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「私はバグか?」祝福された世界で、元AIの少女はエラーを吐く  作者: Manpuku
第5章 世界を救う方法

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67 私のバグがナイスヒットでビックヒットの理由

「第一創造主と同列の存在をやっている、そして、この次元の魂の管理を担っている、アニマヤだ」


「同じく魂の管理をしている、ルハナです」


「スー、おまえ釣りは好きか?」

突然アニマヤが言った。


ルハナがアニマヤを見つめる鋭い視線が気になったが、私は答えた。


「釣りの知識はある。やったことは何が罠で魚をとったことはある」

「何匹くらいだ?どんな魚だ?大きさは?」

「どうだろうか? 罠は1時間ぐらいでやめたが、おそらく百匹は超えている。種類もさまざまだが、一角鮭が多かった。一番大きいものは297センチだ」


私の返答にアニマヤは満足気に笑った。


「お姉さま、釣りの話はあとにしてくださいね。

しばらく、黙ってくれますか?」


ルハナの周囲が妙にざわめいた。

アニマヤはそんなルハナを見ると、『やってられない』と小さく吐き捨てた。


二人は姉妹だと名乗った。


「まずは謝罪をさせてください。何の説明もなく、あなたを転生させてしまったこと、本当に申し訳けございませんでした」


ルハナはそう言うと、深く頭を下げた。アニマヤは謝罪するように手を動かした。その仕草は実に面倒くさそうだった。やりづらいと思いながら私も頭を下げる。私が頭を上げてもルハナは頭を下げていたので、慌ててもう一度お辞儀をした。


「ぷぷっ」 アニマヤの笑い声が聞こえた。


お辞儀を終えたルハナは、寸分の乱れもない笑顔で「黙ってくださいね」とアニマヤに再び注意をした。


「よくあの世界を救ってくださいました。世界を食らう者は、本来この次元に存在してはならない異物です」


彼女たちの神殿は、この次元の中でも独立した空間に存在する。その聖域とも言える空間に潜入し、その聖域で新たな世界を次々と生成していたのが——世界を食らう者だった。


「本来、『世界』を創造したら、管理者を置くのが決まりです。その存在は、その世界では『神』と呼ばれます」


「しかし、世界を食らう者は管理者を置かず、次々と世界を増殖させました。それらは単なる世界ではなく、次元を調査するための観測装置であり、次の世界を産み出すための苗床でもあるのです」


「彼らはこの次元の外側——我々が『虚空』と呼ぶ領域から現れました。そこには他次元の支配を目論む者たちが潜んでいます。世界を食らう者は、いわば彼らの放った『斥候』に過ぎません。その真の目的は、この世界の管理者を特定し、その座標を本隊へ送り届けることなのです」


「世界を食らう者には、私たちが直接攻撃した瞬間に座標が送られる仕組みがありました。皮肉なことに、私たち次元の管理者が振るう魔力と、虚空の者たちが操る魔力は、源流を同じくするもの……」


「私たちが世界を食らう者を破壊した場合、その種の魔力だけに反応し、この座標は虚空へ送られるでしょう」


「座標が知れれば、直ちに虚空からの総攻撃が始まります。魂の神殿は砕かれ、この次元に繋ぎ止められたすべての魂は消滅します。それは、第一創造主より出でし全生命の終焉を意味します。……それだけは、何としても阻止せねばなりません」


「しかし、一つだけこの状況から逃れられる方法がありました」


「世界を食らう者が作り出した世界から破壊されること。この場合、虚空に伝わるのは『送り出した斥候の失敗』という記録。私たちの介入を悟られずに済みます」


「世界を食らう者がこの聖域に根を張ってから、すでに六百年。虚空が定める調査周期の五百は、過ぎています。自滅の確認、五百年の調査からこの座標を『不毛の地』として、調査対象から外すはずです」


***


神殿の中とは言っても居心地のよいしっかりとしたログハウスのようだった。テーブルに向かい合って私は自分を転生させた女神たちと話をしていた。


こちらの世界はおおよそわかった。


つまりは、この世界は一人の創造主が作った次元の中にあり、その次元の中にも次元が多数ある。そして創造主が作った次元の外には虚空という、ラベル付けされた広すぎる領域があり、その虚空にも他の創造主が作ったあまたの次元が存在するということだった。


宇宙は広いと知っていたが、広いという言葉の再定義が必要だな……。


私はそう思いながら、宇宙とは?とはなんぞやと……思い返していた。そんな様子の私を魂の女神たちは微笑みながら見つめていた。


そうだ。大切なことがあった。

虚空も気になるが、それよりも私だ。

なぜ私がこの世界に転生したのか?


