32 直前訓練(2)
昼食後、突入班は本部ビルにある訓練エリアに集合した。全員が完全装備で実銃も持っている。主力装備は短機関銃と拳銃だった。陸自での研修で毎日のように触っていたため、この二つの火器はすっかり手に馴染み、分解清掃などの整備も出来るようになっていた。
初めて短機関銃を渡された時、余りの軽量小型で近未来的なデザインに驚いた。ダットサイトと呼ばれる照準器も装着してある。ガンマニアとか、銃器オタクでは無かった俺は、ゲームや映画などに出てくる銃が知識のすべてだった。そしてその知識には全く合致しないデザインの銃だった。
(「新型だぞ。陸自でも一部の部隊でしか運用されていない。拳銃と同じく、ドイツのメーカーが生産しているのを日本でライセンス製造している。重量は1.8kgと軽量だから、女性や初心者でも長時間の保持が可能だ。高価な銃を廻して貰っている。使いこなせるように練習あるのみだ。頼むぞ」)
初めて銃を渡された時、教官は笑顔を見せながら説明した。ただ、目は真剣そのものだった。……不安はあったが、四か月間の教官の熱すぎる指導で、身体の一部といって良いくらい使いこなせるようになった。
この他に鉄帽を被り、防弾ベストを着用し予備弾倉に拳銃、銃剣を身につけ、更に状況確認用の鏡に応急医薬品、水筒……最後に重たい戦闘靴を履くと、身体が締め付けられるような感覚だった。それでも最初の頃に比べると、慣れて来て大分マシになったが。訓練時に教官は、女性隊員の石動さんと神通さん両名については、ヘルメットをプラ製に、防弾ベストの抗弾プレートは枚数を減らして軽量化を図ろうとしたが、結局は『一般人の安全及び人命確保』が優先され、男性と同じ装備になった。
俺は石動さんをチラッと見た。小さいサイズの装備品を身に付けているとはいえ、装備品に『着せられている』感じが未だに抜けない。俺は彼女を見て、大きなランドセルを背負って、サイズの合わない長靴を履いた小学一年生を連想した。
有磯と神通さんの方に、何気なく眼をやった。有磯は俺と全く同じ装備だ。神通さんは小隊が持っている短機関銃では無く、訓練を行った連隊駐屯地で、陸自隊員が標準装備している自動小銃を持っていた。俺は訝し気に小銃に眼をやる。
「あはは。なんか評価されちゃって」神通さんが、俺の視線に気が付いて照れたように笑う。「神通さんは、射撃が上手いんで俺達とは違う銃を持つことになったんだ」有磯が会話に加わる。
(『射撃はセンス』)俺は訓練時の教官の言葉を思い出した。その時、教官は(『俺達は一般人を平均レベルの射撃スキルまで教育することは出来るが、狙撃兵や選抜射手と呼ばれる人達は、教育とは別の……本人の資質による能力の高さがある。伏木……お前は、射撃に関しては充分期待に応えているが……まぁ、普通だな。もちろん、悪い意味じゃないぞ』)と微妙な言い回しで説明してくれた。
(柔道の立ち技みたいなもんか)俺は柔道部時代を思い出した。誰でも練習すれば、立ち技は出来る。ただ『切れる』とか『惚れ惚れするような』という投げを連発するには、練習以外の、何か『センス』のようなものが必要だった。逆に寝技は、センスよりも地道な反復練習と研究が重要で、それを重ねれば重ねるほど、その分強くなることが出来た。
俺には残念ながら、立ち技のセンスは無かった。そして寝技は大嫌いだった。……だから実力は推して計るべし。だった。
「……教育班は、俺達作戦分隊の中で射撃の上手い人間に、中距離での狙撃任務に就かせようと考えたんだ。そういう場面も出てくるだろうって。それで、神通さんに白羽の矢が立ったって訳」
「へぇ。知らなかった。そうなのか」俺は、もう一度、彼女の持つ銃に眼をやる。銃の背面上部には光学照準器が取り付けてある。短機関銃に取り付けてある照準器と同じ仕組みらしいが、それより大型でメカニカルなデザインだ。これは一般の陸自隊員の銃には取り付けられてはいない装備だ。
「でも、結局は倉庫に突入だよね。この銃でしか練習してないけど」神通さんが苦笑する。長い銃身の自動小銃だと、狭い室内だと取り回しが大変だろう。俺は少し神通さんに同情した。
「よし、時間だ。私語を止めて注目」
城端二尉が午後の打ち合わせを開始した。VRソフトが完成していないため、倉庫内の見取り図を元にした侵入経路の確認と、倉庫内を模した訓練施設内を、班ごとに陣形を組んで捜索する軽いプログラムだけだった。
それでも初加入の人員、変更された班である。 全員の呼吸が合うまで、捜索と室内突入の動作を夕方遅くまで繰り返し練習した。俺は陸自隊員の真剣な表情に、自分の気持ちを引き締まるのを感じた。




