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底辺部活の青春クロスワードパズル~~陰キャな俺と地味子とギャルと……  作者: 秋ヶ瀬胡桃


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第41話 そんなに強かったんですか?

「おいおい、静かにしろよ……」


 物置部屋の中で、俺は必死に声を潜めて全員に注意を促した。

 外から聞こえるのは冷房が作動する音ぐらいなもの。

 人の気配など俺に感じ取ることはできない。

 敵がどう動くか分からない恐怖。

 まさに絶体絶命のピンチ! ……のはずなのだが、俺たちの横には派手なメイクの今時ギャルにして実は武術の達人である楯さんがいる。

 いざとなれば、彼女がその神がかった拳で侵入者をボコボコにしてくれるに違いない。

 だが、俺の唯一気になるのは、楯さんの表情だった。

 いつもの余裕に満ちたギャルスマイルは消え失せ、その綺麗な瞳の奥に今まで見せたことのない怯《おび》えがわずかに混ざっているのだ。


(あの楯さんがビビってる……?)


 楯さんは顔にかかった髪をサッと手で払うと、真剣なトーンで俺たちに向かって囁いてきた。


「ねえ、本当に侵入者がいるのか、あたし、ちょっと確かめてくる」


「えっ? 楯さん、一人で?」


 黒須さんが驚いて目を見開く。


「うん。気配がしたのはあっちの廊下の奥だし。単身で突っ込んだ方が被害も少ないっしょ」


 確かに腕が立つのは楯さんしかいないが、得体の知れない相手に一人で立ち向かうのは危険すぎる。


「待てって! 楯さん、それじゃあまりにもリスクが高すぎるって! いくら楯さんが武術の達人でも、相手が武器を持っていたりしたら……」


 俺が焦って引き留めると、すぐ隣にいた須藤と結委が「え?」という顔で俺と楯さんを交互に見つめる。


「お、おい、武術の達人ってどういう意味だ?」


 あ、そういえばこいつら、楯さんの真の姿を知らないんだった!

 俺はごく短い言葉で、楯さんが実はとんでもない武術の達人であることを二人に説明した。


「ええっ? 楯先輩、そんなに強かったんですか?」


「な、何ぃっ! 格闘ゲームのキャラみたいな人物がこの世にが実在したというのか……っ!」


 目を丸くして驚愕する二人。

 その声が大きかったので、俺は慌てて二人の口元を手のひらで覆った。


「静かに! 大声を出すな! もう手遅れかもしれないけどな。たぶん侵入者は、俺たちが自分の存在に気づいていることに、もう気づいてるはずだ」


 ここからどう動くべきか、俺たちは頭をフル回転させて考えた。

 だが、どれだけシミュレーションしても、出てくる答えは一つしかない。


「……やっぱり、最も腕っ節の強い楯さんが侵入者を追い詰めるのが一番妥当だよなあ」


 須藤の言葉に、俺と黒須さん結委がうんうんと頷く。

 消去法というか、物理的な戦力として楯さん一点張りなのだ。

 もし俺がバトル漫画の主人公ならかっこよく飛び出すところだが、悲しいかな、俺は単なる軟弱なクロスワード部員である。


「おっけー、じゃあサクッと見てくるわ。みんなはここで大人しく待っててね」


 楯さんはそう言うと、物置部屋の扉を開けて、いつものギャルっぽい軽快な足取りで外へと出ようとする。


「待ってください」


 黒須さんが楯さんの手を取って引き留める。


「私も行きます。ここは私の別荘なのに私が何もしないわけには……」


「もう、健気なお姫様かよ」


 やれやれという表情で微笑む楯さん。

 黒須さんの目の前に人差し指を立て、ここにとどまるように念を押す。

 楯さんは改めて物置部屋を出ていった。

 残された俺たち四人は、すぐに扉をぴったりと閉め、息を殺して彼女の帰りを待つことになった。


 狭い物置部屋の中、身を寄せ合いながら、残された俺たちは声を潜めて話し合う。


「……侵入者なんて、本当にいるのかな?」


 須藤が首をかしげながら、半信半疑といった様子で呟いた。


「この建物の入り口はかなり厳重な作りになってただろ? そこを突破できる泥棒なんているのか? 柵にも防犯装置みたいのがあるのが見えたし」


「もしかして、ただの鼠か何かが立てた物音だったりして。周りは林だし、野生の動物が紛れ込むことだってあるよね、黒須先輩?」


「その可能性は……ありますが……」


 結委の問いかけに、黒須さんは地味な眼鏡の奥の目を瞬かせながら小さな声で答えた。


「珍しい動物だったらいいですね。狸とか狐とか」


 不安な顔がころっと変わって目を輝かせる結委。


「楽天的だなあ、結委は」


 妹の危機感のなさに呆れる。

 まあ、確かに侵入者の正体が野生動物の可能性はある。

 むしろ、そうであってもらいたいぐらいだ。

 大山鳴動して鼠一匹という結末で笑い話になってくれればありがたい。

 だが、俺の胸のざわつきは収まらない。

 あの楯さんが、ただの鼠などの動物ごときでそんな勘違いをするだろうか?

 楯さんが俺に初めて見せたあの怯えた表情が、どうしても脳裏に焼き付いて離れなかった。

 その時だった。


 ――ドッガーン!


 別荘のどこかから、空気を震わせるような凄まじい大音響が響き渡った。

 木々が軋むような、あるいは家具が激しく破壊されたかのような衝撃音。


「きゃうっ」


 黒須さんが短く悲鳴を上げて俺の腕にしがみつき、結衣と須藤が息を呑む。

 間違いない。

 楯さんが廊下の向こうで何者かと出くわして、戦いが始まったんだ――!

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