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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
エピローグ
114/115

110話 カグヤと戦後の話


 アウイン防衛戦から3週間が経過した。

この戦いの犠牲者の葬儀も終わり、邪教徒たちの処刑も終わった。

この街の戦時体制は解除され、他の街との取引も開始された。

未だ街にも人にも刻まれた傷は癒えてはいないが、それでも何時までも立ち止まってはいられない。


そんな訳で、現状を少しでもマシにするため、今日も自分は行動していた。




 馬車に揺られ、アウインの街中を移動する。

その客室には自分ともう一人、女神ルニアの使徒『カグヤ』の姿があった。


「カグヤ、いい加減に機嫌を直したらどうだ。

せっかくの可愛いドレスが台無しだぞ」


「ふん、何が可愛いドレス、だ。

僕は知ってるんだぞ。これ、お父さんが好きだったアニメのヒロインが着ていたのと、同じデザインじゃないか!!

それを僕に着させて喜ぶのか、この変態め!!」


カグヤはぷんぷんと頬を膨らませる。


「まあ、変態かといわれれば否定はしないが、カグヤも満更ではないのだろう?

なぜなら……コスプレが嫌いなオタクはいない!!」


「……ぐぬぬ!!」


 カグヤは一瞬否定しかけたが、悔しそうに歯噛みするだけで否定の声は出なかった。

沈黙は肯定と受け取っておこう。


「うむ、気に入ってくれたのなら何よりだ。

いや苦労したんだよ、その服を作るの」


うんうんと頷く自分に対して、カグヤは指をさして叫ぶ。


「でも、それとこれとは話は別だ!!

だいたい何だよ。『お見合い』って!!

自分の娘を売り物にするのか、このクズ!!」


「はいはい、この業界ではご褒美ですっと。

……冗談は置いておくとしても、仕方がないだろう。

カグヤ、君は自分の立場を分かってる?」


 いまいち、事態が飲み込めていないカグヤに、ため息を吐く。

今回の外出の目的は、カグヤのお見合い相手との顔合わせだ。


 なぜ『お見合い』かと言えば、全ては目の前の少女に原因である。

自分がクズであることは否定しないが、今回のことに関しては自分が悪い訳ではない。


「カグヤは女神ルニアの『使徒』……ガチで神の血を引く人間だ。

神官も、貴族も、王族も、君を欲しがっている。

いや……正確には将来、君が生むであろう子供をだ」


 この世界には実際に神がいて、その神の御力で世界が回っている。

その様な世界において、『我が家は神の血を引いている』という言葉の価値は計り知れない。

やりようによっては、本当の意味で『王権神授』が実現する。


「……でも、それでも政略結婚だ何て酷いじゃないか……」


「そこは申し訳ないと思う。

だが、断言しよう。

現代人の感覚で自由恋愛だとぬかしてみろ。

確実に君を拉致って、押し倒して、既成事実を作って、薄い本コースだよ。

というかなぁ、俺だって政略結婚だっつーの」


「うう……そうかもしれないけど……

でも、そう言うけど、お父さんの相手は美人のエルフに、おっぱい神官に、ロリ獣娘じゃんか。

何が不満なんだよぅ」


「あのなぁ……。

だったら、イケメンのエルフ男子に、筋肉モリモリ聖騎士に、ショタ獣男子だったら、

納得するのかよっていう……」


 どうにもカグヤと自分の認識には、ズレがあるようだ。

『薄い本コース』というのは、冗談でもなく本気で心配しているというのに。

実際、自分がそれなりに力のある貴族で功名心も高かったら、拉致ぐらいするだろう。


 その際、実際に性行為に及ぶ必要はない。小一時間も姿がない状況があれば十分だ。

『連れ去られた』、『傷物にされたかもしれない』、そう言った印象イメージさえあれば、とりあえず十分なのだ。

それで花嫁としての価値は無くなる。後はじっくり既成事実を重ねていけば良い。


 自分ですら、そう思うんだから、やる奴はやるだろう。

で、こういうのを直接口にするのは、余りにも下品だから、カグヤには察して欲しかったのだが……

コミュニケーションとは難しい。


 まあ、カグヤも自分と同じくレベル70代だし、自分の記憶も持っているから、

この世界の住人が簡単にどうにか出来るかと言えば、難しいとは思う。


 しかし、不安だ。

あの戦いで分かったことだが、自分に出来ることはカグヤもある程度できると思っていたのだが……実際には思ったほどは出来ない。

彼女が頑張っているのは理解するが……能力はあっても『泣こうが喚こうが絶対に何とかする』という、覚悟が足りてない。

まあ、自分もこの世界に来たばかりの時はそうだったし、地道に経験を積んでいくしかないのだろう。


やはり彼女に対しては、レベルとか記憶の引継ぎとか考えずに、歳相応に扱った方が良さそうだ。


「うう……」


自分の説明でようやく事態が飲み込めたカグヤは、不安そうな声を上げる。


「そう心配するな。見合いの相手はシモンの子供で、今年で7歳だそうだ。

相手は普通に子供だから、余裕余裕」


 そう、この馬車の行き先はシモンの家だ。

今回のお見合いの目的は、先程の最悪の『薄い本コース』を回避するためである。

 

