第12話 クロスワード部の部誌?
「とりあえず、これで百部。完成だな」
百冊の薄っぺらい冊子とはいえ、初めてのこともあり、作るのは意外と大変な作業だった。
よく見ると、ホチキスの留める場所が少し中心の折り目からずれている冊子も何冊かあるが、気にするほどでもないだろう。
むしろ、素朴な手作りっぽさが出ていて学生らしいかもしれない。
机に積み上げられた百冊を見下ろし充実感を覚えつつも、俺は極めて重要な問題に気がつく。
「ねえ。これの値段を決めてなかったよね」
「えっ? 値段?」
楯さんがホチキスに体重を預けたまままま、きょとんと目を丸くした。
「あ……。そういえば、決めていませんでしたね」
黒須さんも、部誌の山を整えながら顔を上げる。
「うーん、創刊号だし、ページ数もそこまで多くないじゃん。今回は無料で配っちゃうのはどう? もし好評だったら、次からページを増やして一冊数十円とかで売ればいいしさ!」
「確かに、まずは手に取ってもらうのが先決か。黒須さんは?」
「はい、私も楯さんに賛成です。まずはクロスワードを楽しんで欲しいので」
満場一致で、創刊号は無料配布に決定した。
となれば、次は、いつ、どうやって配るか、だ。
「よし、じゃあ決行は明日の昼休み! 校庭の手前の渡り廊下あたりで配りまくろう!」
拳を握る楯さんに、俺は作戦を確認する。
「配布するメンバーは……当然、俺たち三人だよな?」
「うぅ……っ。わ、私は、その……」
途端に、黒須さんがもじもじとし始め、消え入りそうな声を出す。
「人前で目立つのって、その、恥ずかしくて……。ごめんなさい……」
「えーっ、黒須ちゃん何言ってるの! 黒須ちゃんめっちゃ可愛いんだから、看板娘としてそこに立って呼び込みするだけで、男子が群がって一瞬でハケるよ!」
「む、無理です……っ! 私なんかが人前に出たら、緊張で頭が……!」
涙目になってぶんぶんと首を振る黒須さん。
ああっ、いじらしい。これ以上無理をさせるのは酷というものだ。
「しょうがないなあ。黒須っちがそう言うなら」
「となると、配布は楯さん一人でということに……」
「えーっ、なんで濁川も抜けることになってるわけ?」
「いや、だって、俺みたいなのが何か配ったって誰も相手にしてくれないだろうし、大変だろうけど、楯さん一人で配ったほうが効果的かと」
「だーめ! あんた、ぶっちょぶちょの部長でしょ! 二人でやるの! はい決定!」
「う、うん……(ぶっちょぶちょって何だよ……?)」
楯さんの強引な押しに負け、結局、俺も一緒に渡り廊下に立つ羽目になってしまった。
ギャルな楯さんと陰キャな俺が並んで冊子を配るのか。
想像するとバランスの悪い奇妙な光景だ。
変な目で見られそうで、ちょっと怖い。
▽
そして迎えた翌日の昼休み。
俺たちの前に積まれた百部の『交語家』。
「よーっし、いくよ! ――おーいみんな! 新設のクロスワード部特製、激レア部誌の創刊号だよー! 今ならなんとマジで無料! タダでもらえちゃうよー!」
さすがは楯さん、驚くほど声が通るし呼び込みが上手い。
最初は遠巻きに見ていた生徒たちも、彼女の明るい声につられて次々と足を止め始めた。
「え、クロスワード部の部誌? 何それ面白そう!」
「あの楯が何か配ってるじゃん。どういうことだ?」
「ねえねえ、私にも一冊いいですか!」
気がつけば、俺たちの前にはちょっとした人だかりができていた。
「あ、ありがとねー! はい、そっちの君もどうぞ!」
人に囲まれた中での楯さんは光り輝いている。
天性のスターなのかもしれない。
スクールカーストトップと呼ばれるだけのオーラがある。
一方、俺はといえば、
「あ、どうぞ……。無料です……」
と、ただの自動配布マシーンと化していた。
でも、特に変な目で見られることはなかった。
集まった生徒たちは、俺を楯さんの助手ぐらいにしか認識していないのかな。
「うわあ、もらっちゃったあ」
一人の女子生徒が嬉しそうに俺から冊子を受け取ってくれた。
目を輝かせて俺に一礼して走り去る。
あれ? もしかして、俺も人気ある?
そういえば、この前も女子二人組が好意的に接してきたし。
やっぱりクロスワードブームが俺の人気までもたらしているのだろうか。
「うわ、もうラスト一冊! はい、お買い上げ! って、無料だけど」
楯さんが最後の部誌を男子生徒に手渡した瞬間、百冊あった山が綺麗になくなった。
時計を見る。
……まだ昼休みが始まって数分しか経っていない。
「う、嘘だろ……。もう全部なくなっちゃったぞ」
「やったぁーー! 大・成・功!」
楯さんがハイタッチを求めて手を掲げてくる。
俺がパチンと合わせると、彼女は満面の笑みを輝かせた。
教室の陰からこっそり様子を窺っていた黒須さんも、胸の前で小さく拍手をしながら、ホッとしたように微笑んでいる。
受け取ってくれたみんなが、本当にこのクロスワードを解いて楽しんでくれるかは、まだわからない。
だけど、最近巻き起こった突然のクロスワードブームの風は、確実に俺たちの背中を押し始めていた。




