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底辺部活の青春クロスワードパズル~~陰キャな俺と地味子とギャルと……  作者: 秋ヶ瀬胡桃


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24/44

第24話 すごく似合ってたよ!

 また翌日の午後。


「そゆことで、先に帰らしてもらうね。んじゃまたぁ」


「うん、また明日」


 いつもならクロスワード部員三人が同じ時間に下校するのだが、この日は楯さんが家の用事があるからと先に帰ってしまった。

 というわけで、今、俺の隣には黒須さんが並んで歩いている。

 夕日に照らされた通学路。

 二人きりで歩くなんて、これまでほとんどなかったシチュエーションだ。

 ……おかしい。

 緊張のあまり、自分の足と手が同時に出たりして滑稽になっている。

 これってナンバ歩きっていうんだっけ?

 下手な奴が動かすマリオネットみたいに見えているだろうな。

 しっかりしろ、俺。

 クロスワード部での活動が始まってからもう約一ヶ月が経つ。

 部室の中でなら、それなりに普通に会話だってできているはずなのに。


「あ、あのさ、黒須さん。今日のクロスワードのあの問題、結構面白かったよね」


「……うん。濁川君が『カツオ』って気づいてくれて……」


「そうだね。サザエさんに絡めた問題だって気づいて……」


「……そうね」


 会話、終了。

 短い。短すぎる。

 会話のキャッチボールをするつもりなのに、投げ合っているのが砲丸投げの球みたいな感覚なのだ。

 投げてもすぐに地面に落ちてしまう。

 落ちたら拾い上げるのも一苦労。

 楯さんがいるおかげで部活のコミュニケーションが円滑に回っているのだと再認識させられる。

 頑張って俺だけの力で会話のボールを投げなくては!


「ええと、あ、あの、き、昨日の体操服、すごく似合ってたよ!」


「……っ? ……ありがと……」


 黒須さんは顔を赤くして俯いてしまった。

 沈黙がさらに重くなる。

 違うんだ。セクハラみたいに褒めたかったわけじゃないんだ。

 俺のバカ!


 ▽


 俺たちは、以前に不良たちに絡まれた経験から、治安の悪そうな道を避け、安全第一で住宅街のルートを選んで駅へと向かっていた。

 だが、安全なはずのその場所で、異変は起きた。


 キキーーッ!


 激しいブレーキ音とともに、俺たちの行く手を阻むようにして一台の車が急停車した。

 ピカピカに磨き上げられた、不気味なほど真っ黒な高級ミニバン。

 まるで暗黒にタイヤがついているかのように感じられた。

 スライドドアが勢いよく開く。

 中からガタイのいい男たちが四人も現れた。

 全員が黒いスーツにサングラス。耳にはインカム。

 醸し出すオーラは、完全に映画に出てくる絵に描いたようなエージェントか、さもなくば一流の要人警護官だ。

 男たちは一言も発さず、流れるようなプロの動きで、あっという間に俺と黒須さんの周囲を取り囲んだ。

 誘拐犯だ!

 俺はすぐに理解した。

 ターゲットはもちろん大富豪の令嬢である黒須さんに違いない。

 あいつら、武術の達人である楯さんがいないこの瞬間を、完璧に狙い澄ましてきたのだろう。

 俺の足が震えていた。

 心臓が痛いほど脈打っていた。

 だけど、ここで逃げたら男じゃない。

 俺は一歩前に踏み出し、黒須さんを背中に隠すようにして立ちはだかった。

 怯えた黒須さんが俺の制服の裾をぎゅっと握りしめている。

 指先が震えているのが伝わってきて、俺のなかの「守らなきゃ」という使命感を高める。

 黒服の男たちの一人が、サングラスの奥の鋭い視線をこちらに向け、低く冷徹な声で言い放った。


「あなたに用があります。大人しく同行していただきましょう」


 ひぃっ、と喉が鳴る。

 恐怖で声が出ない。

 だけど、黒須さんは絶対に渡さない!

 俺は肺いっぱいに空気を吸い込み、近所の住人に聞こえるように大声で叫ぼうとした。


「誰か……んぐぅっ!」


 叫び声は、言葉になる前に遮られた。

 男の一人が恐るべきスピードで間合いを詰め、俺の口を容赦なく大きな手で塞いできたのだ。


「……っ! ん、んぐぅっ!」


「濁川く……んんーーっ!?」


 俺の名を呼ぼうとした黒須さんも、別の男に瞬時に口を塞がれ、声を出せなくなってしまう。

 まずい。

 このままじゃ、黒須さんが車に押し込まれて連れ去られてしまう!

 俺は男の手を振り払おうと、手足をバタつかせて必死に抵抗した。

 だが、相手は本物のプロだ。

 ビクともしない。

 岩のように強固な力で、俺の身体は簡単に拘束されていく。


(クソッ……! 結局、俺は何もできないのかよ……! 悔しい、悔しすぎる……!)


 自分の無力さに涙が出そうになった、その時だった。

 フワリと、俺の身体が宙に浮いた。

 男たちに抱え上げられ、そのまま黒いミニバンの後部座席へと放り込まれる。


「え……?」


 呆然とする俺の視界の中で、車のドアがバタンと閉まった。

 窓の外を見ると、そこには口を塞がれたまま、唖然とした表情で立ち尽くしている黒須さんの姿があった。

 男たちは黒須さんを拘束するのをやめ、その場にポツンと残したまま、全員が車に乗り込んできた。

 そしてミニバンは、凄まじい加速でアスファルトを蹴り、走り出したのだ。

 ……おい、ちょっと待て。

 誘拐犯のターゲットって、お金持ちの令嬢である黒須さんじゃないの?

 なんで俺だけが拉致されて、黒須さんが見送る側に回ってるんだ?

 こいつら、優秀そうに見えて、男と女の区別もつかないポンコツなのか?


「あ、あの……皆さん、人違いでは……?」


 恐る恐る尋ねる俺に、隣に座った黒服の男はサングラスをクイと上げ、冷酷に、しかしどこか恭《うやうや》しく告げた。


「いえ、濁川様。あなたで間違いありません。――我が主《あるじ》がお待ちです」


 えっ、我が主って誰だよ!

 俺の混乱は最高潮に達していた。

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