 つまり、どうせどこかに嫁に出さねばならぬなら、出来る限り条件が良いところに先手を打って出す。

それが今回のシモンの子供とのお見合いに繋がるのだ。


 実際、シモンは自分の事情を把握しているし、家格的にも代々神官の名家であるため問題ない。

後は本人達の相性なのだが……こればかりは会ってみなければ分からない。

それでも、これが自分の考えた『カグヤが出来るだけマシな人生を送るためのプラン』なのである。



そんな訳で自分達を乗せた馬車は、シモンの家に到着したのだった。


「おお……大きい。お屋敷だ!」


カグヤの声に、自分も感嘆の声を上げる。


 シモンの邸宅は石造りのお屋敷であった。

おそらく、この街が作られた頃から立っているのだろう。

その外観は傷ひとつないピカピカなものではなかったが、丁寧に手入れをされ、長い年月を重ねてきた重みがあった。


「それにしても城壁に囲まれて、土地が貴重なアウインで、庭付きの邸宅ねぇ……」


『街の始まりから立っている』、『広い庭がある』、それだけでシモンの家が歴史ある名家だと分かる。

まあ、広さだけなら南部教会の方が広いけど、あれは教会の持ち物であって、自分は間借りしているだけだからなぁ……



 そんなことを考えていると、お屋敷の中から侍女が現れ、家の中に通される。

邸宅の中は、外から見た通りで古い石作りのお屋敷であったが、寒い印象は無い。

室内には照明と暖房をかねた炎のフラグメントが明りを灯し、

室内の調度品も古い木を使った物で、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


案内された一室にはシモンと、一人の少年がいた。


「ようこそ、我が家へ。

歓迎しますよ」


「ああ、今日はよろしく頼む」


シモンと挨拶をすると、彼の横にいた少年がぺこりと挨拶をする。


「お、お初にお目にかかり光栄です!

僕の名前は『ニコ』と言います!」


 シモンと同じ、緑色の髪と瞳。

その声には淀みがなく、きちんと挨拶が出来る。

利発そうな子だし、悪くは無い、というのが第一印象だ。


「はじめまして、南部教会司教のソージです。

で、こっちが神の使徒『カグヤ』様……

ではなく、どうか一人の少女カグヤとして、友達になってくれると私は嬉しい」


「はい、お話は父上から聞いております!!

よろしくお願いします、カグヤさん!!」


 少年は真っ直ぐな瞳でカグヤを見つめる。

見つめられたカグヤは顔を赤くする。


「う、うん、よろしく……それと『さん』は要らない。

カグヤでいい……」


 なんと言うか、カグヤがもう攻略されかかっている。

まあ、カグヤの気持ちも分からんでもない。

コミュ症の人間にとって、この手の真っ直ぐな人間には弱いのだ。


「ニコ君、この子はちょっと恥ずかしがり屋さんだから、

うまく言葉が出てこないこともあるが、そこは気にしないでくれ。

しっかりとエスコートを頼むよ」


「はい!!

