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蜥蜴人間と彼女  作者: あおかえる
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39 作戦開始

 翌日からも訓練は続いた。俺と石動さんは教官に謝罪した。教官も『作戦前で感情的になってしまった。こちらこそ申し訳なかった』と謝罪してくれた。お互いが謝罪した事によって変なわだかまりも残らず、訓練に集中できた。

 石動さんも、調子を取り戻し懸命に訓練に打ち込んだ。『とにかく今は作戦完遂に集中』という決意が表情に滲み出ていた。

 何日か過ぎた頃だった。訓練開始時刻が朝の八時から六時に変更になった。寒い早朝の起床が嫌で、俺が顔をしかめていると雄山三曹が話しかけてきた。

 「もうすぐ作戦実行だ。恐らく黎明に襲撃する。だから起床時間もそれに合わせているんだ。薄暮攻撃かとも思っていたが、なんせ相手は、昼間でも敵味方の区別が付きづらいからな。 だから、黎明に作戦を実行するのだろう。奴らの寝こみを襲う。いよいよ本番だ」

 

 

 

 緊張に満ちた何日が経ったある朝、いつものように訓練室前に集合して、装備を身に付けて整列し、教官が来るのを待機していると、教官では無く高岡隊長が皆の前に立った。

 「皆さん、これより作戦を発動します。小矢部邸隊、倉庫隊に分かれて、至急、地下の駐車場に集合して下さい」

 「はい!」全員が返事をすると、VR用の短機関銃と拳銃、ゴーグルを置く。「実銃は訓練室出口で渡す。急げ」城端二尉の声が響く。

 (いよいよ本番か……って予告なしなのか)俺は少し驚いていた。機密保持の必要性や不要なプレッシャーを避けるためなのだろうが、余りにも急だった。だが、本番はあっけなく、唐突に開始された。作戦分隊は各々、火器と弾薬を受け取ると駐車場に急いだ。薄暗い地下の駐車場には、パトカーと陸自の兵員装甲輸送車が待っていた。

 

 パトカーの先導の下、俺達を乗せた車輌は三十分ほど、まだ夜が明けきらない暗い道を走り、現場の倉庫に到着した。既にバックアップチームが集結し、配置についていた。輸送車から降りた作戦分隊は、事務所班と倉庫班に分かれ各配置場所で待機する。

 氷見二曹と神通さんとは、この後しばらくはお別れだ。作戦が上手くいけば、倉庫居住エリアの二階で集合する事になっている。ただ、戦闘になるのは間違いないだろう。誰かが怪我をするかもしれない。……ひょっとしたら……それ以上の事も考えられるかもしれない。

 俺は、氷見二曹と神通さんの顔を見る。二曹は引き締まった顔に、こちらを励ますような表情を浮かべると、親指を突き立てるポーズをした。

 

 「必ず成功する。伏木。びびんなよ」

 「はい」俺は、二曹の自信の満ちた表情を見て、少し落ち着いた。

 「伏木くん。またあとでね」神通さんも声を掛けてくれた。緊張のため少し強張っているが、それでも笑顔をみせてくれる。

 「分かった。神通さん、またあとで」彼女の笑顔を見て、俺の顔にも笑顔が戻った。

 倉庫班の氷見、神通、応援の空挺隊員二名の四名は、事務所とは逆になる倉庫出入り口に移動した。四名の背中が遠ざかっていく。この後、会えるのは作戦終了の時だ。

 

(大丈夫。絶対に会える。作戦は成功する)彼らの背中を見送りながら、俺は心に強く念じた。

 

 雄山三曹と上市が、鉄帽の正面に取り付けてある金具に単眼のセンサーを取り付ける。技術チームが開発してくれた、蜥蜴人間識別センサーだ。パトロール任務で実際に使用して実用性は確認済みだ。人間に偽装していても、センサー越しに見ると、顔面の鼻の辺りと喉と心臓付近が赤く光るようになって見破れるようになっている。ただし、判別できる確率は80%程度、しかも、蜥蜴人間の必殺武器である尻尾は見えない。……接近戦だと相手が有利なのは変わらなかった。それでも、今迄のように『全く蜥蜴人間と人間の区別が付かない状態』が、かなりの割合で解消されただけでも、こちらにとっては大きな前進だった。

 

 二人がセンサーの点検をしている間、自分の装備の点検が終わった俺は周りのバックアップチームの動きを見ていた。みな忙しそうに動き回っている。少し離れた場所で、狙撃手が複数の建物の屋上や、地上の建物の陰に陣取っているのが見えた。長い銃身がちらりと見える。

 

 暫くして、作戦分隊に建物への接近命令が出た時、狙撃手が配置された場所を見ると、彼らの姿は全く見えくなっていた。驚くべき隠密技術だった。彼らは建物の一部と完全に同化していた。

 

 突然肩を叩かれた。ハッとすると、雄山三曹が人差し指で建物を指さし、その後『集中しろ』というジェスチャーをした。俺は慌てて頷く。その時、耳に取り付けてある無線レシーバーから、高岡隊長の声が飛び込む。

 『作戦開始。氷見班及び雄山班は建物に突入せよ。各員、健闘と作戦の成功を祈る』

 

 俺達は身を屈めて倉庫の駐車場を突っ切り、倉庫併設の事務所扉横の壁に背中を付けて待機する。一緒に付いて来てくれたサポートチームの陸自施設科の二名の隊員が、扉を調べ手信号で合図する。

 『トラップ無し。マスターキーを使用』

 それを見て雄山三曹が手信号を各員に送る。

 『銃の安全装置解除』

 俺はそれを見て、親指で銃の側面にある安全装置を解除した。施設科の隊員が、そっとマスターキーを鍵穴に挿し込み鍵を開ける。ドアノブを廻して扉を少し押してから、再びこちらに手信号を送る。

 『鍵が増設されている。破城鎚でドアを破る』

 もう一人の施設科の隊員が、バズーカ砲そっくりの破城鎚を抱えるとドアの前に立つ。破城鎚でドアを破れば大音響がする。倉庫の中の蜥蜴人間は襲撃に気が付くだろう。俺は自分の身体に緊張感が忍び寄るのを感じた。最初に飛び込むのは俺と上市三曹だ。喉がカラカラになる。

 

 破城鎚を抱えた隊員が、ドアノブの上辺りに狙いを定めると振り子のように鎚を動かす。 ドアはあっけなく内側に倒れた。ただ、予想通りかなり派手な音がした。鎚を持った隊員は、ドアが倒れると同時に横へ退避する。それに交錯するように、空いた入り口の左側から上市三曹が、右側からは俺が銃を構えて突入した。

 

 ……事務所……いや、まだ受付だ。殺風景な玄関ホールは無人だった。部屋の空気は冷たく、埃っぽい匂いがする。その空気を吸いながら、緊張で胸が脈打つ。呼吸が荒くなる。銃口を上下左右に巡らせ敵がいないことを確認する。

 「右、クリア」俺は皆に知らせる。「左、クリア」同時に上市三曹の囁き声が聞こえる。雄山三曹と石動さんも銃を構え、警戒しながら入室してくる。


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