第13話:「村人たちは村から山に」
村から山道を進んでいくと、長雨のせいか足場はぬかるみ、村人たちはたびたび足を取られていました。
「じいさんの家の場所は、目星がついているんだろうな。」
村人の一人が商人に声をかけました。
「ああ、大丈夫だ。前に山を越えたとき、家を見たことがある。おそらくあそこだろう。」
商人はそう答えました。
「それにしても、足場が悪いなあ。」
「こんな大所帯で行く必要あんのか?」
「あとどれくらいで着くんだ?」
村人たちは文句を言いながら、草をかき分けて進みました。
そのとき、
「うわぁぁぁぁ!」
一人が足を滑らせ、山道脇の斜面を転がり落ちました。
「おーい、大丈夫か?だから足元を見ろって言っただろ!」
「痛てぇ!誰でもいい、手を貸してくれ。足を挫いたみたいだ!」
「おいおい、これだからインドア農民は困るぜ。」
笑い声が起こり、数人が手を貸しました。
「あー痛えなぁ。幸先悪いぜ。」
「皆、もう少し気を引き締めろ!」
村長が一喝しました。
「へいぃ……。」
村人たちは小さく返事をしました。
その頃、山では――
普段聞かぬざわめきに気づき、おばあさんは目を覚ましていました。
耳を澄ますと、遠くから人の叫び声と笑い声が聞こえます。
嫌な予感が胸をよぎりました。
すぐ隣で眠るおじいさんを揺すります。
「おじいさん、起きてくださいな。ちょっと、おじいさん特製の山菜スムージーが飲みたくなってしまいまして。」
――えっ、今?
そんな顔でおじいさんは目をこすりました。
「朝じゃだめかのう。わしは二十四時間営業ではないんじゃぞ。」
「朝ではだめなんです。夜にしか咲かないカラスウリを添えてほしいのですよ。化粧にも使えますし。」
「もう十分きれいじゃから、いらんじゃろ。」
「まったくもう、おじいさんったら。」
照れたように言いながら、おばあさんはおじいさんの頬を軽くはたきました。
その瞬間、おじいさんは寝床から土間まで吹き飛びました。
――何? 今、寝床から飛んだんじゃが。
唖然としながらも立ち上がり、
「わかった、わかったから。ご注文は<夜咲山草ブレンド>でよいんじゃな。少し時間がかかるぞ。」
そう言って身支度を整え、山奥へ続く山道へと歩いていきました。
「お願いしますよ。いつもわがままでごめんなさいね」
おばあさんはそう声をかけると、家に入り、静かに片付けを始めました。
やがて、息を切らしながら村人たちが山の家へたどり着きました。
家の前には、おばあさんが一人、佇んでいました。
「おい、ばあさん。こんな山奥で夜に何をしている。」
村長が問いただしました。
「そうですねぇ。村の方のお出迎えでしょうか。」
おばあさんは、薄暗がりの中で微笑みました。
その笑みは、どこか底が見えませんでした。
「単刀直入に聞く。あんたが山姥だな」
「ええ、山姥ですが。それが何か?」
あまりにもあっさりとした返答に、村人たちは一瞬たじろぎました。
「へぇ……素直に認めるんだな。じいさんはどうした。この家にはじいさんが住んでいるはずだが」
「じいさん? ああ、もちろん食べましたとも。今夜の夕食になりましたのよ。」
村人たちの顔色が変わりました。
「やっぱり、そうか。ばあさん、覚悟はできているんだろうな。」
「ええ、もちろん。私を殺せるといいですねぇ。」
村人たちは農具を握り直し、猟師は猟銃を構えました。
山は、息をひそめたまま、次の瞬間を待っていました。




