5、中村開発
天文十年(1541年)も十一月を過ぎ、冬となった。尾張中村の地は商人が行き交い、活気が感じられる村になっていた。
元々(もともと)宿場もあったが、さらに人は増えている。村の外の移住者も増えていた。
「熱田・津島との荷は滞りなく通っておりまする」
「うむ……」
小一郎の報告に田畑に目をやる滝川久助一益は言葉少なく返す。信秀に仕えながら吉法師の家臣もしている少年は目の前の化け物を見る。
童とは思えぬ……。
久助は唸る。重臣の中には軽んじる者もいると聞くが、実物は噂以上だ。
「中村から兵は出せまする。久助様、織田家は美濃攻めを行うのでしょうか」
久助は目を見開く。織田家が美濃攻めを考えていることは事実だ。そのために今川家とは同盟を結び、東に敵はいない。また、安城城には吉法師の兄である織田信広を置き、今川への備えは万全だ。
織田家が美濃を攻め取ろうとする野心を見せるのも必然と言えよう。
この美濃攻めにおいては清洲織田も那古野の織田も協調関係にあった。
「する。土岐家は身内で揉めている。美濃を攻め取る機はある」
久助が断言する。こんな童に教える必要はないが、小一郎は賢い。教えても損はないと久助には思えた。
「では戦になりますな……」
小一郎の笑みは深くなる。久助は悪寒を感じる。また悪巧みだろう。主君の信秀と吉法師の親子も小一郎に夢中になっている。
「取り合えず、中村の領内のことはそなたに任す。足りなければ俺がそなたを守ろう。何しろそなたは吉法師様の軍師じゃからな」
「有り難き幸せ。痛み入りまする」
小一郎は頭を下げる。滝川久助一益は尊大な態度を取りながらも内心は小一郎に怯えていた。
小一郎は屋敷に戻ると、祐筆に命じて書状の作成を命じる。宛先は美濃の武将だ。織田信秀の勢いに美濃の武将たちも心動かされる。
そのうちの何人が応じるのか。
次は産業振興だ。木下家は織田家に働きかけて税の免除を申し出ている。中村に人を集め、商人の村を作る。
こんなことは戦国シミュレーションゲーム廃人の小一郎にとっては朝飯前だ。
徴兵もしている。浪人を雇い、木下屋敷の防備を固める。それから滝川一益ら吉法師側近の懐柔もしている。
小一郎の日々は満ち足りていた。
新しい村を作ることは小一郎の得意とするところだ。これで野盗は手を出せなくなる。
小一郎は算盤を取り出すと勘定を始める。うかうかしていると清洲の坂井大膳らが調略を仕掛けてくる。魑魅魍魎の跋扈する織田家のことだ。身辺にはよく気を付けないといけない。
小一郎は尾張国外にも目を向けた。伊勢の北畠、近江の六角、越前の朝倉、駿河の今川といった大名家との取り引きも考えている。凶作だった地域に米を売りにいく。そうすると感謝されるし、利益も出る。今は戦国時代である。大名たちは何よりも兵糧を欲しがっている。そこに中村の百姓が行って商売する。
小一郎はほくそ笑む。武士にできない柔軟な発想だ。他の地域を出し抜いて中村は豊かになっていく。
来年の秋を待たなくても銭で蔵がいっぱいになる。
小一郎のおかげで吉法師は家臣団に注目されているという。数ある信秀の息子たち中で後継者レース一番乗りを果たしそうだ。
小一郎の領地開発は順調だった。これで、冬は無事に越せる。小一郎は再び笑みを深くするのだった。




