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底辺部活の青春クロスワードパズル~~陰キャな俺と地味子とギャルと……  作者: 秋ヶ瀬胡桃


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第42話 侵入者なんて非現実的だ

 胸を突き刺すような凄まじい衝撃音は一度きりだった。

 嵐の後のような静寂が狭い物置部屋を包み込む。


「……な、何が起こった?」


 俺の腕を握りしめる黒須さんの柔らかい手の感触に内心ドギマギしつつ、廊下の様子をうかがう。

 外からは何の音も聞こえてこない。


「ねえ、楯先輩、大丈夫かな……?」


 結委が不安そうに両手を胸の前でぎゅっと握りしめる。


「うーん、でもさ、今ここを出るのってヤバくないか? もし凶悪な犯人がまだうろついてたら……」


 俺がそう言うと、隣で腕を組んでいた須藤が「うーむ」と唸《うな》った。

 こんな状況なのに、なぜか妙に自信満々な顔をしている。


「でも、やっぱり侵入者なんて非現実的だ。今の音だって、大方あれじゃないのか」


「あれって何だよ」


「ゴキブリだよ、ゴキブリ」


 真面目な顔で言い放った須藤に、俺と結委は思わずズッコケそうになった。


「はあ? ゴキブリってどういうことだよ!」


「いやさ、楯さんって、ああ見えて虫が苦手なんだよ、きっと。で、ゴキブリか何かの虫を見てしまってパニックになって、テーブルをひっくり返したってところじゃないかな」


「虫ですか……?」


 まだ俺の腕を握っている黒須さんがパチパチと大きな目を瞬かせる。

 須藤のあまりにも緊張感のない説のせいで、部屋を支配していた恐怖感が一気に微妙なな空気に塗り替えられていく。

 それに、須藤の説が現実的なのも確かだ。

 別荘の周囲は自然が豊かなので、部屋の明かりに引き寄せられてやってくる虫も多い。

 虫嫌いには地獄のような環境だ。

 意外と楯さんが虫に過剰反応していただけというのがオチなのかもしれない。

 何にせよ、楯さんのことが気になる。

 このままここに閉じこもっているわけにもいかない。

 俺たちは意を決して、そっと物置部屋のドアを開けた。


「……よし、みんな、足音を立てないようにして楯さんを探そう」


 俺を先頭に抜き足差し足で廊下を進み、音のした方向、台所へと向かう。


「楯さん……?」


 恐る恐る台所の入った俺たちは、その光景に目を見張った。


「な、なんだこれ……」


 そこには、台所のど真ん中で魂が抜けたような表情で茫然自失のまま立ち尽くす、楯さんの姿があった。

 台所の立派な木製テーブルが完全にひっくり返り、壁には何かが激突したような生々しい痕跡が残っている。

 ここで、間違いなく激しい争いがあったのだ。

 しかし、室内には楯さん以外の人物の姿はどこにもない。

 まさか、楯さんがゴキブリ一匹に大立ち回りを演じたのだろうか。

 だとしたら酷いパニックだ。


「楯さん! 大丈夫ですか?」


 黒須さんが俺たちのそばを離れ、真っ先に楯さんの元へと駆け寄る。


「……あ、黒須っち……」


 黒須さんの声でようやく我に返ったのか、楯さんがゆっくりとこちらを振り向いた。

 その顔は、今までに見たことがないほど青ざめている。


「怪我はありませんか? 一体何があったの?」


「不覚……。マジでいた。侵入者……」


 楯さんは悔しそうに拳を握りしめ、ぽつりぽつりと語り始めた。


「かなりの手練だった……。あたしの蹴りを紙一重で回避して、その勢いのまま、あそこの窓から外へと逃げ出していった。信じらんない身のこなしで……」


 楯さんが指さした先では、大きな窓が全開になっていて、生暖かい夜風がカーテンを揺らしていた。

 俺と須藤、結委は顔を見合わせ、唖然とするしかなかった。

 ゴキブリなんかじゃなかったのだ。

 あの楯さんの攻撃を避けて逃げおおせるなんて、一体どんなゴキブリ、じゃなくて、武術の達人なんだ?


「そんな……、あたしの武術が通用しない相手がいるなんて……」


 最強のプライドをへし折られたのか、楯さんはがっくりと肩を落としている。


「ちょっと待てよ。そんなめちゃくちゃ強い奴が、わざわざこの別荘に侵入した目的って何なんだ? ただの空き巣とは思えないよな……」


 俺の言葉に、結委がゴクリと息を呑む。


「じゃあ、やっぱり……黒須先輩を狙った誘拐犯とか?」


「その可能性が高い……」


 楯さんが厳しい表情で首を縦に振った。


「だけど、誘拐犯にしてもはあまりにも腕が立ちすぎ。なんか、どこかで特別な訓練でも受けたかのような……」


 楯さんがギャル語を話していない。

 それだけでも空気が重く張り詰める。


「と、とりあえず、窓の鍵をちゃんと全部閉めて、警察に通報しよう! 警察に来てもらえば確実だし!」


 俺が慌ててスマホを取り出そうとした、まさにそのタイミングだった。


 ――♪


 静まり返った台所に、軽快な着信音が鳴り響いた。

 みんなの視線が音源に一斉に集まる。

 黒須さんのポケットの中だった。


「あ、お母さん……?」


 液晶画面を見た黒須さんが、戸惑った声を上げる。

 黒須さんは恐る恐る通話ボタンを押した。


「もしもし、殊羽? 元気にしてる?」


 電話の向こうから聞こえてきたのは、おっとりとしつつも、どこか威厳のある黒須さんのお母さんの声だった。


「お、お母さん? どうしたの? 今、大変なことに……」


「ふふ、実はね、今そちらの別荘に向かっているのよ。もうすぐ着くから、そのまま待っていてね」


「そのままって……?」


 あの強烈な美魔女ママがこっちに向かっているだって?

 侵入者の問題が何一つ解決していないこの最悪の状況に、さらに強風が吹き込もうとしている。

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