↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺部活の青春クロスワードパズル~~陰キャな俺と地味子とギャルと……  作者: 秋ヶ瀬胡桃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/43

第8話 問題作ってるんだ

 放課後、部室の扉を開けると、そこにはすでに先客がいた。

 窓際から差し込む西日に照らされながら、机に向かっているのは黒須さんだ。

 いつもなら一心不乱にパズルを解いている彼女だが、今日の手元にあるのは雑誌ではなく自分のノート。

 シャープペンシルをノートのマス目に舞わせながら、何やら熱心に書き込んでいる。


「あ、黒須さん。どうも……」


「あ、濁川君……」


 黒須さんは、ぴょこんと顔を上げ、小さく会釈をして、すぐに手元に視線を戻した。

 気になってそっと後ろから覗き込んでみると、どうやらクロスワードパズルを解いているのではなく、問題を自作している真っ最中のようだった。


「へえ、問題作ってるんだ。すごいな、黒須さん」


「ひゃっ! こ、これは……!」


 俺の声に飛び上がらんばかりに驚いた黒須さんは、頬を赤くして、両手でバッとノートを隠してしまった。

 上目遣いでこちらを睨む姿は、まるで秘密のドングリを隠すリスのようで、不謹慎にもちょっと可愛いと思ってしまう。


「あ、ごめん! つい気になっちゃって」


「い、いえ……まだ作りかけで、恥ずかしいですから。……その、もしもちゃんと完成して、クロスワード専門誌に掲載されたら、その時は……濁川君にも、一番に見せますから」


 恥ずかしそうに指先をモジモジさせながら、消え入りそうな、でも一生懸命な声でそう告げる黒須さん。

 専門誌に投稿するレベルなのかと驚くと同時に、そんな風に約束してくれる彼女の健気さに、俺の心臓は少し変な跳ね方をした。


「うん、楽しみだなあ」


 俺がそう言って微笑んだ、その時だった。


「おっはよー! ……じゃなくて、お疲れー!」


 バァンと勢いよく扉が開き、弾けるような笑顔で楯さんが入ってきた。

 一瞬で部室の空気が明るくなる。

 だが、俺と黒須さんが妙に距離を詰めて話していたのを見た瞬間、楯さんはニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「おやおや? 何やら二人で良い雰囲気じゃん? もしかしてあたし、お邪魔虫だったかなあ?」


「ち、違います! そんなんじゃ!」


 黒須さんがさらに顔を赤くしてブンブンと首を振る。

 俺も慌てて「ただ作ってる問題の話をしてただけだって」と言い訳を並べ立てた。


「あはは、冗談だってば! それにしても、クロスワードって作ることもできるんだね。面白そうじゃん、あたしも挑戦してみよっかな!」


 そう言って、楯さんは俺の隣の席にドカッと腰掛けた。


「そんじゃ黒須先生ちゃん、あたしに作り方教えてくださーい!」


「あ、ええと……私は今、自分のを作るのに精一杯で……」


 黒須さんは申し訳なさそうに、机の上のノートに視線を落とした。

 専門誌への投稿締め切りが近いのかもしれない。

 口数が少ないので、人に教えるのも苦手そうだ。

 それを見た俺は、すっと手を挙げた。


「じゃあ、俺が教えるよ。これでも一応、解くだけじゃなくて、たまに小さな問題なら作ったりしてるんだ」


「マジで! 濁川、意外と頭いいじゃん。じゃあよろしく、濁川先生!」


 楯さんにベタ褒め(?)されて、少し気恥ずかしい。

 俺は鞄から方眼ノートを取り出し、白紙のページを開く。


「まずは、小さいサイズから作った方がいいかな。5×5の大きさから作ってみようか」


 マス目に合わせて四角く線を引く。


「先に黒マスを入れた方がいい。その方が作りやすいからね。黒マスは点対称の配置にするのが理想なんだ。点対称というのは……」


 俺は普段の自分からはかけ離れた饒舌さで説明を続ける。

 我ながら典型的なオタクムーブだ。

 幸いにも、楯さんにドン引きされることはなかったけど、普通の女子には嫌われるだろうなあ。


「なるほどー。じゃあ、あたしの名前のが五文字だから『タテヨウコ』って入れてみようかな」


「それはいいかも」


 その「タテヨウコ」の五文字を元にしていろいろな言葉を組み合わせてみる。

 どんな言葉にしようか。

 俺と楯さんは、あーでもない、こーでもないと頭を突き合わせた。

 楯さんは人との距離感が近い。

 ぱっと見にはきつい印象のギャルなのに人なつっこくて、誰もが好感を抱く。

 しかも、近くでちょっと動くたびに、茶髪からほのかに甘い香りが漂ってきたりなんかして、俺は密かにドギマギしていた。


「できた! どう、濁川先生?」


 苦戦すること一時間弱。

 楯さんは、どうにか5×5の小さな盤面に言葉を組み込む作業を完成させた。


「やったあ! 濁川の教え方がガチでいいからすぐできちゃった!」


 楯さんは無邪気に喜び、俺の肩をぽんぽんと叩いた。


「いや、まだカギを考えないとならないんだけど」


「あ、そっか」


「でも、もう時間だし、明日考えればいいか」


 そう言いながら、俺は何気なく黒須さんの方に目をやった。

 黒須さんがシャープペンシルを握ったまま俺を見ている。

 どこか寂しそうな、あるいは焦っているような、複雑な瞳だ。

 俺と目が合うと、彼女はハッとしたように、すぐに手元のノートに視線を落としてしまった。

 いつもの冷静な黒須さんらしくない、その落ち着きのない様子。

 ……もしかして、嫉妬?

 まさかな、と自分の都合の良い勘違いを頭を振って打ち消す。

 だけど、心なしか部室の温度が少しだけ上がったような、そんな放課後のひとときだった。

 しかし、これから先もっと熱くなることが起きようとは、この時の俺には予想すらできなかったのである。


ᓚᘏᗢ ᓚᘏᗢ ᓚᘏᗢ ᓚᘏᗢ ᓚᘏᗢ ᓚᘏᗢ ᓚᘏᗢ


ちなみにこれが完成したクロスワードのコタエ。


キス■ツミ

タテヨウコ

■イワシ■

クツキング

ロク■ボン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。