↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
エピローグ
113/115

109話 エルと戦後の話


 アウイン防衛戦から2週間、戦いは自分達の勝利で終わった。

最終的な死傷者は52人、負傷者は200人を超える。


 この犠牲を少ないと見るか、多いと見るかは難しいところだ。

客観的には少ないと言えると思う。

ただ犠牲者にとっては少ないで済ませて良い話ではないし、済ませてはいけないだろう。


 この戦いにおけるスローガンは『当たり前の日常を、当たり前に向かえること』だ。

現状のアウインは、まだ日常からは程遠く、だからこそ、やらなければならないことは多い。

戦争は戦後こそが重要だというが、まさしく本当だと思う。


そんな訳で、未だに休む暇もなく自分は動いていた。




 純白の儀礼用の神官服に身を包み、ゆっくり一歩、一歩、階段を上っていく。

ここは、中央教会の近くに作られた処刑場だ。

階段を上った先には、20名程度の人間がはりつけにされていた。

彼らは今回の戦いで邪教徒側についた裏切り者たちだ。



 やれやれ、難儀な事だと思う。

自分はこの戦争の責任者として、死刑執行の宣言をしなければならない。

まあ、自分がやるのは宣言だけで、処刑は別の神官が担当する。

ちなみに、邪教徒に対する刑罰は『火刑』だ。

磔にされた受刑者の横には、松明を持った神官が控えている。


 壇上に立ち、受刑者達の顔を見る。

彼らは六重聖域の力で街に入れない邪教徒の代わり、聖域を破壊するために雇われた冒険者であった。

彼らの年齢、性別、種族はバラバラで、エルが捕らえたという冒険者にいたっては、

まだ10代半ばの若い冒険者まで含まれていた。


 しかし、そんな彼らにも1つだけ共通点があった。

それは、彼らが『冒険で仲間を失った者達』だと言うことだった。


 彼らは一様に、邪教徒エミールから、『協力すれば死んだ仲間を甦らせてやる』と言われ、奴に雇われた。

だが、彼らに与えられた情報はそれだけだ。

邪教徒エミールがどのようにしてチートを手に入れたのか、どこを拠点としていたのか、他の仲間はいるのか等々……

それらの情報は何もない。

異端審問管が彼らに対して拷問を行っているため、本当に何も知らないと見て良いだろう。


まあ予想はしていた。彼らはエミールにとって、ただの鉄砲玉でしかないのだ。


 だが、手がかりが無いわけではない。

彼らは仲間を失った直後に、エミールに声をかけられている。


 この世界は現実世界ではない、テレビのニュースや新聞で人死があったことを調べることは出来ない。

そのため、『いつどこで死人が出たのか』は直接見聞きするしかないのだが、人の死というデリケートな問題を聞いて回るのは変だし、すごく目立つ。

実際、そういった『死者』に関する情報を嗅ぎまわっていた人間は、今の所、報告に上がっていない。


であるならば、『いつどこで死人が出たのか』、その情報を当たり前に持っている人間に裏切り者がいるとしか考えられない。


 心当たりは2つ。

1つは、は冒険者ギルドの職員……彼らは冒険者の管理を行っているのだから当然だ。

もう1つは教会の神官……神官は治療から、死者の埋葬まで手掛けているのだからこれも当然だ。


 この街の裏切り者は一掃したと思いたいが……やっぱりいるんだろうな。

裏切り者として処罰できたのは、ある意味で分かりやすい人間だけだ。


 邪教徒の協力者と言っても、エミールと深い関係である必要はない。

例えば、誰々が死んだという情報を売って、小銭を稼いでいる程度の者はいるだろう。

そんな人間までを含めると、完全排除は難しいと言わざるを得ない。


はぁ……やっぱり、難儀なことである。



 そんなことを思っていると、彼らの一人と目があった。

その顔は執拗な拷問によって、醜く変形しており、片目と鼻が潰されていた。

彼は憎悪に満ちた目で自分を睨む。


 そんな目で見られても知らんがな。

既に死刑執行の書類は受理されており、ここで自分が止めても別の者が死刑を執行するだけだろう。



