3、幼女の助太刀(すけだち)
客室なのだろう。土佐守は部屋の中に入る。目の前の二歳の童子はニコニコと笑っている。
土佐守は身震いするのを感じる。この童子は得体が知れない。主君・織田信秀が買うのも分かるというものだ。
「我ら中村の者は備後守様に御味方したく思っています。そして村には柵と門を築き、城も作ろうと思っています」
城……雑兵の倅の考えることではない。土佐守は驚きのあまり、立ち上がろうとすら思った。
「……良い。そのほう、器量良しと見る。何なりとこの土佐守に申すが良い」
ニッコリと笑いかける土佐守、童子はニヤリと唇の端を吊り上げる。これ程の大器が中村にいたとは……。
土佐守は息を整える。この童子は敵に回してはならん。そう思う。敵になれば一族は根絶やしにされるだろう。それ程の厳しさも秘めている。
「分かりました。何卒、今後ともよろしくお付き合いください」
小一郎の言葉に頷くことしかできない。土佐守は完全に小一郎の術中に嵌っていた。
会談が終わって廊下に出ると小一郎はうんと背伸びする。ニコッと笑うと可愛らしい童子がそこにいた。
「姫、そこにいたのか」
幼女がひょっこりと顔を出す。将来美女になるであろう幼女であった。幼女はにやりとすると小一郎の後をついてくる。
「ねえねえ、何の話だったの。小一郎ってば」
「土佐守殿の兵を中村に入れる。清洲方に攻め込まれないようにな」
「清洲が攻めてくるですって」
姫が甲高い声で話す。小一郎はくるりと振り返る。
「土佐守殿は武勇において比類なき男。その家臣に中村の兵に稽古をつけてもらう。皆、死んだ目をしていたのが生き返るぞ」
「中村が戦場になる……嘘でしょ」
「備後守殿は敵が多いからな。そうそう、美濃でも国人衆が謀反を起こそうといるし……やはり足利がいても駄目だな。清洲方も美濃の武将たちも己のことのみ考える。幕府は後手後手に回ってしまう」
「これからどうなるのかしら。不安だわ。中村はどうなっちゃうのよ」
小一郎は幼女に向き直る。幼女は泣きそうになりながら、小一郎を見た。
「大船に乗ったつもりでいろ。姫、お前は俺が守る。兵も増やす。城も作る。田畑もな。忙しくなる。姫にも手伝ってもらおう。良いな?」
「うん、分かったわ。中村の幼い女たちには私が声をかけるわよ。これでも代官の娘だから顔が利くわ」
「ああ、任せた。さて、兵たちの調練を見ないとな。あと蔵から施しを与える。ふう、忙しくなるのぅ」
小一郎は声を上げて笑う。姫もつられて笑った。幼女たちを味方にした小一郎は村での一大勢力を築きつつあった。
読了有り難うございます。
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