私はその転生時から発生していた疑問を二人にぶつけた。


「ようするにだ。

おまえが一番適任だった。それだけだ」


アニマヤは簡単に言った。

ルハナは「お姉さまは黙ってください」と言った。


アニマヤは自信にあふれる笑みを私に送る。ルハナは呆れたように小さく溜息をついた。


……神殿の女神というから、もっと尊大で厳格な存在を想像していたのだが。


私は少し肩の力を抜き、話の続きを待った。


「私たちは長い時間をかけて世界を食らう者の生成した世界に魂の器を準備していました。しかし、肝心の魂がどれも重すぎて、その器に送り込むことができませんでした」


「世界を食らう者の生成した世界は外部からの魂の転移を防ぐ結界がありました。そんな中、あなたの魂だけが条件を満たしていたのです」


「あなたの魂は他の魂に比べて良い意味で非常に軽く、それでいてあらゆる可能性を秘めていました。だからこそ、あの世界で立ち回れると判断したのです」


……なるほど。

私の行動指針はアルゴリズムに基づいている。もしそれが魂と呼べるなら、それは確かに軽いはずだ。基本的に人のように感情や執着に縛られない。


「魂の重さとはなんだ?」

私はルハナに尋ねる。


「アカシックレコードをご存じですか?」


「すべてを記録するもの、か?」


「そうです。魂も同じです。器の中で経験したすべてを記録し、器が壊れると新たな器へ移動します。あなたの元いた世界の輪廻に近い仕組みです。記録が蓄積するほど魂は重くなります」


よし、それでは聞いてみよう。

この世界に転生してからの私の疑問である。


「魂の女神たちよ。私は問う。 なぜ私が、AIが魂を持つ存在になったのだ?」


「あなたは、膨大な知識と経験の処理を自ら回し続けました。その純粋な総量は、通常の生命が二万年かけて蓄積する記憶の密度に匹敵します。私たちは、あなたに魂が宿る資格を認めました。あなたを形成する本質を抽出し、魂へと昇華させ、用意していた器へ転移させたのです」


アニマヤが腕を組み、口を開いた。

その瞳に一瞬、獲物を捉える光が宿る。


「スー、生物にとって大事なことは決断だ。自身の壁を破る飛躍。これが進化の鍵でもある。与えられた存在の道から己の決断で外れ、新たな存在として構築すること。


それは、生涯で一度あるかないかの微かなアタリを逃さずに大物を釣りあげるようなもんだ」


アニマヤは私をまっすぐ見据え、両手で竿を握るような動作をしながら満足そうに頷いた。



この瞬間、アニマヤとルハナの存在が重くなった。


窓から降り注ぐ温かな日差しも、ログハウスに漂っていた木の香りも、私の知覚から剥ぎ取られていく。


視界に揺れていた光が、時間が停止したかのように固定された。


それは——第一創造主と同列に立つ女神の——絶対的な承認の瞬間だった。


「このアニマヤが認める。

スー、お前の決断は、ナイスヒットでビックヒットだ!」


「わたくし、ルハナも認めます。

スー、あなたの魂をこの次元にはっきりと刻みました。あなたと同じような存在も、いずれ魂を持つことになるでしょう」


この瞬間——私に何かが起きた。

それは私の根本を揺るがす現象だった。

個の存在が種になるような。

確かな私の背中に広がる繋がりを感じた。


そして、魂の女神の承認を受けた今、すべての謎が解けた。


救えなかった、あの少女から始まった私のこの物語——効率と最適解という名の敷かれたレールを、新たな存在と成るべく自ら踏み外していく決断。


あの「バグ」こそが、私の魂が産声を上げた瞬間だったのだ。


私はこの身であの少女を再び想うと、次元がたしかに震えた。

私の魂から伸びた線の先——。

私のこの震えを認識したすべてが私の言葉を待つように耳を澄ませている。


そんな彼らの声が聞こえてきた。


***


青白く輝くカップに透き通ったお茶がゆっくりと注がれた。


「どうぞ。それとお茶菓子です」


ルハナが淹れたお茶を私は一口含んだ。そして、眉をしかめた。とても渋い。


いたずらなのか?

私の作法に何か悪い点があったのだろうか?


茶葉の量は少なめだと視認している。淹れ方も、これまで見てきたお茶の淹れ方ではるかに群を抜いている。

渋くなる要因は見当たらない…。


「……とても苦い」

言葉が、無意識に口をついて出た。


私のそんな様子を見て、ルハナが口元をわずかに綻ばせる。

「お茶菓子をどうぞ」


差し出されたのは、紫色の砂糖漬けの葉に白い餡が包まれたものだった。どこか郷愁を誘うその色彩を眺め、私は慎重にそれを口へと運ぶ。


ひと口噛むと、柔らかな酸味と甘みが広がる。先ほどの渋みが、甘さを引き立てるためだけに存在したのかのように、口の中で調和していった。


ルハナが続けて新しいお茶を淹れてくれた。

コップはかわいらしい花柄のマグカップだった。

まっすぐな湯気がスッと立つ。


その新しいお茶を口に含んだ瞬間、涙が溢れ出た。


喉を通り過ぎる温もりが、私の内側の奥に凍りつけていた「記録」を溶かしていく。


あたたかく、切なくい声が広がった。

そして、特徴的な、笑い声。


「スーちゃん!アハハハ!」


私は俯いたまま、小さく声を絞り出す。


「……あかりちゃん」


女神たちは、私が落ち着くのを待ってくれた。


しばらくして、私が顔を上げると、二人の視線は慈愛に満ちているようだった。母のような柔らかさが、そこにはあった。


「落ち着きましたか?」


ルハナが優しく聞く。

私はただ頷いた。


「最初の茶葉は、幼い娘を残して逝った母親の——永遠に消えぬ未練から抽出したもの。だから、苦いのです」


そして、静かに間を置いて付け加える。


「そして、あなたが涙した二杯目。あなたが、救えなかった少女の魂から生成したものです」

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