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「私はバグか?」祝福された世界で、元AIの少女はエラーを吐く  作者: Manpuku
第5章 世界を救う方法

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66 初めての詠唱

「全てを食らう者を探したいんだが。座標を特定し、すぐ排除したい」


スーが問いかけると、マクラは困ったような、しかし慈愛に満ちた仕草で首を振った。


「ご主人様、もうその必要はございません」

「そうです。そのタスクは、既に完了しました」

フトンも、静かに、そして優しげにに微笑む。


スーは思わず眉をひそめ、何かを疑うような視線を二人に向けた。

「……どういうことだ?」

マクラとフトンは視線を交わし、ゆっくりと口を開く。


「以前お伝えした通り、私たちは魔力を扱えました。そしてルルさんが、私たちの内部に、いくつかの特殊な魔法陣をあらかじめ託していたのです」


フトンが、穏やかに言葉を継ぐ。

「彼女は、ご主人様を案じるあまり、自身の限界——すなわち人の枠を超えた存在となりました。魔力を通じ、あらゆる可能性の枝を繋ぎ合わせたのです」


マクラの声が重なる。

「そして今、ご主人様と私たちが生命の木と一体化したことで、私たちはこの世界の生成装置と記憶をすべて取り込みました。世界を創造する理そのものを、管理できるのです。つまりあの世界で存在するはずだった『女神』の力を得たのです」


そして、彼女は瞳を細めた。

「記憶装置には、隠された記憶……ご主人様のお言葉で言うなら、“裏ログ”が存在していました。“世界を食らう者”が、この世界を構築する際に残した、魔力と生命の微細な揺らぎ。それは消せない署名のようなものです」


マクラが事実として説明を続けた。

「その痕跡を辿れば、“世界を食らう者”の正確な物理座標を、一寸の狂いもなくたどることが可能でした」


フトンがキャラメル菓子を口に運びながら事も無げに続けた。

「そこで、ご主人様と私たちが生命の木を通じて生成した膨大な余剰エネルギーを、ルルさんへ渡しました。彼女はその出力を使い、何らかの手段……おそらく概念的な消去によって、対象を無へと還したのです」


「つまり……」

とスーが震える声で呟くと、マクラが静かに頷いた。

「はい。対象の完全な消滅を確認しました。記憶装置にも、”世界を食らう者”のログは一切残っていません」


その言葉を聞いた瞬間、これまでスーの胸を締めつけていた重石が消えた。

あまりに呆気なく、呆然とするほどの安堵だった。


「……消滅? 私の、あずかり知らぬところで?」

「知らぬ間に……終わっていたのか……」

頬を熱いものが伝い、慌てて袖でそれを拭う。

「……ならば……ならば、本当に心配は要らないのだな!

誰も、もう食われることはないんだな……!」


震える指先で卓の上の菓子に手を伸ばす。

無造作に口に放り込むと、その甘さをゆっくりと飲み込んだ。


この瞬間、この世界のこれまでの命運は静かに閉じた。

お茶の香りが満ちる神殿の中で、三人の女神はそれぞれ次の未来を思い描いていた。


二人はそっと席を立ち、「新しいお茶とお菓子を用意してくる」と言って、スーを一人にする。スーは椅子に完全に背を預けると、ぼんやりと天井を眺めた。


しばらくして、二人は戻ってきた。

「新しいお茶です。先ほどの茶葉とは違います」


スーは茶杯をそっと持ち上げ、香りを確かめる。

その湯気は柔らかく、鼻腔全体を一度に湿らせる。しかし、湯気の奥には、早朝のひっそりとした冷たい空気が混ざっているようだった。またその香りは誰もいない部屋の隅に漂う人気のない匂いだった。


