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「私はバグか?」祝福された世界で、元AIの少女はエラーを吐く  作者: Manpuku
第5章 世界を救う方法

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64 勝手に急ぐこの世界へ

「生命の木と接触したら、時を止めます。皆さん、これから展開する私の魔法陣を受け入れてください」


ルルの言葉と同時に、空は何重もの魔法陣に埋め尽くされた。太陽のごとき輝きが夜を塗り潰し、幾何学の紋様が螺旋を描いて天へと伸びていく。それはさながら、意思を持つ光の塔だった。


「想像よりもすごく立派ですねー」


ルルは自身が作り上げた魔法陣の塔をしげしげと見つめていた。

そして夜空に浮かぶ月たちや星たちを一通り確認する。


「座標生成」


星々がルルの魔力に反応した。

瞬く間に宇宙の座標が広がっていく。


ルルの狙い通り、この魔力の塔はこの世界の外、星々までに影響を及ぼす構造体になっていた。


「ついでですー。そこの星さんも、私たちにご協力お願いします」


星たちは瞬きはルルに答えるように新しい魔法陣を塔の最上階に生成し始めた。


......さて、これで後は師匠と繋がって時間を止めるだけです。


***


幼い頃から、ずっと夢見てきた「時間を止めること」。


私はとにかく生活能力が低いと言われてきた。朝は起きられない、食事はゆっくり味わいたい。準備は遅い、待ち合わせは遅刻する。師匠には「体内時計が絶望的にズレている」と何度も言われた。


しかし、それはそんな単純な話ではない。

時間そのものが足りないのだ。

世界のほうが勝手に急ぐ。


だから私は、ずっーと、こう思ってきた。


「時を止められれば、すべてがうまくいったのに」


寝坊も遅刻も、焦りも不安も、何もかも。

——村が襲われたあの日、あの時も。

父も母も、弟も妹も、友達も。村の人々も。

時を止められれば、救えた。


そして、師匠の真意に気づいた。


彼女は死のうとしていた。


それから、私は時間停止魔法の研究に打ち込んだ。

魔法陣は、何度描いても失敗した。


けれど私は諦めなかった。

ただ、師匠の言葉を理解しようとした。


師匠は魔力が使えない。

けれど物知りで、誰よりも正確で。何より、いつも楽しそうに話をしてくれた。


「そうだなー。私がもし魔力を使えて、時間を扱うなら、こう考えるだろう」

師匠は静かに続けた。


時間とは、すべての存在に平等に流れる“変化の流れ”である。


時を止めても、物質は消えない。

それは時間がなくても、そこに「在る」からだ。

存在に変化を起こさせないこと。


——それが“持続する時間停止”の基本原理だろうな。


この仕組みを世界全体に広げられれば、時は止まるはだろう。最初の起点に「変化を止める意図」を強く込め、それがすべての存在に連鎖するように設計すれば、時間は止まるだろう。


こうして私は、「一瞬の停止」を「永続に近い停止」へ変えるための魔法陣を、ひとつずつ積み上げてきた。


問題は魔力だった。私は世界を止められるほどの魔力を持っていない。けど、私はすぐさま発想を変える。日頃から「いかに楽をするか」を考えてきた私の生き方が、ここで功を奏す。


私はそばにいたマクラとフトンに声をかけた。

「時止めしますので、ちょっと魔力をください」


ぽすん、と二人が跳ねるように承諾し、私はその魔力に合わせて小さな魔法陣を生成した。マクラとフトンが一気に縮んだ。


そこへ水を注ぐ。

——水は、落ちなかった。

ただそこに在った。止まっていた。


師匠がいつも“謎”を追いかけていた理由を、ようやく理解したような気がした。学びは、楽しい。やればやるほど成果が出て、同時に新しい謎が生まれる。私は、時を止めるための研究に、ただ夢中になった。


***


この魔法陣は、完成して終わりではない。

一度展開すれば、自ら成長を続ける。塔を成す無数の輪は、今も静かに組み替わり、増殖を続けている。階層に刻まれているのは、私のすべてだ。失敗も成功も、戦いも祈りも。その全記録が魔力の結晶となり、幾重にも積み上がっていく。


師匠の説いた構造など、私はまだ理解していない。けれど、確信している。これは終わりのない魔法陣の成長記録だ、と。


私には読めない古代語や、何かの記号が魔法陣に追加されていく光の鎖。世界中の魔力が塔の一部となり、空へと溶けていく。その光景を眺めながら、私は師匠の言葉を思い出していた。


「正しい記録を積み上げ続ける仕組みがあってな。誰にも壊されない、鎖のようなものだ」


この魔法陣は、正しい。

そう頷いた魔力だけが、塔の一部となっていく。


誰かが守ろうとしたこと。

誰かが祈ったこと。

誰かが諦めなかった、選択の軌跡。


それらが純粋な魔力の塊として繋がり、ほどけることのない鎖を編み上げていく。もはや、私が魔力を消費することすらなかった。世界そのものがこの陣を支え、育んでいるのだ。塔は勢いを止めることなく、一刻一秒、確実にその構造を更新し続けている。


「この世界が食われるんだ。そりゃ、みんな嫌だよね」


進化する魔法陣。

私が生み出したのは、きっと――そういうものだ。


これほど正しく、

これほど素直で、

これほど壊れないものが、ここに生まれた。


私は、空高くそびえる塔を見上げながら悟った

魔法が静的である概念が完全に終わったのだ。

これからは、世界が共に魔法を育てる時代なのだ。

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