カグヤ、母上がケーキを焼いてくれたんだ、一緒に食べよう!!」


「……うん」


そうしてニコ少年は、カグヤの手を取ると部屋を出て行った。




「若いって良いねぇ……俺もあんな風な幼馴染が欲しかった」


家は隣で、毎朝起こしに来てくれたり、お弁当を作ってくれたりする感じの。


「ああ、ソージはそうでしたね。

僕と妻はニコと同じように、幼少の頃からの付き合いでしたので、昔を思い出します。

どうなるかは当人次第ですが、彼らがうまくいってくれると良いのですが……」


「そこはニコ君に期待かなぁ」


 まあ、後のことは若い二人にお任せして。

大人な自分達は世知辛い、お仕事の話だ。


「さて、それはそれとして。

きちんとした挨拶が遅れて申し訳ない。アウイン中央教会大司教『代理』シモン殿」




 アウイン防衛戦において、大司教クリストフは一時意識不明となってしまった。

今は幸いにも回復したが、元々高齢であったこともあり、

今回の事件の混乱が収まったら引退すると内々にお達しがあったのだ。


 そうなると、次の大司教は誰になるのか、という話になる。

教会の決まりでは、東西南北の4教会の司教による合議で決めることになっているが、

実際には大司教補佐官が、次の大司教になる。


 所謂、『慣例』というやつだ。

なので、今回も慣例通りに行けば、シモンが次の大司教になるのだが……

厄介なことに自分を大司教にしようと言う声が上がったのだ。


 その声を上げたのは、教会内の非主流派の方々。

彼らは街を救った英雄である『ソージ』こそが、次の大司教に相応しいと言っていたが……なんのことはない。

彼らの目的は教会の慣例を取っ払い、『大司教補佐官から大司教』とは別の出世ルートを開拓しようとしているのだ。


 まあ、それ自体は別に良いと思う。

慣例に縛られる必要はないし、出世の道は複数合ってもいいと思う。

ただそういうのは、自分とは関係ないところでやってくれと言うだけで。


 当然、自分は断った。

まず、面倒くさいというのもあるが、一番の理由は自分には信仰心がないからだ。

女神ルニアと実際に会話をした自分ではあるが、未だに自分は無神論者であると思っている。

自分の中では女神ルニアとはどういう存在かと言えば、GM(ゲームマスター)というのが一番近い。


 自分は女神ルニアをGMとして、無償で世界を運営していることに敬意を示すが、

それはこの世界の住人が持つ信仰心とは別のモノだ。


 自分はこの世界の人間の信仰を間違っていると言うことも、見下すつもりも無い。

ミレーユさんをはじめ、神官の皆様は敬虔な信仰と共に、職務をこなしている。

その信仰心は時に自身の命すら賭けるものであり、その思いは本物だ。

そこにはただ感嘆するばかりであるし、だからこそ神に祈れない人間が大司教をやってはいけないと思うのだ。



 そんなこんなで大司教問題、さらにカグヤの問題。

どちらも大変悩ましい問題であるが、それらをまるっと解決する方法が今回のお見合いだ。


 今回のお見合いで自分はカグヤをシモンの家に嫁に出した。

シモンの息子を婿にしたのではない。娘を差し出したのだ。


 つまり、自分は明確にシモンの派閥に入ったということであり、

シモンの家は『神の血』を手に入れたということでもある。

どちらが上か、下かは言うまでもないだろう。


「という訳で、これからは兄貴と呼ばせてください」


冗談っぽくそう言うと、シモンは露骨に嫌な顔をした。


「それを言うなら、僕の方が年下なのでソージが義兄ですよ……

はぁ……今更ながら、ソージと身内になるのか……」


「何だよ。そんなに嫌か。

シモンの親父殿も母上殿も、嬉しそうだったのに」


「父と母はソージのことを表面上でしか知りませんので……

いえ、僕も嫌ではないのですが、

ただ絶対にソージはこれからも何かやらかすんだろうなぁっと……

そして、それの責任を取るのは僕なんだろうなぁっと……」


 否定したいところだが、今までもシモンには迷惑をかけっ放しであるし、

現在進行形でかけている。

それでも、シモンは真っ直ぐに自分の方を見る。


「まったくソージは、面倒事を全部僕に押し付けるんですから……

ですが、僕も覚悟は決めました。

僕が大司教になった暁には、せいぜい扱き使ってやりますので、そのつもりでお願いしますよ」


「おう、お手柔らかにな」




 その後、今後の教会の運営等を真面目に話し合い、

時刻は夕方になろうとしていた。


「おっと、もうこんな時間か。

そろそろお暇するよ」


「おや、そうですか。せっかくですし夕食を食べていきませんか?」


「ありがたいが、今日はカグヤとニコの顔見だけの予定だったからな。

リゼットも待ってるし、また来るよ。

おーい、カグヤ、帰るぞ」


 だが、カグヤの声は聞こえない。

すると、何かを見つけたシモンが、微笑みながら指を刺す。


シモンの指をさす先には、遊び疲れたのか、二人仲良く眠るカグヤとニコの姿があった。


「やれやれ、これでは起こすのは忍びないな。

前言撤回。シモン、今日は夕食をご馳走になっても良いか?」


「ええ、もちろん」


「じゃあ、悪いが南部教会に連絡を頼む」


 その言葉に、執事の一人が頷くと部屋を出る。

うーむ、前もブラックファングの所に泊まったばかりだからなぁ。

今度、リゼットには埋め合わせをしないとなぁ……



 まあ、それはそれとして。改めてカグヤの寝顔を見る。

その顔は幸せそうで、つい頬をつついて悪戯したくなる。


 カグヤの今後を思う。

彼女の前途は多難だし、おそらく彼女は普通の人間のように生きられない。

それでも、こうして安らかに寝ている姿を見せられれば、悲観してばかりもいられない。


 それこそ『泣いても喚いても何とかする』のだ。

彼女が少しでもマシな人生を送れるように頑張ろうと思う。


と言うわけで、カグヤの話終了。

最後はリゼットの話で終わりです。

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