41 戦闘(2)
通信を終えた雄山が、こちらを向くと手信号で突入の陣形を指示する。雄山と上市がターゲットの排除。俺が二人の死角の援護。石動さんが後方及び、死角の警戒だ。俺と石動さんは立ち上がって、扉の傍まで近寄る。さっきとは違う。蜥蜴人間が待ち構えているのが分かっている場所への突入だ。
雄山と上市が銃を構えて室内に突入する。一歩遅れて俺と石動さんも突入した。銃を室内左側に向ける。無人だ。すぐに銃口を突き当りにあるドアに向けて、敵の応援の突入に備える。その時、雄山が猛烈な射撃をコピー機の辺りに加えた。上市も逆サイドから銃撃を加える。真鍮色の空薬莢がけたたましい音を立てて床に落ちる。
「よし、排除したか?」雄山は油断なく銃口を倒れた蜥蜴人間に向けながら呟く。上市は、傍に落ちていた蜥蜴人間の銃を拾うと、顔をしかめた。
「新型か?資料とは違う」
「形状が違う。精度も上がっているし、……装填は少し時間が掛かるみたいだが二連発か?」雄山が上市の言葉に応じる。
「いや、三連発だった。やっかいだな」上市が雄山の言葉に反応した時だった。俺達が居る隣の区画。つまり倉庫区域で断続的な射撃音がした。四人はハッとして耳をそばだてた。蜥蜴人間が使う銃特有の、畳み込むような軽い射撃音のあと、重たい重厚な射撃……砲撃と言っていいくらいの発砲音が聞える。
『……本部!本部! こちら倉庫班! 敵と遭遇した。七体確認。距離三十メートル。奴らは壁面回廊上に自動砲のようなものを据え付けている。威力が大きい。動けない!』
『……砺波! 左に回り込め!あの砲を破壊しないと、俺達はやられる!』
『分かった!……福光! 援護してくれ!正面に一人発砲している。あいつが邪魔だ。センサーではターゲット。神通!確認!』
『あれはターゲット!行けます!あれは私が狙います!左の柱の陰と右の什器の陰にいるのもターゲットです。私が狙撃する間、そちらの動きを止めてください!』
『掌握!福光。彼女を援護しろ!』
『了解!行くぞ!』
突然、レシーバーから倉庫班の声が奔流のように流れ込んできた。応援の二人の空挺隊員と神通さんが大声を交わしている。続けざまに起きる発砲音。外にいる狙撃手は狙いたくとも、倉庫は高い位置に取り付けられた採光用の小さな窓と、光を通す白色のスレート板だけで、射線を通せるような窓は無い。蜥蜴人間は強力な自動砲のようなものを備えているらしい。……こちらの予想外だ。そんな話は聞いていない。だが、今更どうすることも出来ない。倉庫班は四人だけの自力で、敵の砲を排除しなくてはならない。
『こちら本部。事務所班へ。無線の倉庫班チャンネルを切れ。情報が錯綜する。集中も乱れる。倉庫班の状況は逐次、こちらから行う。ターゲットの火器が想定外なのは掌握した。ただ作戦は続行する。作戦は続行!送れ』
『こちら事務所班。掌握した』俺達四人は、倉庫班と繋がる無線チャンネルをOFFにした。四人の声がふっつりと消える。だが、壁越しには彼我の射撃音がはっきりと聞こえる。蜥蜴人間の持つ重火器の発射音も。
「急ごう。でも焦らずに」雄山が決意を秘めた眼を俺達に向ける。
「了解」上市が答える。俺と石動さんも頷くと、奥に続くドアに目を向けた。
俺達四名は、隊列を組むと更に奥へと進入した。
◇
事務所を抜けると長い廊下が広がっていて、部屋が片側に四つ並んでいる。部屋は外に面した側にある。部屋には窓が必ずあるはずだ。
(狙撃班が援護射撃してくれる)俺がそう思ったとき、無線から声が聞こえた。
『こちら狙撃班。掌握していると思うが、そちらの進行ルートの部屋の窓は全てブラインド、雨戸が降りていて狙えない。慎重に進め。送れ』
『こちら雄山。掌握している』
(え!? そうだっけ?)俺は慌てた。そしてブリーフィングの時、そんな事を高岡隊長が言っていたのを思い出した。
(そうか……そうだった。さっきの狙撃手の援護が凄すぎて、頭から抜け落ちていた。そうだ。俺達も倉庫班と同じだ。独力でやるしかないのか)
一つ目、二つ目の部屋は無人だった。物置にすらしらしていない。殺風景な部屋だった。三つ目の部屋のドアの前に立った時、上市の眼が鋭くなり、雄山が俺と石動さんの方を見て、人差し指を唇に当てた。何かの気配がするのか。
事前の建物の見取り図から、この部屋には鍵が無いのは分かっていた。三人が警戒する中、雄山がそっとドアを開いた。
上市と俺が、すぐさま突入する。銃を部屋の右側に向ける。採光はブラインド越しだけの薄暗い室内に、大量の人影が横たわっていた。ハッとした俺は咄嗟に引き金を引きそうになって、慌てて自分の指先にストップを掛ける。
「撃つな!撃つな!人間!」俺は叫んだ。
上市も一瞬撃ちそうになったのか、慌てて銃口を上に向けた。上市と雄山が銃身下部に取り付けてあるライトを点灯する。それを見て俺と石動さんも、ライトのスイッチを入れた。
薄汚い風体の人間……男女ごちゃ混ぜで雑魚寝している。入浴していない人間特有の強い匂いが部屋を漂っている。石動さんが顔をしかめた。
「うへ。こりゃきついな」雄山三曹も思わず呟いた。そして、本部に連絡を入れる。
『こちら事務所班。N1F003の部屋にて、ターゲットに囚われたと思われる一般人を発見。人数は……』
『人数は十名だ』素早く数え終わった上市が言葉を繋ぐ。そう言いながら右手で銃を構えたまま、左手を後ろに廻し拘束用の結束バンドの束を引き抜いた。それに倣って、俺も結束バンドを取り出した。




