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底辺部活の青春クロスワードパズル~~陰キャな俺と地味子とギャルと……  作者: 秋ヶ瀬胡桃


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第36話 いい妹さんがいて安心しました

 当初の予定では、黒須さん、楯さん、そして俺の三人での合宿だった。

 しかし、予期せぬメンバーが追加されることに。

 合宿の日と俺の両親が仕事で家を空ける日が重なってしまったのだ。

 そうなると妹の結委が一人で留守番になる。ちょっと心配だ。


「妹に一人で留守番をさせて遊びに行くというのがちょっと罪悪感があるんだよなあ」


 部室で、俺は合宿の予定を話し合いながら、ふと妹のことを漏らした。

 楯さんと黒須さんは俺の言葉を聞き逃さなかった。


「女の子を一人で留守番させるなんて、絶対ダメだって!」


 俺に顔を近づけ、叱るように言う楯さん。


「四人でも大丈夫です」


 優しく微笑んでくれた黒須さん。


「ありがとう。妹に話してみるよ」


 俺は二人に感謝し、早速帰宅して妹に合宿のことを伝える。

 妹は喜んで合宿への参加を決めた。

 テレビに映っていた黒須さんと楯さんに会いたいと思っていたのだ。

 合宿当日のことを思い描きながらウキウキしている姿を見て俺は安心するのだった。

 だが、予定外はこれで終わりではなかった。

 五人目の参加者が加わることになったのだ。


「……なぁ、本当に俺、行っていいのか?」


 部室の隅で囚われ人のように縮こまっているのは友人の須藤だ。

 俺が女子と合宿に行くのを帰宅部の須藤が羨ましがっていたのを楯さんが聞きつけ、


「じゃあ、あんたも来ちゃいなよ!」


 と、須藤を誘ってくれたのだ。

 もしかすると、俺が男一人になると居づらい気分になると考えた楯さんが気を遣ってくれたのかもしれない。

 だが、須藤には自分とは別次元の存在であるギャルに対する苦手意識がある。

 まして、スクールカースト最上位に君臨する楯さんに、ほぼ最下位の須藤は密かに恐怖心を抱いていた。

 絶対自分を蔑んでいるだろうと勝手に被害妄想にかられていたのだ。

 だから最初は完全に腰が引けていた。


「男手がいた方が荷物持ちに便利だしさー! あ、嘘、嘘。みんなで行った方が楽しいじゃん?」


 気さくなノリと可愛い笑顔の楯さんに須藤は驚いた様子だった。


「五人でも大丈夫です」


 黒須さんも須藤の同行に賛成だった。

 俺が黒須さんの代わりに別荘のことを説明する。

 須藤はこの時初めて黒須さんがプライベートビーチ付きの別荘を持つ富豪だと知って驚愕した。

 清楚な令嬢とスクールカースト最上位ギャル。しかも成績が一位と二位。

 加えて、須藤は前々から俺の妹の顔を見たがっていた。

 矢島凜花に一途な須藤でもその三者への興味にはあらがえない。

 最終的には積極的に「行きます!」と了承したのだった。


「よーし! 夏の二泊三日の房総合宿は、この四人と濁川の妹ちゃんの五人に決定!」


 楯さんの元気な掛け声とともに、俺たちの、少し賑やかで、ほんのり甘い(かもしれない)夏が幕を開けた。


 ▽


 電車の窓には海と山が交互に現れて後ろへ流れていく。

 網棚に乗せたリュックから垂れた紐が振り子のように揺れる。


「へえ、濁川って家じゃしっかりお兄ちゃんしてるんだ。マジ意外!」


「私がしっかり妹してるからなんですけどね。なーんて!」


「いい妹さんがいて安心しました」


「私こそ黒須先輩や楯先輩がいてくれて安心ですよ。

 お兄ちゃんってあんな性格だから」


 四人用のボックスシートからは、華やかな女子トークと笑い声が絶え間なく聞こえてくる。

 俺と違ってコミュ力のある結委は、黒須さんと楯さんという対照的な性格の人物両方とすぐに打ち解けた。今日が初対面なのにだ。

 本当に俺の妹かと感心するコミュ強だ。

 一方、俺と須藤は仕切りを隔てた隣にある、ドア横の二人掛けの縦座席に肩を並べて座っている。

 四人席に四人が座ると一人余るが、その一人が可哀想になってしまう。

 そこで、女子三人と男子二人に分けられることになったのだ。


「何か話題はないのか?」


 退屈そうな須藤。

 女子トークに聞き耳を立てるのにも飽きてきたのだ。


「いつもみたいに一人で矢島凜花の話でもしてればいいだろ」


 俺は小声で言い返す。

 会話のネタという資源が常に枯渇しているのが陰キャなのだ。

 そのことは須藤もよくわかっているはずだ。


「今だけはヤジリンちゃんに心の外に出ていてもらうことにしたんだ。ノイズ抜きであの三人と知り合いたいから」


 三人の女子をがっつり堪能するつもりらしい。

 しかし、一線は越えさせないからな。

 いや、俺と同類の須藤に一線を越えられるわけはないよな。


「お前、みんなにキモいところ見せてドン引きされるような真似だけはするなよな」


「それぐらいは心得ている」


 偉そうに胸を張る須藤。

 先が思いやられる旅だ。


「えーっ! ヘリコプター?」


 突然、隣から楯さんと結委の素っ頓狂なハモりが聞こえてきた。


「家の者が自家用ヘリコプターで送ると言っていたのですが……」


 次元の違うお嬢様発言が飛び出して耳を疑った。

 俺と須藤は黙って再び聞き耳を立てる。


「せっかくの部活ですから、学生らしい旅がしたいと断りました」


「あたしはちょっと乗ってみたかったかな、ヘリコプター」


「黒須先輩ってお嬢様なんですね……」


 さすがにヘリコプターで合宿に行くのは大袈裟過ぎる

 確かに楯さんの言う通り、ヘリには乗ってみたかった気もするが。


「そっちの二人、静かすぎ。もしかして寝てたりする?」


 不意に、楯さんが座席の背もたれから頭を出し、こちらをのぞき込んできた。

 上から見下ろされる形になった須藤は「ひゃふっ!」と変な声を上げた。

 まだギャルへの恐怖心が抜けないらしい。

 条件反射的に身構えてしまうのだ。


「あ、い、いえ! 目はさえちゃってるっすよ! 今度は何が空から降ってくるかなあなんて考えてて」


 須藤がドギマギしながら変なことをしゃべり出す。


「え? なんの話?」


「なんでもないです!」


 やっぱり須藤は俺よりちょっと明るいけど俺と同類の陰キャだなあ。


「あんたたち二人が並んで座ってるのって、なんか可愛いかも」


 楯さんはクスクス笑いながら開いたお菓子の袋を俺たちに渡す。

 その袋を受け取った須藤は、生まれて初めて女の子と同じ袋からお菓子を食べるという経験にガチガチに緊張してしまうのだった。

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