20 懇親会(1)
その後、自己紹介が始まった。射水室長、高岡隊長に続き、城端分隊長、氷見二曹と続く。俺は、この自己紹介で、雄山と新湊が三曹の階級であることを知った。
次に、射水室長の横に控えていた女性自衛官だった。彼女は略帽を脱いでいた。髪を縛っているが、全部を束ねるひっつめ髪でなく、両サイドや前髪の一部をそのまま残す、今どきの女性がするヘアスタイルだった。きりっとした面立ちに、その髪型は似合っている。美人だ。誰もが美人と言うだろう。ただ、おっそろしく気が強そうな雰囲気を身に纏っていた。彼女は左上腕部に、白地に赤十字が描かれた衛生腕章を付けているのに気が付いた。
「皆さんお疲れ様です。そして、伏木さん、石動さん、初めまして。私は、常願寺玲奈と申します。陸上自衛隊○○方面隊 ■■部方面衛生隊 第◇◇◇野外病院隊所属の看護官です。皆さんの衛生管理や、管理栄養士の資格を活かして糧食面のサポートを行います。よろしくお願いいたします」
彼女は礼儀正しく、ハキハキとした口調で挨拶をした。
(あぁ、彼女が雄山さんお気に入りの玲奈さんか。意地悪って雰囲気は無いけど、気の強そうな女性だな。『難攻不落』って感じだ。新湊さんも難易度高そうな女性に惚れてしまったもんだ)
次は、いよいよ同僚となる作戦分隊のメンバーの自己紹介だ。最初は男性のメンバーが一歩前に出て自己紹介を始めた。
「お疲れ様です。有磯恭介と申します。入隊して八か月です。伏木さん、石動さんが入隊して、いよいよ組織として始動するので頑張りたいと思います。お二人ともよろしくお願いします」
結構、身長が高い。ひょろっとしているわけではなく、それなりにガッチリしている。感覚的な直感だが、その体格と筋肉の付き方が自然な感じだったので、訓練で急激に身体を作ったのではなく、元々何かスポーツの経験がある感じだった。
短く刈り込んだ頭髪。意志の強そうな瞳に引き締まった口元。年齢は俺と同じくらいな印象を受けた。いかにも体育会系のイケメンと言った風情だった。
次に女性のメンバーが一歩前に出る。
「お疲れ様です。神通米子です。有磯さんと同じく八か月前に入隊しました。ここまで来たら全力を尽くします。よろしくお願いします。伏木さん、石動さん、お二人とも仲良く頑張っていきましょう」
彼女は優しそうな口調で挨拶をした。色白で染色していない真っ黒な髪。彼女も長めの髪を常願寺さんと同じように、両サイドと前髪を束ねずに残して縛るという髪型だった。というか石動さんも同じ髪型だった。
まぁ完璧なひっつめ髪にすると、印象が『ザ・顔面』『おでこちゃん』って感じになるし、それが女性にとって嫌なのだろう。その気持分からないでもないし、少し髪の毛を垂らしてくれている方が、男性にとっても女性の色香を感じることになるので歓迎だ。まさにwin-winの関係。
神通さんは少し面長で細面だった。奥二重で鼻筋が綺麗に通っている。優しそうな笑顔が癒される。和風美人だった。本人はどう思っているか分からないが、『米子』という古風な名前がしっくりくる、色白で面長細面も『お米』を連想させた。これは彼女を見た全員が思うだろう。ただ、本人はそう思われるのを、どう思っているかは分からないが。
いよいよ俺と石動さんの番だ。皆が一斉にこちらを見る。少し緊張した。まず俺が一歩前に出た。
「皆さん、初めまして。伏木清彦と言います。この度、入隊致しました。訓練が終わったばかりで、右も左もわかりませんが頑張りたいと思います。よろしくお願いいたします」俺は一礼した。皆、拍手してくれる。俺は一歩後ろに下がって、石動さんの方をチラッと見た。
石動さんが、恨めしそうな顔をしてこちらを見ている。俺は直ぐに気が付いた。……ごめん。言おうと思っていた事がかぶった?