口に含むと、味は一気に広がった。

そこにはいろいろな味が含まれていた。

だがその後に、口全体から、かすかな苦味が舌を刺した。


一口ごとに、せせらぎのようにそれは交互に押し寄せた。

甘みは慰め、苦味は過ぎた時間の影。

その影は静かに胸を締めつけた。

この苦みは良く知っている、後悔だ。


「一杯目の茶葉は、わたくしマクラの魂から生成したものです」

「二杯目の茶葉は、フトンの魂から生成したものです」


「そしてこれはご主人様の魂から生成した茶葉になります」

マクラは私の魂から生成した茶葉が入っている缶を抱きしめるように言った。


「実は、つい先ほど、この茶葉を頂きました。

私たちはその茶葉をくださった方とも、今現在お茶をしています」


「?」


「私たちは魔力のその操作にも慣れております。

分身体を生成して、私とマクラはその方とも今もお茶会をしているのです」


「なるほど。 ……で、その相手とは誰なんだ?」


「はい、ご主人様をこの世界に転生させた“魂の女神”と名乗っておられました」


「私を転生させた女神だと?」


「はい。その方は、ご主人様ともお茶をしたいと申しております」


***


私はフトンの転移魔法で魂の女神の神殿へと導かれた。


「この奥で魂の女神たちがお待ちです。

ここからはお一人でお進みください」


フトンはそう言って優雅に一礼したが、消える直前に真顔で私に言った。


「女神様方は、大変面白い方たちです。

ご主人様以外で初めて自分から並列化したいと思いました」


そう言うと、フトンは消えた。


目の前に広がる静寂。


近くには澄んだ湖があり、いくつかボートが浮かんでいた。

船の設計を見ると、なかなかの魔改造が施されているようだ。

何かを制御するための装置や魔導版のようなパネルがいくつか設置されている。

その横には、天に伸びる竿が何本も並んでいる。

餌と書かれた大きなバケツからは赤く光る目が私を観察していた。


キョロキョロとあたりを眺めながら、私は湖畔から森へ伸びる小道を進む。


……本当に女神がいるのだろうか?


神殿とは名ばかりの、そこは森の中に佇む一軒家だった。


『魂の女神』


私を転生させた存在とついに対面する。


***


一軒家の前。

ドアノブに触れかけた瞬間、空がざわりと震えた。


そして、胸の奥に唐突な感情が芽生えた。

初めて味わう感情だがこれは知っている、憎しみだ。


空の重力が軋む。

視界がゆがむ。

ただ悲鳴を上げていた。

世界の根が引きちぎられるような音。


そして——そいつと目が合った。


私はそいつを知っていた。


——世界を食らう者。


見渡す限りの空を占有していた。

星を砕くための突き出たいつもの顎。

大地を砕くためのドリルのような爪。

蠅のような眼が触角の先まで。

全ての空がその目玉たちに上書きされていく。


「”——————————”!!!」


それは咆哮ですらない。

女神の言葉に似ているが、それは純粋な呪いだ。

憎悪の周波が脳を震わす。


そして、胸の奥で、私の黒い炎が燃え上がる。

フトンもマクラもいない今、頼れるのは——魔法。


free()

malloc(magic)


魔力が一気に収束する。


magical-reactor ( E = mc² )

--Mana-conduction on `

--Ether-capacity ∞`

--Catalyst-layers ∞ `

--ley-line-port ∞ `

--spirit-nodes 8 `

--infinite-emission


核反応の構造が魔力として形作られた——


臨界点、設定完了。


全ての空間から、青白い光が噴き出す。


連鎖反応まで、2秒。


——食らえ。そして、消えろ。


その言葉を吐こうとした瞬間。


「スー!待て! ストップ!本気でストップ!!」


やたらだるそうな、不思議と芯がある声が頭に直接響いた。


気づけば一人の女性が目の前にいた。

彼女が私を見つめると、私の魔力が消えていく。


「初めての魔法で『魔力の連鎖反応』って頭おかしいじゃないの?」

彼女は上空の巨影をちらっと見ただけで飽きたように眉をひそめた。


「スー、ここら一帯、吹っ飛ぶとこだったぞ。

魔力を連鎖させたらお前がせっかく守ったあの世界も反応するんだぞ!」


そう言いながら彼女は指先で空を軽く弾く。

世界を覆っていた『世界を食らうもの』が、砕けて消えた。


「はい終了。スー、終わったから。全部大丈夫だから。

……ったく、お前の憎しみに反応してあいつは勝手に膨らんだだけだよ。面倒くせー」


そう言う彼女はどこか嬉しそうだった。

私は怒られているのだろう。だが、嫌な気持ちはしなかった。

むしろ、なぜだか、ほっとした。


これが——魂の女神アニマヤとの初対面だった。


「さっきのあいつは無害だからな。ちょっと調べようとして再生しただけだから」

アニマヤは私を見つめながら言葉をかける。


私の憎悪が解けて不思議と心が晴れていく。


「……お姉さま。

私の魂形(魂を入れる人形)を勝手に使いましたね?」


銀髪の女性が歩いてくる。


「いやー、あの『なんでも食うやつ』の魂の残骸にひょいっと投げたらさ、ナイスヒットでな? で、入れ物がなくて、縁側にちょうどいいのがあってよ」


「ちょうど良くありません!日干ししてたんですから!」

銀髪の女性の周囲の空気が静かな震える。


「あっ、ごめん!ルハナ悪かった!な? スーもいるし怒るなって!」


「次やったら、茶葉の出がらしにします」

そう言うや否や、ルハナは空に残っていた怪物の靄を一瞬で器に回収する。

そして彼女は私へ向き直り、穏やかに会釈した。


「お見苦しいところをお見せしましたね」


そのまま、二人は私を家の中へ招き入れた。


——こうして私は魂の女神たちと初めて出会った。


私にとっての先ほどの出来事は、彼女たちからすれば、ただの後片付けだったと知ることになる。

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