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蜥蜴人間と彼女  作者: あおかえる
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46 最後の戦い(1)

 着地の瞬間、反射的に身体を丸め気味にして前回り受け身の姿勢を取っていた。かなり勢いがついて二回転ばかりしたが、身体のどこにもダメージは受けずに済んだ。

 

 (何だったんだ?落とし穴なのか?あの装置はなんだったんだ?)疑問がグルグル頭を廻る。……そしてここはどこだ。銃を構えながら辺りを見渡す。見慣れない建造物だった。少なくとも倉庫では無い。作業場と倉庫が併設されているような、体育館ぐらいの広さがある空間だった。後ろを振り返った。落下した部屋の隅に、給湯室で見かけた例の卵のような物体が置かれている。天井の一隅は、周りとは少し違う明度だった。

 (天井まで二メートルはあるな……あそこから落ちたのか。蜥蜴人間の移動装置みたいだな)

 

 建物の構造物は、それ自体が青黒く薄く明滅していた。生物的な妙に滑らかなラインで、柱や壁には古代の遺跡にあるような複雑な『線』と『円』で構成された彫刻が施されていた。

 

 (蜥蜴人間達が造った場所だな)こんな構造物は、SF映画やゲームの世界でしか見たことが無い。少なくとも人間が造ったものではない。俺は本能的に感じ取った。

 落下した場所は空間の一隅だった。部屋の中央には何か巨大な装置が鎮座している。……これまたゲームの世界でお馴染の『転送装置』にそっくりだった。部屋中に見たことも無い什器や機械類が置かれている。

 ……そして何匹もの蜥蜴人間……普通のも居れば、さっき苦戦した大型のも一体いる……が、こちらを驚いたように凝視している。

 

 (……まずい!)奴らの何匹かがこちらに銃を向けたのを見て、俺は咄嗟にそちらの方向に銃を撃ちながら、近くの遮蔽物に身を隠した。向こうも反撃してくる。俺のいる周りや遮蔽物に、続けざまに着弾して金属的な音を立てる。

 

 (やばいやばい。どうなっているんだ?本拠地なのか?ここが?)遮蔽物の隙間から銃を撃つ。奴らはこちらが一人と分かったらしく、銃を撃ちながら大胆に距離を詰めてくる。

 (距離を詰められたら死ぬ)俺は、一気に距離を詰めようと突っ込んできた蜥蜴人間に銃弾を浴びせる。奴はつんのめるように転倒した。それを最後まで見る暇も無く、次の蜥蜴人間に向かって発砲した。そいつは不用意に顔を突き出していたため、顔面に弾が何発も命中した。続けて別の目標に向けて引き金を引くが弾が出ない。弾が切れていた。

 

 遮蔽物に身を潜めると、すぐさま再装填して顔を上げる。目の前で銃弾が跳ねる。俺は怯まず撃ち返した。再装填の僅かな間にかなり接近されていた。

 (だめだ。助けは……来ないか?)無線は雑音を発するだけ。通じていない。何匹もの蜥蜴人間が包囲してくる。俺は思い切って連射モードに切り替えて引き金を引き続けた。

 

 機関銃のような凄まじい連射に、彼らは初めて焦ったように遮蔽物の陰に隠れた。連射モードの銃は、数秒で弾を撃ち尽くした。

 (大丈夫だ。奴らは恐れて暫くは顔を出さない筈)俺はそう踏んでいた。ところが装填のために頭を下げようとした時、やつらが一斉に立ち上がって、距離を縮めようとするのが見えた。

 

 (弾切れを知ってるのか?こっちの銃の性能を知っているのか?)焦った。装填は間に合わない。拳銃を抜くと、正面を横切ろうとした蜥蜴人間に向かって引き金を引く。外れた。 

 (距離は二十メートルくらいか。くそ。やっぱり拳銃は苦手だ。当たらない。このまま一気に来られた数秒で目の前だ。やばい。やばいぞこれは)

 

 俺は遮蔽物の隙間から、右、左と顔覗かし発砲した。拳銃は九発装填。さっき大型の蜥蜴人間に三発撃った。今、五発撃った。残り一発。短機関銃に装填さえ出来れば……。そう思った時だった。正面の遮蔽物から、大型蜥蜴人間が飛び出し、突っ込んできた。夢中で銃口を向け、引き金を引いた瞬間、奴は計ったように横っ飛びに跳んで狙いを外した。

 (くそ。最初からフェイントだったのか)歯噛みしたい気分だった。

 

 拳銃の遊底が金属的な音を発しながら後方で固定された。弾を撃ち尽くしたのだ。俺は遮蔽物の陰に身を隠すと、抗弾ベストの前面ポケットに入れてある短機関銃の弾倉を抜き装填しようとした。