「ええっと……皆さんお疲れ様です。石動冬香です……ええっと、この度は……この度は……えええっと……ええっと……頑張りたいと思いますっ!よろしくお願いいたしますっ!」
ぺこりと一礼すると、後ろに下がった。別に同じ事を言っても良いのに、焦った石動さんは早口で捲し立てると、挨拶を終わらせてしまった。
「では、自己紹介も終わりました。これから皆さん一丸となって、任務を成し遂げて参りましょう。以上で結成式及び顔合わせを終了致します」射水室長は淡々と式を終わらせる。
「一同、礼!」氷見が良く通る声で号令を掛ける。全員敬礼し、式は終了した。
「では、この後、ビル内での食堂と言う場所になりますが、ささやかながら、宴会……懇親会を予定しています。皆さん、食堂に移動をお願いします」新湊が皆に声を掛ける。
皆、ぞろぞろと移動を開始する。
「伏木か。初めまして、だな。よろしく」いつの間にか、有磯が近づいて来て声を掛けてくれた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」俺は慌てて応えた。
「なんだよ、同期入隊だろ。タメで行こうぜ。ちなみに歳は?」有磯は笑いながら答える。
「二十七歳です」
「俺は二十八歳だ。一緒みたいなもんだ。よかった。お互いやりやすいな」
「有磯さんが一個上ですよね」
「そんなの気にするなよ。一緒一緒」
「そうで……。そうだな。これから頼む」
「おう」
有磯と二人で連れ立って歩く。前に石動さんと常願寺さんが並んで歩いている。常願寺さんは、心配そうな表情で石動さんに何か質問をしている。
「……で、体重がそんなに減ったの?体脂肪率は……?」
「最後の検診では14%だって、医官の先生が」
「嘘でしょ?……あいつら、シゴキすぎだよ……死神どもが。限度知らないの?大変だったでしょ?あいつら、すぐにやりすぎるから……」
「大丈夫ですよ」
「……アレは来てる?」常願寺さんは声を潜めたが聞こえてしまった。
「……いえ、最近は……」
「……だよね。週に一回、衛生科の医官が来てくれるから、来週診て貰おう」
不意に常願寺さんが振り返った。二人の会話が聞こえてしまっていた俺と有磯は虚を突かれた。常願寺さんは鋭い目つきでこちらを睨みつける。
(デリカシーって言葉知ってる?)彼女の眼はそう言っていた。
(でも、こんな状況なら聞こえてしまうでしょう)と思ったが、それ言った所でどうしようも無いのは、俺も有磯も分かっている。
「ふ、伏木。先に行こうぜ!」有磯がわざとらしく言うと、俺の肩に腕を掛けると二人を追い抜いた。
隊員たちは食堂に集合した。テーブルには、糧食班が調理してくれた、呑み会お馴染の居酒屋料理と、近所の弁当屋に出前して貰った惣菜が並んでいる。美味しそうな匂いが立ち込めていた。
(ああ、こういう料理は久々だ)俺は口中に唾が沸くのを感じた。
陸自の駐屯地の食事は決して不味くは無かった。むしろ意外と美味しくて驚いた記憶があった。ただ、駐屯地の連隊と同じ食事のため、『大人数の食事を調理する』という制約があり、どうしても『給食感』が漂ってしまい、それが朝昼晩と続くと辛く感じる事もあった。
(若鳥の唐揚げに、焼き鳥につくねに、卵焼きに揚げ出し豆腐、シシャモにサラダに、焼うどんに炒飯まであるのか。この四か月、居酒屋なんて行けなかったから懐かしい)
飲み物はビールと缶酎ハイ、他にはお茶やジュースなどのソフトドリンクも並べられていた。
皆で飲み物をコップに注ぎ合った。支援分隊の四名は、お茶を手にした。なんでだ。四名ともビールなら五リットルくらい平気で飲みそうなのに。俺が意外そうな顔をして四名を見ると、氷見が笑顔を見せた。
「この後、パトロールがあるんだよ。詳しい話は明後日にブリーフィングがあって、そこで説明する予定だけど、基本的に今後は酒は酔うほど飲めないぞ。例え非番の日でもな。緊急出動がいつ掛かるか分からないからな。伏木、お前酒は好きか?」
「飲めと言われれば飲みますし、呑み会の雰囲気は好きなんですが、一人で飲むって事は無いので、酒無しでも平気です。この四か月間、一回もアルコールは口にしませんでしたし」
「そうか。そりゃよかった。酒好きだったら地獄だからな」
「その点、俺は下戸だから」有磯がお茶の入ったコップを掲げて見せる。どうみても飲みそうなのに意外だった。
「体質的に無理なタイプ?」
「おう。奈良漬食って酔っぱらうタイプ。だから伏木、今日は安心して飲めよ。緊急呼集が掛かったら俺が行くから」
「なんか悪いな」
「気にすんなよ。その代わりメシは食わせて貰う」有磯は笑顔で答えた。




