第39話 娯楽がないなら作ればいい
夕方になって、俺たち五人は別荘の建物に戻った。
建物の中はクーラーが効いていて快適だ。
別荘に来た本来の目的はクロスワード部の合宿なのだが、合宿と言っても何をすればいいのかわからない。
そもそもクロスワードパズルを解いたり作ったりするだけの部活に合宿など不要なのだ。
だから、遊ぶぐらいしかすることがない。
しかし、日が暮れてくると遊ぶことすらないのだ。
別荘にはゲーム機とか花火などの遊ぶためのものがほとんど用意されていなかった。
テレビはあるが普通のテレビ番組を見る気分でもないし、DVDなどもない。
かといって、せっかくの別荘なのに、自分のスマホでネットの動画を一人で見るのは味気ない気がする。
俺たちは暇つぶしの道具を何か持ってくるべきだったと後悔するのだった。
「あー、迂闊だったー。遊ぶもの持ってくるのガチで忘れてたー」
「トランプとかそういうのもないんですか? 黒須先輩」
「ないみたいです」
することがないのならクロスワードに関する勉強をするべきかもしれない。それが本来の目的なのだから。
語彙力を高めるために辞書を読むとか知識を深めるために皆でクイズを出し合うとか、いろいろできることはある。
だが、須藤と結委はクロスワード部員ではないので無理に付き合わせてよいものか。
そもそも勉強という気分でもない。
合宿なんて遊ぶための名目に過ぎないわけで……。
「もうすぐ食事の時間だし、食べながらこれからのことを考えようか」
俺が言うと、皆が賛成してキッチンへ。
料理の開始だ。
用意されていた冷凍食品を電子レンジで温めるだけなのだが。
「いっただきまーす」
五人揃ってテーブルを囲んで食べ始める。
「……あの、すみません。本当に何もなくて……。食べ物と一緒に遊ぶものも置いておいてくれれば……」
申し訳なさそうな黒須さん。
豪華な別荘と美味しい食べ物を与えてくれた人に謝られても困ってしまう。
「いやいや、黒須さんが謝ることじゃ……」
俺が慌ててフォローを入れる。
すると、それまで一人で黙々と冷食を食べていた須藤が不敵な笑みを浮かべた。
「フッ、娯楽がないなら作ればいい。……そう、夏の合宿、夜、男女、これらが揃ってやるべきことは一つしかない。皆さん、肝試しに行きませんか?」
「え、肝試し? うわ、めっちゃ夏っぽくてウケる!」
「いいじゃん須藤先輩! 吊り橋効果ってやつ?」
楯さんと結委が食いつく。
だが、俺は嫌な予感がしてならなかった。
須藤の目が完全に「よこしまな期待」でギラついているからだ。
「……というわけで、スマホの地図で周辺の心霊スポットのリサーチを」
「あ、じゃああたし調べるわー。この辺だと……」
楯さんが素早い手つきでスマホのマップを開き、別荘の近辺をピンチアウトしていく。
須藤は生唾を飲み込みながら、楯さんの手元を凝視していた。
(フフフ……二人ずつだと女子が一人あまるから、俺が二人を独占という手もある。両側からこの俺に抱きついてくる美少女の温もりが――!)
須藤の心の声がダダ漏れなレベルで顔に出ている。キモいぞ。
しかし、そんな須藤の邪悪な妄想は、楯さんのリサーチ結果によって粉砕されることになった。
「あー……、ダメだわこれ、何もない」
「えっ?」
「ほら、見て。ここら辺ってマジで海岸と林しかない。ちょっと離れたところにお店とかあるみたいだけど」
「そ、そう……」
須藤が落胆の声を漏らす。
「お墓とかがあれば肝試しとかできるんですけどね」
結委が楯さんのスマホを覗き込む。
楯さんは地図をピンチインして探すが肝試し向きの場所は見当たらない。
「廃墟とかトンネルとかの心霊スポットもないとかマジ?」
「ああ、結局、肝試しも駄目か……」
残念がる須藤。
「ねえねえ、だったらさ、この別荘の中を探検しちゃおっか!」
不意に楯さんがポンと手を叩いて立ち上がった。
「うちを探検……ですか?」
「そう! だってさ、黒須っちの別荘、広すぎてまだ全然見てない部屋とかあるじゃん? もしかしたら秘密の地下室とか、ヤバいお宝とか眠ってたりして」
楯さんがキラキラした目で黒須さんを見つめる。
「あの……実は、私も自分の別荘の全体をよく知らなくて……。入ったことのない部屋もあったかと……」
「ほら、オーナーの黒須っちにも未知の世界じゃん! 行こー行こー!」
「別に構いませんけど……」
黒須さんにとっても反対する理由はないので、こくりと頷いた。
「楽しそうですね! 私も行く!」
結委もソッコーで乗っかった。
「ふむ……。確かに、この建築様式からして、隠し通路の一種くらいあっても不思議ではないな。もしや、往年のミステリのようなギミックが……!」
須藤がオタク特有の早口でぶつぶつと言い始めた。
さっきまで自分の肝試し案が流れて絶望していたくせに、現金なやつだ。
「まあ、黒須さんが迷惑でないのなら……」
俺にも反対する理由はない。
むしろ、滅多に立ち入ることのできない豪華な別荘なのだから、隅から隅まで堪能しなければ損な気がしてきた。
我ながら貧乏性だ。
「よっしゃ! じゃあ二階から見てみよう」
楯さんの号令で俺たち五人は一斉に階段を上って二階へ。
二階の電気をつけると廊下に面した四つの扉が見えた。
「入ってもいい?」
「どうぞ」
黒須さんの許可を得て、楯さんが一番近い扉を開ける。
そこは一階の俺たちの寝室と同じようにベッドが二つ並んだ部屋だった。
個人の別荘なのに何人が泊まることを想定しているのだろうか。
ホテルとして客を泊めれば得なのにとすら思ってしまう。
「景色も素敵!」
結委が窓際に駆け寄る。
海面に月の光が反射して輝いている。
俺たちはベランダに出て静かに夜の海を眺めていた。