 (早く……早く……)必死だった。……足音がする。奴らの銃声と付近に着弾する甲高い音。援護を受けながら何匹かの蜥蜴人間が突っ込んで来てるのだ。

 新しい弾倉を銃に叩き込み遊底を引いた。だが、遊底は最後まで引き切れず途中で止まった。装弾不良。

 (なんで?!何でこんな時に!)俺は焦って遊底をガチャガチャ動かした。…………金属的な音がして、引っ掛かっていた空薬莢が排出される。遊底がスムーズに戻る。よし……俺は遮蔽物から顔を上げた。

 

 蜥蜴人間が、鋭い鉤爪を振り上げながら飛び込んで来る。

 渾身の一撃を与える気満々で。

 

 (速い。ダメだ。頭を持ってかれる!)

 

 心臓が痛くなるくらい跳ね上がった。鉤爪が振り下ろされるイメージが浮かんだ。……しかし現実は違った。次の瞬間、蜥蜴人間は俺の頭を飛ばす代わりに、自分の頭が吹っ飛ばされた。意志を失った身体はコントロールを失い、猛烈な勢いで遮蔽物と俺を飛び越え、数メートル向こうまで吹っ飛んだ。

 

 (なんだ?何が起きた?)考える暇は無かった。もう一体の蜥蜴人間が、遮蔽物を廻りこんで横から突っ込んで襲い掛かってきたからだ。四つん這いになって走って来る。異常なスピードだ。そいつに慌てて銃口を向ける。

 引き金を引く前に、その蜥蜴人間は蹴躓けつまづくようにぶっ倒れた。俺は撃っていない。

 (援護?応援がきてくれたのか?)咄嗟にそう思った。

 

 「味方!撃つな!」背後で声がする。後ろを振り返る。俺が落下した部屋の隅に、神通さんが銃を構えていた。。良かった。援護が来てくれたのだ。神通さんは身体を低くし、小銃を構えながら走って来ると、俺がいる遮蔽物に飛び込んできた。

 

 「ありがとう。助かったよ」心の底からの感謝の言葉を口にする。

 「よかった。間に合って」神通さんが笑顔を見せる。

 「神通さん一人?他の隊員は?」

 「分からない。無線連絡して、すぐ飛び込んだから」

 「えっ?……なんで?そんな!……何でそんな危険な事を……?!」俺は驚いて叫んだ。

 

 「好きだから」

 

 こちらの眼をみながらはっきりとした言葉。

 

 「え?」

 「伏木くんの事が好きだから」同じ言葉を繰り返す。

 

 『どういう事……』と答えようとした時、神通さんの後ろに黒い影が見えた。反射的に、そちらに銃口を向けて撃ちまくる。跳躍して襲い掛かろうとした蜥蜴人間が、遮蔽物の手前で不格好に着地したまま動きを止める。

 

 「ごめん!私が右をカバーする!」遮蔽物の右側にいる神通さんが、そのまま銃を構えると、物陰でチャンスを窺っている蜥蜴人間に発砲する。身体を隠し切れずに僅かに肩が見えていた。見事にその肩に命中する。よろめいて姿を晒したそいつの頭に、銃弾が叩きこまれた。

 

 (凄い……なんという腕前だ……)内心舌を巻きながら、俺は遮蔽物の左側から反撃する。こちらが二名になり、しかも熟達した射撃を見たためか、奴らは警戒したように動きを止める。無闇に体を晒して突っ込むのはやめたらしい。

 

 ……その代わり、猛烈な銃撃が始まった。こちらの頭を上げさせないようにしている。つまりそれは……俺は状況確認用の鏡を取り出すと、そっと上に上げた。曲面加工してあるので像は歪むが、その代わりどの角度から見上げても状況を把握出来るようになっていた。

 

 歪んだ鏡像……正面からは蜥蜴人間が派手に発砲しているのが見える。チカチカと発砲炎が見える。そして何匹かの蜥蜴人間……大型種もいる……が、こちらから見て右側に移動しているのが見えた。正面と右側面の二方面から攻撃を仕掛けるつもりだ。

 「神通さん!」彼女が緊張した面持ちで振り向く。俺は手信号で、奴らの意図を伝えた。彼女は直ぐに頷くと、身体の位置を右に向けると、小銃の二脚を開いて銃を固定すると腹這いになり、伏せ撃ちの姿勢を取った。

 

 俺は遮蔽物の奥に身を潜めると、膝撃ちの姿勢を取った。そこは、神通さんの援護射撃も出来るし、少し体の位置を変えると正面にも射線が通るという、守るには絶好の位置だった。

 光学照準器を覗き、右側に狙いをつける。什器や機械の陰を利用しながら、蜥蜴人間がじりじりと近づいてくるのがはっきり見える。

 (焦るなよ……無駄撃ちは避けないと……)

