第89話 痩せ姫エミリー初登場! 美の価値観、初激突!(1)
ル・ルネサンス魔法学園に入学して一週間……
セリシーヌ・フォン・ブラントは、今日も廊下を歩くだけで周囲の空気を支配していた。
彼女が歩けば、男子生徒たちの視線が一斉に吸い寄せられる。
まるで重力そのものがセリシーヌに従っているかのようだった。
「今日も……神聖なる肉圧が……」
「二重アゴの影が尊い……」
「あの柔らかさ、歩く度に揺れる奇跡……」
セリシーヌは、そんな賞賛の声を聞きながら、扇を軽く揺らし、満足げに微笑んだ。
(……本当にこの世界、最高だわ……前世では、両親や友人、彼氏からも《《痩せろ》》としか言われなかったのに、今は歩くだけで崇められるなんて)
しかし──その日の中央庭園で、彼女は初めて《《異質な視線》》を感じた。
冷たい。
氷のように鋭く、軽蔑を含んだ視線……。
セリシーヌが振り返ると、そこに立っていた少女は──雪のように白い肌、細い手足……。
そう、前世の聖子が憧れた──まるで前世のモデル雑誌から抜け出したような体型だった。
彼女は、周囲の男子生徒たちがセリシーヌを讃える声を聞きながら、
露骨に眉をひそめていた。
「……理解できませんわ」
その少女は、扇を閉じ、静かに名乗った。
「わたくし、エミリー・フォン・ルクレール……。王都魔導院派閥の次期代表にして──。《《痩せ姫》》と呼ばれておりますの」
その名が響いた瞬間、庭園がざわついた。