 それに……自分も彼らを生きて返すつもりはない。

なぜなら磔にされた彼らと、自分との差は薄氷一枚、コインの裏表程度の差でしかないからだ。


 自分は今回の戦いの総大将、最高責任者だ。

負けていれば、確実に自分があそこにいたはずだ。

まあ、自分はまだ良かろう。だが間違いなくリゼット達もそこに巻き込むことになる。

逆に、彼らは仲間が蘇って笑顔で万歳だ。


 でも、そうはならなかった。ざまあみろだ。

だいたい、彼らは自分の仲間のためとはいえ、この街の人間を危機に陥れたのだ。


 『死んだ仲間のため』と、いくら悲劇のストーリーを並べようが何のことはない。

彼らは私利私欲のため、この街の人間を売った悪人だ。

だったら、失敗したら処刑される。それが悪人の責務である。


 『そんなつもりはなかった』など、言い訳は結構。

そんな言い訳は、死後にルニアに言っておいてくれ。




 そんなわけで、彼らの死刑は粛々と実行された。

自分はいかに彼らが大罪人かを、つらつらと読み上げ、最後に死刑執行と宣言した。

そして、担当の神官が彼らに火を着け、それで終わりだ。

死刑は終わり、控え室に戻る。


「はぁ……面倒くさい」


「お務めご苦労様です。総大将殿」


 そういうと女性の神官が、慣れた手つきでお茶を差し出す。


 その女性は、歳は20代前半くらいだろうか。

皺ひとつない修道服を着こなし、頭にもしっかりと頭巾ウィンプルを被った、まさに修道女という感じである。

身長はエルと同じ150センチもない程度だが、紫色の瞳には落ち着いた穏やかな意志が宿っており、

緩やかな口調も合わさり、こちらの気分も落ち着けてくれる、そんな女性である。


「……で、何してんだエル」


「おや、ばれましたか。さすがはご主人様です!!」


 先程までの雰囲気はどこへやら、頭巾を外すとピコピコと犬の耳が動く。

こうして見ると、ただの修道女のコスプレをしたエルそのもので、別に化粧をしていたわけでもない。

ただ服装と雰囲気、声、口調だけで他人に成りすませる彼女のスキルは凄まじいものがある。


「いや、俺が見破れたのは、この後にエルとブラックファングのアジトに行く約束をしてたからだぞ」


「なるほど!!名推理ですね!!」


「ううむ、いや……もう、それでいいや」


 エルの本気なのか、冗談なのか分からない賞賛の声を適当に聞き流すと、

彼女から貰ったお茶を飲み干し、席を立つ。


「じゃあエル。行くぞ」


「はい、ご主人様!!」




 ブラックファングのアジトに行き、いつものように治療を施していく。

今回の戦いでは、彼らに六重聖域の守りを任せたのだ。出し惜しみなくヒールを使用して回復させる。

その後、エルと共に、ブラックファングのリーダーであるレンさんの私室に招かれた。


 レンさんの私室にあるテーブルには、初めてここに来た時と同様に、

分厚いステーキが運び込まれ、3人で食事を取る。


「いや、いつもすまんな。

総大将ってのはあれだろ、忙しいだろう」


「まあ、忙しいなら忙しいなりに、やりようはあります。

それに、今回の戦いではブラックファングの皆様には大いに助けて頂きました。

六重聖域の祭壇は無事に守られましたし、裏切り者の冒険者も捕まえることが出来た。

恩人である貴方達を、後回しにするようなことはしませんよ」


頭を下げ、改めて礼を述べる。


「頭を上げてくれ。恩があるって言うなら俺らの方もソージ殿には返しきれない恩がある。

今回はお互いがお互いの仕事をうまくやった、それでいいだろうぜ」


「ええ、これからもお互い、うまくやって行きたいものです」


「それで、今日はどうした。

ソージ殿から話があると聞いたが」


「はい、急ぎではないですが……ブラックファングに今動かせる人員は何人程度いますか?」


「ふむ……先の戦いの傷は癒えているから人は出せるが……何をするかによるな」


「おっと、そうでした。

以前、お話した開拓村の話ですが、実際に何から手をつければ良いか分からないので、

知っている者に話しを聞いた方が早いと思いまして。