 

 『応援の隊員は必ず来る』俺は信じていた。だが、それまでにどのくらいの時間が掛かるのか。頭の中で残りの弾倉数を確認する。作戦開始前の弾倉の数は最初に装填した分を除いて、短機関銃が四本、拳銃が一本だ。それが、現在では装填して半分ほど撃った一本と予備が一本。拳銃は最初に装填してある分を撃ち切ったので、予備の一本を装填したら最後だ。

 

 (神通さんはどうだろう?)そもそも女性という事で、携帯弾薬は男性より少ない。軽いように見えて大量に携帯すると、その重さが負担になるからだ。しかも彼女は倉庫で、かなり激しい戦闘を行っている。彼女の方をチラッと見る。神通さんは直ぐに装填できるように、手元に予備弾倉を置いていた。

 

 一個だけ。

 

 (俺と同じか。三十発入り弾倉が一個か。あとは拳銃だけ……。弾薬は節約しないと……)

 しかし、単発では蜥蜴人間は倒れない。大型の奴は尚更だ。訓練中も『射撃は三点射』が基本とされていた。短機関銃より威力のある自動小銃は『状況によって切り替え』とされていた。神通さんは射撃が上手いので、『単発』にしているだろう。

 

 どちらにしても、最小限の弾数で確実に奴らを排除していかなくてはいけない。俺は照準器内でチラチラ動く蜥蜴人間を見据えた。

 一匹の蜥蜴人間が、様子を窺おうと顔を突き出す。……チャンス! 俺が引き金を引く前に、そいつは仰向けに倒れた。神通さんが仕留めたのだ。速い。

 今度は左右の什器の陰から、二体の蜥蜴人間が立ち上がると、猛烈に撃ちかけた。こちらの位置は、まだよく分かってないらしい。精度の悪さも相まって、銃弾はあらぬ所に着弾する。俺は右の敵に狙いをつけると引き金を引く。命中。左側の蜥蜴人間に狙いを付けようとした時、ど真ん中から大型の蜥蜴人間が、四つん這いで突っ込んできた。

 

 異常な速さだ。狙いを付けて撃つが当たらない。獲物を狙う狼のように、左右に進路を切り返しながら迫って来る。奴の動きが速すぎて、完全に『追い照準』になってしまっている。さすがの神通さんも外しているのか、そいつは無傷で迫って来る。

 

 (落ち着け)必死で言い聞かせながら、奴が姿勢を右に切り替えした時、敢えて左に照準を置いた。そしてそいつが、筋肉をしならせた瞬間、引き金を引いた。銃弾が無人の空間を飛ぶ。一瞬後、そこに方向転換をした奴が飛び込んで来た。六発の銃弾が身体に吸い込まれる。着弾の衝撃でバランスを崩し、傍の什器に激突した。そこに神通さんが放った三発の弾が止めを刺す。

 

 「装填!」弾を撃ち尽くした神通さんが叫んだ時、二体の蜥蜴人間が突っ込んできた。それに気が付いた彼女はすぐさま立膝の姿勢になると、太もものホルスターから拳銃を抜くと、一方の蜥蜴に発砲した。一撃でそいつはひっくり返る。流れるような動作は全く無駄が無く落ち着いていた。その動きは美しいとすら思った。

 俺はもう一方の敵を狙う。なんとか二射目に命中。だが今度は俺の銃が弾切れだ。

 「装填!拳銃未装填!」俺が叫ぶ。

 「装填急いで!」拳銃を撃ちながら神通さんも叫ぶ。俺は短機関銃、拳銃とも最後の弾倉を素早く装填した。

 「装填完了!」俺は神通さんに伝えると銃を構える。側面攻撃しようとした奴らは、その失敗を悟ったらしく生き残りの二匹が逃げていく。不用心に背中を晒す一匹を狙う。そいつは手足を拡げて倒れた。よし。すぐに正面に銃を向ける。

 予想通り、正面からも三体の蜥蜴人間が、援護射撃を受けながら突撃してくる最中だった。そいつらに向かって撃ちまくった。二匹が倒れ、それを見た一匹は突っ込むか戻るか、躊躇したように立ちすくむ。そいつに慎重に狙いを付けて引き金を引く。弾が当たったそいつは、うつ伏せに倒れ動かなくなった。

 

 正面と側面からの攻撃を防ぎ切った。全員攻撃を仕掛けてこなかったのと、奴らの攻撃のタイミングが狂って、同時攻撃にならなかったのが幸いだった。相手のミスに救われた感じだった。

 俺が正面からの攻撃を防いでる間に、神通さんは小銃と拳銃に最後の弾倉を挿しこんだ。


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