第8.5話 第一王子アルフレッド、むくみが治った結果、別の方向に進化する
セリシーヌ嬢に《《哀れな見た目》》と言われてから数ヶ月……
むくみを《《太った》》と勘違いして歓喜していた第一王子アルフレッドだったが――
医師と侍女たちの必死の努力により、ついにむくみが改善した。
しかし、それは新たな悲劇(?)の始まりだった。
そう 王宮医務室・早朝──
「殿下……むくみが完全に引きました。おめでとうございます」
「むくみが……引いた……?」
アルフレッドはゆっくりと鏡を覗き込んだ。
そこに映ったのは――
むくみが取れたことで、輪郭がさらにシャープになり、頬は引き締まり、目元はくっきりとし、まるで少女漫画の主人公のような《《超絶美少年》》……
そう彼が愛してやまない婚約者のセリシーヌ嬢が《《大嫌いなも》》のが完成していた。
「……細い……! 細くなっている!!」
「殿下、それは健康になった証です!」
「違う!! 僕は太りたかったんだ!!」
医師は頭を抱えた。
「殿下……むくみは《《太る》》ではありません! むくみが取れた今こそ、健康的な食事を……」
「健康的な食事!? そんなものでは太れない!!」
「殿下ぁぁぁ!!」
「うわぁ、ああああああああっ! 僕の努力が無になったぁああああああああっ!」
鏡の前で、今日も金髪碧眼のアルフレッド王子の口から絶叫が放たれる。
王宮廊下・午前……
むくみが取れたアルフレッドは、以前よりもさらに美少年化していた。
侍女たちがざわめく。
「殿下……なんて美しい……!」
「むくみが取れたら、逆に美しさが増してしまわれた……!」
しかし当の本人は絶望していた。
「美しくなってどうする!! 僕は男らしい肉付きが欲しいんだ!!」
「殿下、それは……この世界では《《ふくよか》》のことです……」
「分かっている!! だから太りたいんだ!!」
アルフレッドは壁に頭を打ちつけた。
「セリシーヌ嬢……僕は……あなたに《《哀れ》》と言われたままではいられない……!」
アルフレッドは、額から血が滲むまで、可部に頭を打ち続けたらしい。
王宮訓練場・午後──
「殿下、今日は軽い運動を……」
「軽い運動!? そんなものでは太れない!!」
「殿下、太るために運動しないという選択肢は危険です!!」
アルフレッドは訓練場の中央で叫んだ。
「僕は太るために……運動しない!!」
「殿下、それはただの不健康です!!」
騎士団長が泣きそうな顔で訴える。
「殿下、せめてストレッチだけでも……」
「ストレッチは痩せる!! 痩せることは悪!!」
「殿下ぁぁぁ!!」
アルフレッド王子の教育係りの騎士団長は本当に涙を流したらしい。
王宮厨房・夜……
アルフレッドは、むくみが取れた美少年の顔で、こっそり厨房に忍び込んでいた。
「……夜食だ……。夜食を食べれば……。太る……!」
「殿下!? またですか!!」
侍女が慌てて追いかける。
「セリシーヌ嬢に《《男らしい肉付き》》と言われるためには……夜食しかない!!」
「殿下、むくみが取れたばかりなのに!!」
しかしアルフレッドは、ラード入りタルトを抱きしめながら涙目で叫んだ。
「僕は……絶対に……太るんだぁぁぁぁ!!」
まあ、深夜遅くなのに、アルフレッドは心の病にかかった者のように叫び続けたらしい。
骨皮筋右衛門王子に、新たな問題が発生する。
翌朝──
「殿下……その……お顔が……」
「顔がどうした?」
「……むくみは取れたのですが……」
「取れたのなら良いことだろう!」
「……代わりに……」
「代わりに?」
「……頬がこけて、さらに細くなっております!!」
「な……なんだってぇぇぇぇぇ!!?」
アルフレッドは鏡を見て絶叫した。
「細くなっている!! むくみが取れたら細くなっている!! 太るどころか痩せている!!」
「殿下、それは夜食のせいで胃が荒れて、栄養が吸収できていないのです!!」
「僕は……太りたいだけなのに……」
アルフレッドは床に崩れ落ちた。
「セリシーヌ嬢……。僕はあなたの横に立ち並ぶ者として相応しい人物……。そう、ただ、あなたに認められるために……。太ろうとしているのに……。どうして……。どうして僕は……。痩せていくんだぁぁぁぁ!!」
侍女たちは泣きながら叫んだ。
「殿下!! その方向性は本当に間違っております!!」
しかしアルフレッドは、むくみが取れてさらに美少年化した顔で、枕をぎゅっと抱きしめながら呟いた。
「……僕は……絶対に……太る……!!」
その決意は、今回も誰にも止められなかった。
◇◇◇