第6開拓村を主導しているカント商会には個人的にコネがありますので、話を聞きに行ったんですよ」


 現在、開拓中の第六開拓村はカント商会が主導している。

そのカント商会の主『ダニエル・カント』とは、アウイン水場での戦いで、ちょっとしたコネがあった。

本当はもっと早くに挨拶に行くべきだったが、色々忙しかったし、今のタイミングになってしまったのだ。


「で、アウインを救った英雄『ソージ』が第6開拓村の成功のため色々と応援すること、

自分達が開拓予定の第7開拓村での筆頭商会にカント商会を選ぶことを条件に、

開拓に関するノウハウを教えて貰えることになりました」


自分の言葉にレンさんは驚きつつも、申し訳なさそうに聞き返す。


「開拓村について色々、骨を折ってくれるのは有難いが、ソージ殿はそれで良いのかい?

ソージ殿は英雄とか言われるの好きじゃないだろう」


「まあ、好きじゃないですが、使える名声を使わない手はないですからね。

いくらコネがあると言っても、これぐらいやらないと協力してくれないですよ」


 自分は確かに『ダニエル・カント』とその相棒である『パスカル』の命を救ったが、

だからと言って、何でもしてくれは通用しない。

彼は彼でカント商会の長であり、彼の下には多くの人間の生活がかかっているのだから。


その言葉に、レンさんは頷く。


「分かった。ソージ殿が良いならそれでいい。

それで、俺らは何をすれば良いんだ?」


「はい。1つは冬の間の食糧輸送の護衛。

もう1つは、カント商会の方で追加の開拓民の枠に何人かねじ込んでくれるそうなので、

ブラックファングから人員を出して、彼らに直接開拓村がどういうものか学んで貰おうと思います。

もちろん、開拓が無事に完了すれば彼らは第6開拓村において正式な市民になれます。

危険はもちろんありますが……悪い話ではないでしょう」


「……いつも思うが、ソージ殿の行動力には恐れ入る。

その話、ブラックファングのリーダー『レン』の名に賭けて、請け負わせて貰う。

本当にソージ殿には、返しきれない恩がたまっていくな」


「いえいえ、開拓村を成功させたいのは自分も同じです」


 実際、自分にとっても開拓村の話は悪くない。

せっかく異世界に来たのだ。内政とか、開拓とか、現代知識チートとかをやってみたい。

まあ、現状でも出来ない事はないが、自分の好きに出来る村があれば出来ることは大きくなる。


 例えば、異世界チートでおなじみの『ノーフォーク農法』という農法がある。

これは、大麦→クローバー→小麦→かぶ→大麦をローテーションすることで、農地に空きを作らず有効活用しようという農法だ。

しかし、自分が知っているのはそこまでで、この地域の気候や水、作物の性質がこの農法に合っているのかは分からない。

仮に合っていたとしても、自分に農業の経験はない。

恐らく、成果を出すには数年単位の時間が必要だ。


 こんな状態では、農家の人に『ちょっとこの方法を試してみてくれ』とは、とても言えない。

でも、自分の開拓村ならそれが出来るのだ。


「まあ、何にせよ。

自分達の開拓村をやるのは、まだ先の話です。

気長に準備を整えていきましょう」


「ああ、ソージ殿。これからもよろしく頼む」


レンさんと握手を交わすと、もう1つの用件を伝える。


「それと、もう1つ。

エルのことですが……私の側室として正式に受け入れようと思います」


 本当はエルが成人するまでは保留しておこうと思っていたが、今回の戦いを通して心境の変化があった。

今までの戦いでもそうだが、今回の戦いでも死に掛けた。

それは自分だけではない。話を聞けばエルは今回の戦いで、1人で3人の冒険者を相手にしたと言う。


 自分は死ぬのは怖い。

だからと言って、目の前の脅威に対して何もしないという選択肢は取れないし、それはエルも同じだ。

彼女は彼女で工作員としての生き方を辞めるつもりはないらしい。


 お互い一般人に比べて、死にやすい環境に身を置いているのだ。

だったら、保留なんかしている場合ではない。

欲しいものは欲しいと言った方が良い、そう思ったのだ。


「おお!!それは目出度い!!

