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底辺部活の青春クロスワードパズル~~陰キャな俺と地味子とギャルと……  作者: 秋ヶ瀬胡桃


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第3話 じゃあ三人で帰ろ!

 また翌日。

 放課後の部室はこの日も静かだった。

 授業でも試験でもないのに、高校生が複数いる空間がこんなに静かだなんて、普通の人から見れば異常事態かもしれない。

 俺と黒須さんの二人は、向かい合わせに机を並べ、シャーペンの芯が紙の上を踊る音だけを響かせて、黙々とクロスワードパズルに向き合っている。

 本当は会話もしたいんだけどね……。

 黒須さんはいつも通り、黒縁眼鏡のレンズを通して真剣な眼差しをクロスワードパズル専門誌に注ぎ、軽快な速度で空欄を埋めていた。


 ガラッ!


 突如、部室のドアが勢いよく開き、強烈なシトラスの香水と、ジャラジャラとしたキーホルダーの音が鼓膜を揺らした。


「こんちゃーっす! うわ、マジで超ガチでやってんじゃん!」


 短いスカートに、ゆるく崩した制服。

 昨日入部宣言をしたギャル、楯洋子さんがそこに立っていた。

 本当に何でこんな人がうちの部に入ったのか不思議でならない。

 楯さんは俺たちの席へ迷いなく近づくと、覗き込むようにして顔を近づけてくる。

 自然な距離感の詰め方はさすが陽キャといったところだ。


「あ、楯さん。今日も来たんだ……」


「当たり前だし! つか黒須ちゃん、それ書くの早すぎ! え、その三マスの『夏の風物詩』って何? スイカ? 花火?」


「……う、ウナギ、です」


 黒須さんが蚊の鳴くような声で答える。

 ギャルの襲来に怯えるかと思いきや、黒須さんはパズルへの集中を切らさない。

 楯さんも「ウナギとかウケる!」と楽しそうに俺たちの手元を見つめ、時折「そこは『エモい』じゃなくて?」などと、絶対にクロスワードの正解にはならないギャルワードを連発して場を和ませて(?)いた。

 気づけば窓の外は茜色に染まり、完全な下校時刻を迎えていた。

 片付けを始めようとしたその時、楯さんがパンッと手を叩いた。


「よし、じゃあ三人で帰ろ! アタシ、駅前の鯛焼き屋行きたい気分!」


「えっ、俺たちも?」


 俺と黒須さんは顔を見合わせたが、楯さんの「行こ行こー!」という有無を言わせぬハイテンションに押し切られ、なぜか三人で街の繁華街へと繰り出すことになってしまった。

 店の看板が電気で自己主張をし始めた賑やかな通りを歩く。

 色とりどりの光に照らされる繁華街の真ん中で、見るからに地味な俺と黒須さんは完全に場違いで異質な存在。

 楯さんは周囲の怪訝《けげん》な視線なんて一切お構いなしに、俺たちの腕をぐいぐいと引っ張っていく。

 その時だった。

 薄暗い路地裏の影から、いかにも柄の悪い、髪を派手に染めた男たちが三人、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら現れ、俺たちの行く手を完全に塞いできた。


「ねえねえ、そこの可愛いお姉さん。そんな地味でパッとしない奴なんて放《ほ》っといてさ、俺たちと今からいいとこ行って遊ばない?」


 うわ、出た。

 漫画に描いたようなベタなナンパ、というか完全にタチの悪い絡まれ案件だ。

 この空気。俺は苦手だ。

 全身の血の気が引き、完全に身を硬くすることしかできない。

 背後では、黒須さんが俺の制服の裾をぎゅっと掴み、怯えたように完全に隠れてしまっていた。

 どうする、どうすればいいんだ。


「おい、そこのキメぇチー牛。お前だよ、お前。さっきから邪魔なんだよ、さっさとどけ」


 男の一人が大きく舌打ちをしながら、俺の胸元に向けて乱暴に手のひらを突き出してきた。

 ドカッ、と鈍い衝撃が走り、俺の貧弱な体は成す術もなく大きく後ろへとよろめく。

 地味なパズル生活しか送ってこなかった俺には、チンピラの暴力に対抗する術《すべ》なんて何一つなかった。

 アスファルトの地面に倒れそうになる俺を見て、男たちはさらに勝ち誇ったような、下劣で不快な笑い声を響かせる。

 ――しかし、彼らの下らない余裕はそこまでだった。


「……あ?」


 それは、地鳴りのように低く、そして凍りつくほど冷たい声だった。

 声の主は楯さんだった。

 彼女は一歩前へと踏み出し、男たちを正面から見据える。

 その瞬間、それまでの無邪気な笑顔は完全に消え去っていた。

 彼女が放った冷徹極まりない「眼力」は、相手をまさしく蛇睨みにする。

 その凄まじい鋭さは、さっきまで部室で見ていた黒須さんの、パズルへの集中力に満ちた視線など比較にならない。

 まるで本物の修羅場を潜《くぐ》り抜けてきたかのような、凶暴で圧倒的な威圧感がその場を支配した。


「……ッ!? あ、あんた、もしかして、あの……あの『シールド』の……!?」


 さっきまで調子に乗って俺を突き飛ばした男が、楯さんの顔を間近で見た瞬間、まるで怪物を目撃したかのように目を見開いた。

 その顔からは一気に血の気が引き、膝がガタガタと震えている。


「やべえ、本物だ!」


「おい、引くぞ! マジで生きていけなくなるぞ!」


 男たちは先ほどの威勢が嘘のように一瞬にして暗い路地裏の奥へと逃げ去ってしまった。


「あはは! 何あいつら、マジウケるんだけど! 超ビビりじゃん!」


 振り返った楯さんは、何事もなかったかのように、またいつものキラキラとした無邪気なギャルスマイルに戻っていた。

 ……いやいや、今の展開は何なんだ?

 不良たちが怯えていた「シールド」って何なんだ?

 楯だからシールドってことは想像がつくけど、チンピラを怯えさせるほどの異名って……?

 俺たちの静かなクロスワード部に突然やってきたこのギャルは、一体何者なのだろうか。

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