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第3話 白い結婚、ニートライフ最高!

メイベルの朝はお城の尖塔のてっぺんにある自室で始まる。


日当たりと眺望は最高。

元はゼノスの前任の宮廷魔法使いの部屋だったらしい。

窓の外ではワイバーンが悠々と飛んでいる。


(最初はびっくりしたけど、慣れれば鳩みたいなもの……それにしても、ここは……天国……)


無茶な姉たちもいない。

不貞腐れた使用人もいない。

ヤバすぎる借金取りもいない。


ただ起きて、食べて、寝るだけ。


これ以上の環境があるだろうか。

(ないわ……)

メイベルは寝起きのぼーっとした頭の中でつぶやいた。


「奥様、朝食をお持ちしました」


朝食を侍女のゴブリン少女が持ってきてくれる。


「うーん」

メイベルは眠い目をこすりながら天蓋付きのベッドから這い出た。


テーブルにはあたたかいトーストされたサンドウィッチと具沢山のスープ、ゆで卵。そして紅茶。


「これは?」

「コカトリスのローストサンドだそうです」

「いいわね」

(……見た目は怖いけど、肉になってしまえばただの美味しい地鶏)


すっかり日の昇った窓からは爽やかな朝日が差し込む。

メイベルはサンドウィッチを頬張った。

ジューシー、そして香ばしい香りが口の中に広がる。


(朝からこんないいもの食べていいのだろうか……)


実家の主な朝食だった薄いオートミールが脳裏をよぎる。

味付けはもちろん塩だけ。


メイベルはブルっと頭を振った。

(いや、いいのよ! これこそ白いニートライフ!)


「今日のお召し物はこちらに。お出かけ用の馬車の準備はできているそうですので、いつでもお声がけください」

「ありがとうゴブ美ちゃん」

メイベルは紅茶を啜りながら答えた。


ゴブ美は深々と頭を下げた。

「では私はこれで失礼致します」

部屋の隅にあるガタガタと怪しい音を立てる古代ドワーフの昇降機に乗り、下の階層へと降りていった。


◇◇


アレクシスは部下のフロイドと中庭を歩いていた。

フロイドはメイベルが魔王軍幹部Dと(勝手に心の中で)名付けたイケおじ軍師だ。


「何をやっている」

視線の先ではメイベルとゴブ男が馬車に荷物を乗せている。

「メイベル殿は薬草採取が趣味のようですな。今日もおそらく」

「ふむ」

「薬効は確かなので兵たちには喜ばれております」


アレクシスはメイベルを見つめ、目を細めた。


「そうか」

「少しは興味を持たれては?」

「この後の軍議が終わったらな」


メイベルを乗せた黒ユニコーンの馬車が二人の側を通り、城門へと向かって行く。

「ごきげんよう、閣下!」

メイベルの笑顔の会釈に、アレクシスは苦笑いで答えた。


◇◇


「かなり採れたし、そろそろ終わりにしましょうか」

「ハイ奥様」

メイベルとゴブ男は薬草取りの手を止めた。


周囲には青々とした草原が広がっている。

今日の薬草採集は城から離れた丘陵地帯までやってきていた。

もちろんオークの操るユニコーンの馬車に乗って。


「お昼にしましょう」

オークの「オー吉」はパラソルを広げ、テーブルを準備する。

ゴブ男はシェフ特製のシチューをコンロで温め始める。

ワインクーラーから冷えたワインも取り出す。

ユニコーンの「ドリル」は勝手にその辺の草を食べていた。


「あのマンドレイクは危なかったわね」

メイベルは皿によそられた大トカゲのシチューを頬張りながら、先ほどのピンチを思い出していた。

「ハイ奥様、マダ耳ガ、痛イデス」


メイベルは薬草採集に夢中になっていた。


そして調子に乗って刈っているうち、生えているマンドレイクを踏んづけてしまったのだ。


マンドレイクは人の形をした根っこがある、引き抜くと恐ろしい悲鳴を上げるとされる植物だ。


「私もまだ頭がキンキンする……場所は覚えておくわよ。あんな魔力草が生えてるなんて、私初めて見た。さすがは辺境ね」


(それにしても……ただで取り放題なんて最高! 手強いライバルもいないし、全然荒らされてないわ)


なにしろ辺り一帯すべてがアンブロウス辺境伯の領地。

王都周辺の公共用地とは違う。


(ついついお金になりそうな薬草を選んでしまうけど、それはもうやめよう)


美味しいシチューと軽く炙ったバゲット、そしてワイン。デザートのワイルドベリーのパイも平らげ、お腹いっぱいになったあとは——


(あの夜、私が熊に食われるって言ってたあの人たち……残念でした! オークは頼もしい護衛で、執事に傅かれた私はこれからお昼寝です!)


