42 戦闘(3)
『こちら本部。捕らえられた一般人の状態は? 送れ』
『反応が鈍い。意識レベルも低い状態です。 送れ』雄山が即座に答える。確かに、ライトの光を浴びてもぞもぞ動き始めた人間たちは、見知らぬ者に囲まれているにもかかわらず、寝起きだからというレベルを超えた虚ろな眼で驚いた様子も見せなかった。
『こちら本部。念の為、一般人の手足を拘束しろ。凶暴化する可能性がある。班は作業終了後、作戦を続行せよ。予測の五名より遥かに多い。他にもいるかもしれない。注意しろ。二階部分の捜索が終了後、支援班……キロ及びリマは、一般人の搬出せよ。命令あるまで待機。送れ』
『事務所班。了解』
『こちら支援班班長。了解。別命あるまで待機する』
石動さんを扉付近で警戒して貰い、三人は拘束用の結束バンド……一般作業で使う三倍くらい幅広なそれを使い、囚われた一般人の手足を縛って廻った。服は普段着で、垢じみて汚れていた。
(一体何日風呂に入ってないんだ?)凄まじい匂いが鼻をつく。彼らは老若男女問わず、薄汚れ、酷い匂いを発し、汗の溜まる首筋や肘の関節が、皮膚病に罹り赤く爛れていた。
「よし、こちらは完了した。伏木。終わったか?」雄山が尋ねてくる。
「あと一名です」俺は返事をする。
「よし、彼女は俺がやろう」上市が手早く、中年女性を後ろ手に拘束し足首を縛った。彼らは、拘束されている間も全く抵抗しなかった。淀んだ眼でこちらを見上げるだけだった。
「やっぱり、彼らの支配下にあるみたいだな」上市が呟く。
「あぁ、なんらかの力でコントロールされているみたいだな」雄山三曹が返事をし、すぐに無線に呼びかける。
『こちら事務所班。一般人の拘束を完了。奥に進む。送れ』
『本部。了解。あと、倉庫班が彼らの自動砲の破壊に成功した。神通がやった。負傷者無し。焦らなくても良い。慎重に進め』事務的な本部の通信だったが、砲の破壊に成功したためか、口調が明るかった。
『事務所班、掌握した。慎重に進む』雄山の声も弾む。
(……神通さん、凄いな)吹奏楽部という文化部を長年やっていたのに、秘めた才能があったんだ……本人は、その才能をどう思っているか知らないが、現状、皆の命を救う働きをしている。倉庫班は、初っ端から激しい戦闘に巻き込まれた。事務所班は、狙撃班の援護もあって、そこまで激しい戦闘は行わずに済んでいる。
(……でも、まだ半分も終わっていない。これからだ。集中しろ)俺は、自分に言い聞かせ、銃身を握りしめた。
俺達は、一階最後の扉の前に到着した。食堂と給湯室がある広い部屋だ。扉に対して、右対面奥に給湯室が部屋の隅に引っ込んだように配置された間取りになっていて、そこが死角になっている。 そのため、敵の配置によっては、奴らの待ち伏せに嵌まってしまう可能性があった。なので、この部屋の突入訓練は念入りに何度も行った。
この部屋は男三人が突入する。部屋の左が俺。右が雄山、そして扉の対角線上にある給湯室は上市だ。石動さんは三人の後ろから援護する。自分の受け持ちエリアの安全を確保したら、すぐに他のエリアの援護を行う。相互防御が肝だ。
三人が銃を構える。石動さんがドアノブを握るとこちらの眼を見る。三人が頷いたのを見て扉を開けた。三人が部屋に飛び込む。
部屋の真ん中に、呆然と突っ立ている人影がいた……一般人だ。俺は叫んだ。
「真ん中一般人。丸腰!撃つな!」
焦ったように、銃をガチャガチャしている蜥蜴人が正面視界に飛び込んできた。反射的に引き金を引く。彼の身体に銃弾がブスブス突き刺さるのが見えた。体液が飛び散る。部屋の右側から、彼我の銃声が断続的に聞こえる。右にも敵がいるのか。
目の前には自分が倒した蜥蜴人間しかいない。「左、クリア!」と叫びながら、身を低くして銃口を右に廻す。
部屋の右横の隅に椅子や机が積み上げたバリケートが作られ、そこから銃身が飛び出ている。雄山がそれを狙って発砲するが、給湯室の辺りにいる蜥蜴人間が銃を撃ち返し、雄山は狙いを付けられない。カバーしている上市が給湯室の敵を狙うが、真ん中でゆらゆらしている一般人が邪魔で狙えない。彼の場所から発砲しようとすると、一般人に当たる可能性があった。
俺は部屋の左隅から、右隅のバリケードに狙いを付けて何度か引き金を引いた。バリケードは椅子や机以外の材料も使っているのか、異様に堅固で打ち崩す事すら出来ない。
(……ダメだ。バリケードが固い。隙間を狙いたいが、角度が付き過ぎている。部屋を突っ切って対角線上の部屋の隅から狙うしかない)俺は、正面の壁を睨む。あそこの隅からなら狙える。
そう思って飛び出そうとした時、先に上市が動いた。素早く部屋の真ん中、一般人の傍まで飛び出すと、バリケードの隙間に向かって、殆ど迷いなく狙いをつけると銃弾を一気に叩き込んだ。バリケードの中で、蜥蜴人間がひっくり返るのがはっきり見えた。一撃だった。給湯室付近に隠れている蜥蜴人間と上市は一直線上だ。
(まずい)
俺は咄嗟に銃を向ける。
相変わらず一般人がフラフラしていて危なくて撃てない。
(邪魔だ。撃てない)
その時、石動さんが部屋に飛び込むと、身を乗り出して上市を狙っている蜥蜴人間に銃撃を加えた。蜥蜴人間の頭蓋が吹き飛ぶのが見えた。給湯室にいるもう一匹は、慌てて身を隠す。これで四対一。落ち着いて網を絞って最後の一匹を排除すれば、この部屋は安全だ。