おい、酒を持って来い!!宴の準備だ!!」


その後、そのまま宴会の流れとなり、なし崩し的にブラックファングのアジトに泊まることになった。



 客間には大きなベッドが1つ置かれ、そこには枕が2つあった。

その光景に、やはり早まってしまったのではないかと思う自分に対して、

エルの方はすごいニコニコしており、しっぽをブンブンと振っていた。


「……エルは嬉しそうだな」


「はい、嬉しいですとも。

今回の婚姻のこともそうですが、開拓村のことも嬉しいですし、私は毎日が幸せですよ。

……そうですね。父に報告できれば良かったのですが、まあ、それは仕方がないですね」


エルの耳は、しゅんと垂れる。

その姿に……一瞬迷ったが、やはり聞いてみることにした。


「エルは……お父さんと、もう一度会いたいと思ったことはあるか?」


「ええ、それはもちろん。会いたいですよ。

ですが、父は邪教徒に、身体だけではなく、誇りも傷つけられました。

もう私は父の身体に、何一つ手を加えて欲しくはありません」


 エルの言葉に、第5開拓村で見たエルの父である『ジン』の姿を思い出す。

全身を不恰好な筋肉達磨に改造されたジンさんの姿は、ただただ醜悪で悪趣味であった。

あの光景を見せられては、彼女のように思うのも当然だろう。


「そう……だな……」


仮に自分の両親をあんな姿にされたとあっては、自分はとても冷静でいられる自信はない。


「もう、いけませんよ。ご主人様は気にしなくて良いのです!!

……ふむ、そうですね。私からも大事な話があります」


そう言うとエルは、こほんと1つ咳払いをする。


「『ジンはクソみたいな境遇でも腐らずに一族の未来を切り開くため、開拓村に参加した。

その結果が無残なものだったとしても、その選択はきっと尊いものだったはずだ』」


「それは……」


 それは自分がエミールと戦ったときの言葉。

アンナの下手糞な声真似ではなく、実際に男のような低い声でエルはその言葉を言い放った。


「ご主人様はアンナにも同じ質問したでしょう?」


 そう言うとエルはニヤリと笑う。

恐るべし、女子ネットワーク!!

というかアンナの奴、皆に言いふらしてんじゃねーか!!


そんな自分に対して、エルは胸を張り揺ぎ無い自信を持って続ける。


「父は誇りを傷つけられました。

身体を改造され、醜い化け物に変えられました。

でも、ご主人様が『父の願いは尊いものだ』と言ってくれて、私は救われました。

私は『父の死は惨めな死ではなかった』と胸を張って言えます

父の願いを引き継いでくれる人がいる。

まだ何も終わっていません!!」


「そうか……なら良かった」


 その言葉には、自分も救われる。

第5開拓村でも自分は死にかけたし、嫌なものもたくさん見たが、

それは無駄ではなかったのだ。


「はい、良かったのです。

さあ、そろそろ寝ましょう。

……いえいえ、今夜は寝かせませんよ!!

私の技術で、ご主人様を搾り取ってさし上げましょう!!」


そのエルの言葉に顔を覆う。


「おや、どうしました?

あ、もしかして、ご主人様は受けよりも、攻めの方がお好きですか?

ならば、仕方ありません。

この身体のつま先から、髪の一本に至るまで、私の身体はご主人様のモノです。

お尻の穴でも私は一向に構いません!!」


「いや、そうじゃなくてだな……」


 本当に、もうちょっとだけでもシリアスを維持してくれれば、

『イイハナシダナ……』で終わったのに。


「はぁ……やれやれだ」


 まあ、でも、いいか。

もうここまで来たのなら、覚悟を決めよう。

前々から疑問だったのだ。


 ワーウルフは本当に犬耳が頭から生えているのか、尻尾が尻から生えているのか、

それを確かめてみるとしよう。


と言う訳で、エルの話。

エピローグは残り2話。次話でカグヤの話で、最後にリゼットの話で終了です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。