「ゴブ男、半刻くらいで起こして頂戴」

「ハイ、奥様」


メイベルはふかふかの毛布を被り、オー吉の広げたコットで横になった。


青い空に鳥のさえずる声が響く。


白い雲がゆっくりと流れて行く。


その隙間から太陽が照らす緑の草原。


爽やかな風が吹き抜けて行った。


◇◇


趣味と実益の薬草採集の帰り道。

ドリルの引く馬車はいつものように猛烈な速度でぶっ飛ばす。

しかし突然スピードが落ちた。


(なにかしら……)


道の向こうから、二人の子供がトボトボ歩いてくる。

人間ではなさそうだ。

モフモフしている。


「コボルトノ、子供デス」

「ちょっと止めて」

子供の一人は足を引きずっていた。


メイベルは馬車を降り、モフモフの子供たちの前に立った。

「怪我をしているようね、ちょっと見せなさい」

二人の子供はブルブルと震えだした。

「サラワナイデクダサイ、ト言ッテイマス」

「ぶっ!」


(ゴブリンとオーク、目つき最悪ユニコーンと黒い馬車、ついでに私。確かにどう見ても人さらい……)


「大丈夫、手当するだけだから」

ゴブ男が何かをしゃべると子供たちの緊張が少し緩んだ。

「なんて言ったの?」

「アンブロウス辺境伯ノ奥様ガ、手当シテクレルト」


(へー。閣下の名前は信用あるのね)

メイベルはちょっとだけ感心した。


メイベルはテーブルを広げ、先ほど採取した薬草の一つを手早く処理する。

そしてコボルトの子供の傷口を大量の水で洗った。

薬草を塗り、包帯で縛る。


「どう?」

反応はない。


「ん!? まちがったかしら…」

メイベルは焦りながら手元の本をめくる。

「これでいいはずなんだけど」


「痛ミガ消エタソウデス」

ゴブ男が通訳した。

子供は驚いたような表情でメイベルを見つめた。

ゴブ男と何かを話すと、立ち上がり走り去る。


「アリガトウ、ト、イッテイマス」

二人の子供は何度も頭を下げると、走り去った。


「包帯は明日の朝には外すのよー!」


◇◇


再び飛ばす馬車はすぐに街にたどり着いた。


いつものように堀の吊り橋を渡り、城の中庭に止まる。

オー吉がドリルを馬車から外した。

ドリルは勝手にユニコーン小屋に歩いて行った。


中庭では城の兵士たちが集まって焚き火を取り囲んでいた。


メイベルを見つけると、戦士長のガルドが近づいてきた。


「おっ、メイベル、お疲れ! どうだった薬草採集の首尾は?」

「ええ、ちょっと離れたところに行ったから十分に採れたわ」


「助かるぜ! 今日も激しい訓練で負傷者続出でな!」

ガルドは周辺で食事をとる兵士たちを眺め、豪快に笑う。


「ガルド、あれはなに?」


メイベルの視線の先——

牛ほどもある巨大な獣が丸太に串刺しにされ、下の焚き火で炙られている。


「魔豚さ。演習中に見つけて、仕留めたんだ」

ガルドは手に持った木の皿の肉をフォークで刺し、ガブリと喰らいついた。

「うまいぞ! お前も食え!」


「後ホド、奥様の部屋ニモ、オ持チスルソウデス」

ゴブ男が肉を回している料理長のサイクロプスの通訳をする。


「冗談でしょ? こんな野趣溢れる美味しそうな代物をお部屋で食べろですって?」

メイベルはワゴンの上の兵士用の皿とフォークを引っ掴んだ。


魔豚のそばの兵士に近づき、話しかける。

「私にもここ頂戴!」

「えっ!? 奥様が!? はっ!」

兵士は一瞬躊躇するが、腰の短剣で肉を切り出し、メイベルの皿に乗せた。


メイベルはその肉をフォークで刺し、ガルドのように食らいついた。

「う、うま……」


(ちょっと何これ脂が甘い! 焚き火の香ばしさとジューシーな肉汁が殴りかかってくる! 王都で食べる気取ったローストビーフの何倍も美味しい!)


「……それはなに?」

「蜂蜜酒です、ホップ入りの」

「奥様ニハ、冷エタ葡萄酒ヲ用意……」


「ええい、それもよこしなさい!」

メイベルは配っていた兵士から木のジョッキをひったくるように奪った。

そして周囲の視線を物ともせず、一気に煽った。


「くぅーっ!」


( 五臓六腑に染み渡る! 薬草採取で歩き回った体に、このガツンとくるアルコール、蜂蜜の甘み、それにホップのほろ苦さは……まさに悪魔!)


おぉー!と周囲の兵士たちがどよめいた。


「メイベル食べてばっかりw」とか「ゴブ美ちゃんかわいい!」と思っていただけた方は、ぜひページ下部の【★★★★★(星)】(5コで!)と【ブックマーク】をぽちっと押してやってください。

メイベルの朝の飲み物が蜂蜜酒になるかもしれません(執筆の原動力)!

(感想は「朝から酒はよせ!」とかでもオッケーですのでぜひ!)

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