7、忍びとの出会い
小一郎が稲に連れられて屋敷から出ると、そこには人の良さそうな平凡な顔立ちの男が待っていた。
「望月出雲守重貞にござる。小一郎様の話を忍び衆に聞きましてな。是非仕えたいと思った次第。一族郎党世話になってもよろしいでしょうか」
「……是非もない。忍び衆は欲しいと思っていたのだ。銭ならある。良いのか。俺は二歳。百姓の倅に過ぎぬが」
「何の。六角に仕えていても御家が滅ぶのみ。かつて木曽義仲公を天下人に押し上げた望月一族。小一郎様の器量は木曽義仲公に優るとも劣らぬと考えております」
木曽義仲……かつては京すらも手に入れた源氏の御曹司。その覇業には望月一族がいたと言われる。小一郎はじっと出雲守の目を見た。
忍びとは思えない。ただしなやかに生きてきた強い意志を持った男であると伝わった。
「嬉しいことを言ってくれる。六角定頼を捨てたいならそうするが良い。尾張も血なまぐさくなっていた。身の回りの世話を頼もう。甲賀衆の屋敷も作らねばな。まずは美濃だ。出雲守殿はどう見る?」
「御家が割れるのは必定でございましょう。土岐一族は野心並に非ず。そこに織田信秀殿の付け入る隙があるかと存じる」
小一郎は深く頷く。美濃では家臣が台頭し、土岐家の力は弱まっている。一族間の暗闘は噴出しかねなかった。小一郎は望月一族を預かり、中村を拠点とすることにした。こうして小一郎は待望の忍び衆を手に入れたのである。
那古野城。滝川一益は城下町の様子を眺めながら、満足そうに頷いた。
「小一郎は忍び衆を手に入れたが、そなたの差し金かの」
後ろから不意に声がかかる。主君・織田信秀であった。
「はい。ここは小一郎に力を与えねばなりませんぬ。土岐との戦いでも奴らは捨て駒として使えまする」
ニヤリと一益は笑みを見せる。対して信秀は険しい表情をしていた。
「なるほどのう。その方は清洲方に対する盾として小一郎を使おうと言うことのう。望月も使い潰すと申すか」
「御意。これから美濃を攻め取り、天下に覇を唱えようという時に木下弥右衛門の如き信用できぬ男は不要でしょう。今川と内通して謀反を起こすことも限りませぬ」
信秀は軽く溜め息をつく。
「そなたは忍びとして当家の役に立っておる。しかしの、小一郎の器量を見誤ってはなるまい。儂らが小一郎の家臣となり、手足となるということができぬか」
「小一郎が我らの主君ですと!そんな馬鹿な!」
滝川一益がわなわなと震えはじめる。目を見開き、信秀を凝視した。
「……これからは吉法師が織田家当主となる。覚悟せよ。久助よ。これからはもっと乱世となる。それで織田で乗り切れるじゃろうか。美濃には数多の名将がおる。攻め取ることは難しいぞ……久助よ。小一郎と仲良くせよ。捨て駒と思うことなかれ。小一郎こそ、織田の活路を開いてくれるかもしれん」
滝川一益は息を飲む。織田信秀は力なくその場を去る。滝川一益の顔からは笑みが消え、顔には焦燥の色があった。時は十二月を過ぎ、年末に近づきつつある時であった。




