
ああ、騎士団長もまた骨皮筋右衛門王子の我儘のために、絶望の闇がうつるのだった。
王宮厨房・夜──
アルフレッドは、筋肉がついた美少年の顔で、こっそり厨房に忍び込んでいた。
「……夜食だ……。夜食を食べれば……。脂肪がつく……!」
「殿下!? またですか!!」
侍女が慌てて追いかける。
「筋肉がついたせいで、余計に痩せて見える!! これは危機だ!!」
「殿下、筋肉は健康の証です!!」
しかしアルフレッドは、ラード入りタルトを抱きしめながら涙目で叫んだ。
「僕は……絶対に……太るんだぁぁぁぁ!!」
今日も凝りもしないで、アルフレッドは、侍女と楽しそうに、【鬼ごっこ?】をする。
だから骨皮筋右衛門王子には、新たな問題が発生する。
翌朝……
「殿下……。その……。お体が……」
「僕の体がどうした?」
「……筋肉が……さらに発達して……」
「発達して?」
「……肩幅が広がっております!!」
「な……、なんだってぇええええええっ!?」
アルフレッドは鏡を見て絶叫した。
「肩幅が広がっている!! 男らしくなっている!! 太るどころか《《イケメン化》》している!!」
「殿下、それはむしろ良いことです!!」
「良くない!! 僕はふくよかになりたいんだ!!」
アルフレッドは床に崩れ落ちた。
「セリシーヌ嬢……。僕は……。あなたに認められるために……。太ろうとしているのに……。どうして……。どうして僕は……。痩せて筋肉がついていくんだぁああああああっ!」
侍女たちは泣きながら叫んだ。
「殿下!! その方向性は本当に間違っております!!」
しかしアルフレッドは、筋肉がついてさらに美少年化した顔で、枕をぎゅっと抱きしめながら呟いた。
「……僕は……絶対に……太る……!!」
その決意は、誰にも止められなかった。
「あああ、可愛そうな、私たちの殿下~!」
だから今晩も、アルフレッド王子の侍女たちは、夜空にきらめく星を見ながら、両手を胸の前で合わせ、握りしめ、祈るように嘆くのだった。
◇◇◇




